リアナビ

スペシャリストの眼

「斜め45度」の視点

2016年2月9日

第201回傾斜マンション事件の「主要スケジュール」

 歯の詰め物が取れたため、1 月中旬に歯科医院に行ったところ、女性の歯科医師から「傾斜マンション問題」をレクチュアされる一幕があった。

 医師「この詰め物は古い素材なので、最新の素材にしましょうね」

 私「分かりました」

 医師「歯の根元も痛んでいますね。どうすればいいか分かりますか」

 私「分かりません」

 医師「痛んでいる根元に、新しい詰め物をするだけでは、不十分ということです」

 私「?」

 医師「傾斜マンションの話を知ってるでしょう」

 私「はい」

 医師「杭(根元)が弱いのに、建物(詰め物)だけ丈夫にしても、仕方がないでしょ」

 私「そうですね」

 医師「歯の根元を削って、きちんと固めてから、新しい詰め物をしましょうね」

 私「分かりました」

 私は口を大きく開けたまま、医師の診察を受けている最中だったので、いわば一方通行に近いやりとりだった。ここで初めて私はきちんと話せる状態になった。

 私「先生は傾斜マンションに興味を持っているんですか?」

 医師「杭の話に例えると、皆さん分かりやすいようなんです」

 歯科医院で患者とコミュニケーションするための素材として、傾斜マンション事件が活用されているとは思わなかった。 

 さて、当時の三井不動産(現・三井不動産レジデンシャル)が分譲した傾斜マンション「パークシティLaLa横浜」の事件は、どうなっていくのだろうか。4つのレベルで「前半期の主要スケジュール」を予想した。

 【国交省レベル】

 国交省は1月13日、建設業法に違反したとして施工3社を処分した。

 三井住友建設──指名停止1カ月。

 日立ハイテクノロジーズ──営業停止15日。

 旭化成建材──営業停止15日。

 今後は「LaLa横浜」事業主の三井不動産、および確認検査機関2社(日本ERI、ハウスプラス住宅保証)が処分されるか否かが1つの焦点になる。

 【横浜市レベル】

 横浜市の指示により、三井住友建設と三井不動産レジデンシャルは、建物を支えている杭をさらに詳しく調査する。調査自体は1月にスタートしたが、調査結果の発表は当初予定された3月末ではなく、4月にずれ込む可能性が高い。

 杭の施工不良の原因としては「支持層の凹凸見逃し」説、「地盤沈下」説、「既存杭悪影響」説、「ダイナウィング工法ミスマッチ」説の4説がある。今回の調査は、このうち主に「支持層の凹凸見逃し」説だけを対象にしている。

 したがって、調査結果が発表されたとしても、「内容が不十分」と判断される可能性がないわけではない。

 【管理組合レベル】

 今年1月に行われた区分所有者705戸を対象にしたアンケートでは、全体の89%に当たる628戸が全棟建替を希望していると回答した。これは区分所有法で全棟建て替えに必要とする「5分の4以上の賛成」を超えている。

 このアンケート結果にもとづいて、管理組合は2月下旬に総会を開催。全棟建替を決議する方針である。

 【関係4社レベル】

 三井不動産レジデンシャルは2015年10月31日に、管理組合に対して自発的に「全棟建替を基本的な枠組みとする解決案」を提示した。したがって管理組合が正式に決議すれば、同社は必要な費用を支払う義務を負っている。

 問題はそこから先である。三井不動産レジデンシャル、三井住友建設、日立ハイテク、旭化成建材の関係4社は、数百億円とされるこの費用を、何を根拠にして、どんな割合で負担するのか。厳しいデスマッチになると予想される。

 なおマンション販売主は三井不動産(横浜支社)と明豊エンタープライズの2社なので、三井不動産レジデンシャルが明豊に対して、負担を求めることも考えられる。

細野 透(ほその・とおる)

建築&住宅ジャーナリスト。建築専門誌「日経アーキテクチュア」編集長などを経て、2006年からフリージャーナリストとして活動。  東京大学大学院博士課程(建築学専攻)修了、工学博士、一級建築士。日本建築学会・編集委員会顧問。 ブログ『建築雑誌オールレビュー』を主宰。日経産業新聞『目利きが斬る・住宅欄』に寄稿。  著書に、『建築批評講座』(共著、日経BP社)、『建築家という生き方』(共著、日経BP社)、 『ありえない家』(日本経済新聞社)、『建築産業再生のためのマネジメント講座』(共著、早稲田大学出版部) 、 『耐震偽装』(日本経済新聞社)、『風水の真実』(日本経済新聞出版社)ほかがある。


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