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スペシャリストの眼

「斜め45度」の視点

2018年7月10日

第289回経産省が選定した「IT活用に積極的な不動産関係5社」の名前

 経済産業省は東京証券取引所と共同で5月30日、「攻めのIT経営銘柄2018」32社、および「IT経営注目企業2018」22社を発表した。

 これは東京証券取引所の上場会社の中から、IT活用に特に積極的な企業(攻めのIT経営銘柄)と、それに準じる企業(IT経営注目企業)を選定し、広く周知しようとする試みである。

 このうち「攻めのIT経営銘柄2018」には、不動産に関係する企業として大京、レオパレス21、LIFULL、TATERU、大和ハウス工業の5社が選ばれた。順に見ていこう(以下の図は、経産省の公表データから引用)。

【大京】
 同社はAI(人工知能)の活用、レガシーシステム(従来の技術基盤により構築されているコンピュータシステム)の改善、アイデアファーム(社内から広くアイデアを募集し、それを育て、実現を目指すプロジェクト)などに積極的に取り組んでいる。

 そしてAI活用の対象は実に多様である。

 一 受付で人工知能を組み込んだコンピュータが、人間に代わって対話する「AIチャットボット」

 二 管理員やコンシェルジュが不在の時に、居住者や管理組合の問い合わせに音声対話型サービスで対応する「AI管理員」、「AIコンシェルジュ」

(AI管理員とAIコンシェルジュ)

 三 マンション住戸内の設備機器の故障に対応する「AI画像認識技術」

 四 顧客との商談の内容を記録する「AI音声認識技術」

 五 AIを活用したDM発送の効率化

 六 AIによる物件価格想定

 注目したいのは、AIの活用に際して、「アイデアファーム」を重視していることだ。

(「アイデアファーム」の呼びかけ)

 この「アイデアファーム」とは、専用サイトに個人が自由にアイデアを投稿。社内で100の「いいね!」を獲得すると、事業化の検討を行う仕組みである。「いいね!」が100に満たない場合でも、担当部署が検討することがあるという。

(大京。攻めのIT経営「5つの評価軸別取組み」)

【レオパレス21】
 同社は、顔認証のみでエントランスのロックを開錠できるシステムを、2017年7月竣工の「LOVIE 麻布十番」(東京都港区)、2018年1月竣工の「LOVIE 銀座東」(東京都中央区)に導入した。これは賃貸業界としては初の試みという。

 事前に登録されている居住者が、エントランスに備え付けられたタブレットPCの前に立つと、瞬時に顔を検出・認証。それに成功すると、自動ドアのオートロックが開錠される。

 両手に荷物を持っているような状態でも、顔を近づけるだけでロックが開錠される。このため、ICカードやICタグを常に持ち歩かなければならない、というストレスからも解放される。

 検出した顔画像や照合した結果はログとして残すことができる。それゆえに防犯上の効果もあり、顧客の満足度向上にもつながるという。


 顔認証システムに加えて、不動産業界で初めて、AIを活用した賃料査定システムを導入した。それにより、全国約57万戸の管理物件の現在価値を、1部屋ごとに機械的に算出することが可能になるという。

(レオパレス21。攻めのIT経営「5つの評価軸別取組み」)

【LIFULL】
 LIFULL社は不動産ポータルサイト『LIFULL HOME'S』の運営会社である。

 不動産取引の契約時に行う重要事項説明は、従来は原則として「対面」で行う必要があった。しかし2017年10月から、賃貸物件に関してはオンライン上で対応できるようになった(IT重説)。

 同社はそれに合わせて、オンラインでの内見が可能な専用アプリの提供を開始した(下の図)。

 専用アプリを使用したIT重説の実施数は、2018年3月度で月間約2000件に達している。その結果、住み替え希望者および不動産事業者双方にとって、手間やコストや時間的制約などの軽減に役立っているという。

 LIFUL社はまた、カイカおよびテックビューロと共同で、不動産情報の一元化に対する「ブロックチェーン技術」の有効性を確認するため、実証実験を進めている(下の図)。

 「ブロックチェーン技術」とは、「ブロック」と呼ばれるデータの単位を一定時間ごとに生成し、鎖(チェーン)のように連結していくことによって、データを系統的に保管する技術を意味する。

 日本では現在、不動産情報の統一データベースが存在しない。その結果、不動産物件や所有者などに関する情報は、各機関や個別事業者に分散したままになっている。それら分散した情報を「ブロックチェーン技術」によって一元化。空き家の所有者不明問題などの解決や、不動産市場の活性化に貢献したいとする。

(LIFUL。攻めのIT経営「5つの評価軸別取組み」)

【TATERU(旧:インベスターズクラウド)】
 TATERUグループでは、「アプリで始めるIoTアパート経営(TATERU Apartment)」を中心に事業を展開。その会員数は15万人超、管理戸数は1万9000戸超という。

 同社は入居者、オーナー、PM(賃貸管理)の3者のコミュニケーションの円滑化を目指して、「Apartment kit」を開発した(下の図)。

(TATERU。攻めのIT経営「5つの評価軸別取組み」)

【大和ハウス工業】
 同社は「Daiwa Connect」を2017年11月に立ち上げた。これは家のIoT化を進め、様々な住宅設備や家電をつなげることで、より利便性が高い暮らしを目指す「コネクテッドホーム」のブランドである。

 その第一弾として、AIスピーカーを活用して、様々な機器を組み合わせたコネクテッドホームを商品化し、2018年1月からPRを開始した(下の図は、そのイメージ)。

 それに加えて同社は、人を中心とした既存の物流構造の課題解決に向けて、2017年11月にダイワロジテックを設立。ロボット、人工知能(AI)、ビッグデータを駆使して、物流の効率化や自動化の実現を目的に、新しいロジスティクスのビジネスモデルの創出に取り組んでいる。

(大和ハウス工業。攻めのIT経営「5つの評価軸別取組み」)

細野 透(ほその・とおる)

建築&住宅ジャ─ナリスト。建築専門誌『日経ア─キテクチュア』編集長などを経て、2006年からフリ─ランスで活動。

東京大学大学院博士課程(建築学専攻)修了、工学博士、一級建築士。

著書に、『建築批評講座』(共著、日経BP社)、『ありえない家』(日本経済新聞社)、『耐震偽装』(日本経済新聞社)、 『風水の真実』(日本経済新聞出版社)、『東京スカイツリーと東京タワー』(建築資料研究社)、 『巨大地震権威16人の警告』(共著、文春新書)、『謎深き庭 龍安寺石庭』(淡交社)など。


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