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スペシャリストの眼

「斜め45度」の視点

2011年12月22日

第52回長周期地震動に対する「国交省試案」

 マンションの耐震性を考えるとき、これまでは1981年に施行された「新耐震設計基準」を、ひとつの物差しにしていた。それに加えて、超高層マンションに関しては、国土交通省による「長周期地震動への対策試案」または「新・対策試案」が、今後の新たな物差しになると考えられる。

 「対策試案」とは、東日本大震災が発生する前の2010年12月に、国交省が公表したもので、正式には「超高層建築物等における長周期地震動への対策試案」と呼ぶ。

 この「対策試案」によると、新築される超高層建築については、「東海地震、東南海地震、宮城県沖地震という3地震を対象にして、長周期地震動を考慮した設計用地震動によって構造計算する」ことを求めていた。また、既存の超高層建築については、「3地震による長周期地震動の影響が大きいものは、再検証や補強を要請する方針」とした。

 そして、2011年4月頃に施行される予定だったが、大震災の発生によりいったんストップ。現在は、大震災の影響を分析して、再検討している段階だ。場合によって、内容がさらに強化されて「新・対策試案」となり、早ければ来年4月頃に施行される可能性もある。

 したがって、今後は、(a)「対策試案」を満たさないマンション、(b)「対策試案」を満たしたマンション、(c)「新・対策試案」を満たしたマンション、という3種類に分かれることになる。

 私は、専門紙に持っている「住宅コラム」で、大震災後にはじめて取り上げる超高層マンションとして、安田不動産・東急不動産・東京建物による、「ワテラスタワーレジデンス」を選んだ(記事は7月19日掲載)。それは、設計が佐藤総合計画、施工が大成建設という一流の陣容から判断して、「必ず、国交省の対策試案を先取りしているに違いない」と確信したからである。

 しかし、取材の当日、企画担当者も販売担当者も私の質問に答えられなかった。販売用パンフや、大震災後に作られた補足資料のどこにも書いていないのだから、無理もない面があるのだが、とにかく回答できなかった。

 そのため、「意匠設計者ではなく、構造設計者に問い合わせれば答えてくれるはずだから、事情を調べてほしい」と依頼した。すると、後日、企画担当者から、「国交省の対策試案に添って、安全性を検証しているそうです」との連絡があった。

 12月6日には、三菱地所レジデンスと鹿島建設による超高層マンション、「ザ・パークハウス 晴海タワーズ クロノレジデンス」の記者発表が行われた。

 その席で配布された資料には、防災性に関して、次のような説明があった。

 (1)免震構造による長期優良住宅。

 (2)3?48階に防災備蓄倉庫を設置。

 (3)2階に地域用の防災備蓄倉庫を設置。

 (4)仮設トイレ用のマンホールを4ヵ所に設置。

 (5)建物直下部分の液状化対策を実施。

 (6)非常用発電機を地下と屋上階に設置。

 (7)非常用発電機の燃料を大幅増量し、主要設備の電源確保。

 (8)停電時でも非常用エレベーター2台は24時間100%の稼働が可能。

 しかし、「長周期地震動への対策試案」に関しては、どこにも説明がなかった。

 けれども、設計が三菱地所設計、施工が鹿島建設であるからには、必ず「対策試案」を先取りしているはずである。そう確信して、質問したところ、「対策試案に添って検証している」との回答があった。

 言うまでもなく、販売の最前線でユーザーに説明しなければならないのは、販売担当者である。かれらがきちんと説明出来るためにも、パンフレットなどには長周期地震動対策について十分に書き込むべきだと思う。

細野 透(ほその・とおる)

建築&住宅ジャーナリスト。建築専門誌「日経アーキテクチュア」編集長などを経て、2006年からフリージャーナリストとして活動。  東京大学大学院博士課程(建築学専攻)修了、工学博士、一級建築士。日本建築学会・編集委員会顧問。 ブログ『建築雑誌オールレビュー』を主宰。日経産業新聞『目利きが斬る・住宅欄』に寄稿。  著書に、『建築批評講座』(共著、日経BP社)、『建築家という生き方』(共著、日経BP社)、 『ありえない家』(日本経済新聞社)、『建築産業再生のためのマネジメント講座』(共著、早稲田大学出版部) 、 『耐震偽装』(日本経済新聞社)、『風水の真実』(日本経済新聞出版社)ほかがある。


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