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スペシャリストの眼

「斜め45度」の視点

2018年11月13日

第301回 2019年3月の卒業生が「就職を希望した不動産会社」の気になる顔触れ

 2019年3月の卒業生(現在は大学4年生)による就職活動は、2018年3月に「エントリー」開始、6月に「選考」開始というスケジュールで進められ、9月には内定者がほぼ確定した。

 しかし10月になって、予想外の事態が発生した。経団連が、「2021年3月の卒業生(現在は大学2年生)」から、いわゆる「就活ルール」を廃止することを正式に決定したのである。

 そのため、大学生を中心に「今後はどうなるの?」と混乱が生じた。

 この混乱を鎮めるため、政府は関係省庁連絡会議を開催。「2020年3月の卒業生(現在は大学3年生)」および「2021年3月の卒業生(現在は大学2年生)」については、現ルールを踏襲するよう企業に求める方針を決定した。

 すなわち、経団連が「就活ルール」を廃止した後も、実質的には現ルールが踏襲される見通しになったのである。

 さて、『週刊ダイヤモンド』を発行する「ダイヤモンド社」のグループ会社、「ダイヤモンド・ヒューマンリソース社」は、2019年卒業生(現在の大学4年生)が選んだ、「就職人気企業ランキング」を発表した。データは文系男子・理系男子、文系女子・理系女子の4種類に分かれている。

<https://navi19.shukatsu.jp/19/contents/special/ranking/2018/index.php>

 このランキングから、分譲マンションや賃貸マンションを手がける「不動産会社」の社名を、ピックアップしてみた。

〔文系男子200(そのうち100位までピックアップ)〕
 10位 森ビル(☆☆☆☆)
 12位 三井不動産(☆☆☆☆)
 15位 三菱地所(☆☆☆☆)
 36位 東急不動産(☆☆☆)
 43位 東京建物(☆☆)
 63位 NTT都市開発(☆☆☆)
 90位 三井不動産レジデンシャル(☆☆)

〔理系男子100(100位までピックアップ)〕
 09位 森ビル(☆☆☆☆)
 13位 三菱地所(☆☆☆☆)
 20位 三井不動産(☆☆☆☆)
 53位 東急不動産(☆☆☆)
 57位 東京建物(☆☆)
 59位 三井不動産レジデンシャル(☆☆)

〔文系女子150(そのうち100位までピックアップ)〕
 16位 森ビル(☆☆☆☆)
 19位 三菱地所(☆☆☆☆)
 21位 三井不動産(☆☆☆☆)
 74位 NTT都市開発(☆☆☆)
 78位 東急不動産(☆☆☆)

〔理系女子50(50位までピックアップ)〕
 11位 森ビル(☆☆☆☆)
 20位 三菱地所(☆☆☆☆)
 22位 三井不動産(☆☆☆☆)
 35位 NTT都市開発(☆☆☆)
 40位 東急不動産(☆☆☆)

 

 文系男子・理系男子、文系女子・理系女子という4種類のランキングすべてに登場するのが、森ビル、三井不動産、三菱地所の3社である。よって、4つ星(☆☆☆☆)を付けておいた。

 また3つのランキングに登場するのが、東急不動産とNTT都市開発の2社なので、3つ星(☆☆☆)とした。そして2つのランキングに登場するのが、東京建物と三井不動産レジデンシャルの2社なので、2つ星(☆☆)とした。

【■■■森ビルが4種類のランキングで、デベロッパー最上位になった理由】

 4つ星(☆☆☆☆)になった森ビル、三井不動産、三菱地所の売上高などを比較するため表を作成した(下の表。データは「日経会社情報DIGITAL」、および「各社・有価証券報告書」から引用)。


 それにしても、2018年3月期の売上高が2497億円の森ビルが、売上高1兆7511億円の三井不動産と1兆1940億円の三菱地所を、4種類のランキングでなぜ上回ることができたのだろう。

 森ビルを選び、三井不動産や三菱地所を選ばなかった理由の1つは、東京都港区六本木にある「六本木ヒルズ」人気と思われる。六本木ヒルズには、森ビルが本社を置く超高層ビルの「森タワー」を中心に、映画館、美術館、ショッピングモール、レストラン、ホテル、住居棟などがあり、学生達にもお洒落な場所としてなじみが深い。

 それに対して、三井不動産が本社を置く、東京都中央区日本橋室町にある「三井本館」「三井二号館」「日本橋三井タワー」の各ビルは格調が高すぎて、学生には近寄りにくい面がある。

 また、三菱地所が長く本社を置いた、東京都千代田区大手町の「大手町ビルヂング」は古風で味わいがあるものの、ビル名が「三菱地所ビル」ではないのに加えて、テナントの数も多すぎるため、三菱地所のイメージが湧きにくい面がある。

 同社は2018年1月に、同じ大手町に完成した「大手町パークビル」に本社を移した。しかし、ビル名が「三菱地所ビル」ではないため、今後も三菱地所のイメージが湧きにくいかもしれない。

 

【■■■三菱地所と三井不動産が繰り広げる大接戦】

 文系男子──三井不動産12位、三菱地所15位、三井不レジ90位
 理系男子──三菱地所13位、三井不動産20位、三井不レジ59位 
 文系女子──三菱地所19位、三井不動産21位
 理系女子──三菱地所20位、三井不動産22位

 

 4種類のランキングで、三菱地所グループと三井不動産グループは大接戦を繰り広げている。少し不思議なのは三井不レジ(三井不動産レジデンシャル)が文系男子で90位、理系男子で59位に入っているのに、三菱地所レジ(三菱地所レジデンス)の名前が見えないこと。その理由が分かるだろうか。

 三井不レジの従業員数は2018年4月時点で1844名、2017年度の年間売上高は3115億円である。これに対して、三菱地所レジの従業員数は2018年3月時点で1078名(売上高は非公表)と、三井不レジに比べて766名も少ない(下の表)。


 それでは、三菱地所レジの従業員数は、なぜ三井不レジより少ないのか。実は三菱地所には三菱地所設計というグループ会社があり、2018年4月時点で644名の従業員がいるので、その影響と思われる。

 このように、三菱地所レジの従業員数が、三井不レジの従業員数の約5割にとどまることが、就職人気企業ランキングに登場しない理由と思われる。

【■■■住友不動産の不思議な順位】

 

 この記事で要約した4種類のランキングには、住友不動産の名前は登場していない。ただし、文系男子ランキングでピックアップする範囲を100位から200位まで広げると、住友不動産の名前は138位に登場する。

 それにしても、文系男子ランキングで三井不動産が12位、三菱地所が15位、三井不レジが90位に付けているのと比べると、住友不動産が138位なのは何か不思議な気がする。

 話はそれだけではない。三井不動産、三菱地所、住友不動産3社の2018年3月期の売上高と従業員数を比較すると、何か信じられないような数字が眼に入ってくる(下の表)。


 表に示すように、従業員数を見ると、三井不動産1526名、三菱地所の806名と比較して、住友不動産は5732名とダントツに多いのである。しかもその影響で、従業員1人当たり売上高は、ダントツに少なくなっている。

 それでは、住友不動産の従業員数は、なぜこんなに多いのだろう。5732名の内訳を見てみよう。

 〔不動産賃貸事業〕──610名
   主にオフィスビルや高級住宅の開発・賃貸事業を行う
 〔不動産販売事業〕──944名
   マンション・販売用ビル、戸建住宅、宅地等の開発分譲事業を行う
 〔完成工事事業〕──3638名
   戸建住宅を丸ごとリフォームする「新築そっくりさん」事業や、戸建住宅等の建築工事請負など行う
 〔その他の事業〕──1名
 〔全社部門〕──539名

 三井不動産や三菱地所と大きく異なるのは、完成工事事業部門に3638名もの従業員を抱えている点である。私は建築&住宅ジャーナリストという仕事を長くやってきたが、恥ずかしながら上記の事実に今回、初めて気がついた。

 さて「新築そっくりさん」事業には、一級建築士や二級建築士の資格を持つ多くの社員が関わっているはずである。そうであるのなら、理系男子ランキングに三菱地所が13位、三井不動産が20位、三井不レジが59位に入っているのだから、住友不動産の名前があってもいいはずなのだが、実際には名前は見あたらない。その理由はよく分からない。

【■■■メジャーセブン7社の明暗】

 メジャーセブンとはマンション大手7社、すなわち「三井不動産レジデンシャル、三菱地所レジデンス、住友不動産、東急不動産、野村不動産、大京、東京建物」が、共同で運営する新築マンション検索サイトである。

 このうち三井不(三井不レジ)、三菱地所(三菱地所レジ)、住友不動産という3社の結果はすでに説明した。

 残る4社のうち東急不動産は3つ星(☆☆☆)、東京建物は2つ星(☆☆)になった。一方、野村不動産は「☆なし」、大京も「☆なし」だった。どうして、このような差が付いたのだろう。

 東急不動産、東京建物、野村不動産、大京という4社の、2018年3月期の売上高と従業員数を比較してみよう。

 なお、東急不動産および「その持ち株会社の東急不動産ホールディングス(HD)」、野村不動産および「その持ち株会社の野村不動産ホールディングス(HD)」の数字は、一体化した(下の表)。


 この表を見る限りでは、売上高が大きいだけではなく、大規模な再開発が進む渋谷を本拠地とする東急不動産が3つ星(☆☆☆)だったのは納得できる。

 しかし、野村不動産が「☆なし」で、東京建物が2つ星(☆☆)と差がついた理由は、アレコレ考えてもよく分からない。

【■■■NTT都市開発が3つ星(☆☆☆)になった理由】

 最後に、この記事で触れた「各社の社名」、「売上高」、「☆の数」を一覧表にまとめてみた(下の表)。


 黒色で示した8社はメジャーセブンに関係し、末尾にピンク色で示した2社(森ビル、NTT都市開発)はメジャーセブンとは無縁である。

 森ビルが4つ星(☆☆☆☆)になった理由はすでに説明した。それでは、NTT都市開発はなぜ3つ星(☆☆☆)になったのだろう。

 その背景には「寄らば大樹の陰」、すなわち「身を寄せるなら、小さな樹の下よりも大きな樹の下の方が最適である」とする大企業志向があったと思われる。

 NTT(日本電信電話株式会社)グループの前身は、全国各地に電話局を持っていた日本電信電話公社である。そして、不動産会社のNTT都市開発は1986年、全国に約5000局あった電話局跡地などの遊休地開発を目的に設立された。

 同社の2018年3月期の売上高1668億円の内訳を示す(下の図、同社のコーポレート・プロフィルから引用)。


細野 透(ほその・とおる)

建築&住宅ジャ─ナリスト。建築専門誌『日経ア─キテクチュア』編集長などを経て、2006年からフリ─ランスで活動。

東京大学大学院博士課程(建築学専攻)修了、工学博士、一級建築士。

著書に、『建築批評講座』(共著、日経BP社)、『ありえない家』(日本経済新聞社)、『耐震偽装』(日本経済新聞社)、 『風水の真実』(日本経済新聞出版社)、『東京スカイツリーと東京タワー』(建築資料研究社)、 『巨大地震権威16人の警告』(共著、文春新書)、『謎深き庭 龍安寺石庭』(淡交社)など。


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