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「斜め45度」の視点

2022年4月12日

第397回 「東日本大震災後」に三菱地所レジデンスが作成した『画期的なマンション防災プログラム』の現状

 2022年3月16日(水曜日)の午後11時36分、宮城県登米市や福島県相馬市などで震度6強の地震が観測されました。

 この地震に対応して、本「特別コラム」では、まず東京都港区が用意していた『マンション震災対策ハンドブック~在宅避難のすすめ』を紹介しました。

 次にJASO(耐震総合安全機構)が用意していた、『自分たちで守る地震対策(マンション編)』を紹介しました。

 それに続いて今回はいわゆる『メジャーセブン』、すなわち『住友不動産、大京、東急不動産、東京建物、野村不動産、三井不動産レジデンシャル、三菱地所レジデンス』の中で、「震災対策」や「防災訓練」に特に熱心であると感じられる、三菱地所レジデンスの取り組みをクローズアップしたいと思います。

 [■■] 東日本大震災の直後には、大手デベロッパーも混乱

 三菱地所レジデンスが『マンション震災対策』や『防災訓練』を大きくレベルアップさせたのは、東日本大震災が発生してから、数ヵ月過ぎた頃のことです。

◆2011年3月11日
 東日本大震災が発生。

◆2011年3月12日
 大震災の翌日、三菱地所レジデンスは、次のようなニュースリリースを公表しました。

 このほど発生した「東北地方・太平洋沖地震」の影響により、弊社各販売センターにおきまして、通常営業に支障が生じている場合がございます。

 また、内覧会・確認会も同様の状況です。各物件の営業情報につきましては、各物件のホームページに掲載した「お問い合わせ先電話番号」でご確認の上、お越し下さいますようお願い申し上げます。

 なお、電話がつながりにくい場合も予想されます。ご理解のほどお願い申し上げます。 皆様には、ご迷惑、ご心配をおかけいたしまして誠に申し訳ございません』·····。

 ある意味では当たり前のことですが、東日本大震災の直後には、マンションの大手デベロッパーもまた混乱に陥っていたのです。

[■■] 大震災後に見直された「マンションのコミュニティ形成」

 大震災から約3ヵ月が過ぎた2011年6月16日、三菱地所レジデンスが「ニュースレター」を公表しました。

◆震災後に見直されている、「マンションのコミュニティ形成」を支援 。
田園都市に誕生する288戸の大規模プロジェクト『ザ・パークハウス市ヶ尾』。
2011年6月18日(土)に販売開始。

 このニュースレターを読むと、普段通りの日常が戻りつつある様子が、伝わって来るような気がします。

[■■] 大震災から約半年後に「マンションの災害対策基準・強化」を決定

 大震災から約5ヵ月が過ぎた2011年8月30日に、三菱地所レジデンスが、注目に値する「ニュースレター」を公表しました。

◆三菱地所レジデンスは、3月11日に発生した東日本大震災を踏まえて、自社が分譲するマンション「ザ・パークハウス」における、災害対策基準を強化することを決定しました。

 より細やかな「災害対策基準に基づく建物計画」と、「災害対策カルテ」による災害対応の「見える化」で、ハード・ソフト両面を強化します。

 モデルプロジェクトとして、『ザ・パークハウス 晴海タワーズ クロノレジデンス』(総戸数883戸、三菱地所レジデンスと鹿島建設の共同事業)の開発が始まっており、今後、当社が新規に開発する全物件に災害対策基準を適用してまいります———。

 なお、ここでいう「災害対策カルテ」とは、購入者の安全・安心への意識の高まりを考慮。物件毎に、災害対策基準への対応状況を取りまとめ、引き渡し時に簡単で判かりやすい解説を加えた上で、購入者に「カルテ」として交付することで、安心の「見える化」を図った資料です。

 そして、東京都中央区晴海2丁目区画整理事業地内に建設された、上記の『ザ・パークハウス 晴海タワーズ クロノレジデンス』は、2013年10月に竣工しました。

[■■] 3月16日「震度6強地震」の直前に、三菱地所が「公表したリリースの中身」

 さて、この記事の冒頭でも説明したように、2022年3月16日(水曜日)の午後11時36分、宮城県登米市や福島県相馬市などで震度6強の地震が観測されました。

 この地震に対して、東日本大震災(発生2011年3月11日)の約5カ月後(2011年8月30日)に、三菱地所レジデンスが公表していた、「災害対策基準に基づく建物計画」と、「災害対策カルテによる災害対応の“見える化”」はどのような効果をもたらしたのでしょうか?

 ここから、話が少し複雑になります。実は2022年3月16日の「震度6強地震」の直前、すなわち2022年3月14日に、「三菱地所レジデンス」および「三菱地所コミュニティ」は共同で、次のようなニュースリリースを公表していたのです。

◆『いつ起こるかわからない災害に備えコロナ禍でも訓練を継続』
3月13日(日)に、約2700世帯を対象としたオンライン防災訓練を実施しました。

 今年のテーマは「発災・被災生活72時間をどう生き抜くか」
対象は「津田沼エリアの5種類のマンション管理組合」です。

「ザ・パークハウス津田沼奏の杜」管理組合
「ザ・パークハウス津田沼奏の杜テラス」管理組合
「ザ・レジデンス津田沼奏の杜」管理組合
「ザ・レジデンス津田沼奏の杜テラス」管理組合
「津田沼ザ・タワー」管理組合

 5種類のマンションが全て似たような名前なので、区別する(見分ける)のが少し大変です。

■防災訓練の内容
◆8時45分から<オンラインプログラム①>
 「各マンションごとの安否確認訓練、災害対策本部を中継」

 安否確認シートを住戸の扉に貼り出し、あらかじめ定めた担当者(居住者)が巡回して、安否確認情報を収集します。このとき「災害対策本部」の活動をライブ配信することで、住民が普段は見ることができない「運営側の動き」を知ることができました。

 そして、阪神・淡路大震災、東日本大震災、熊本地震の被災地の声を交えながら、「共助の大切さ」・「被災直後に起きたこと」などを参加者に伝えました。

◆9時30分から<オンラインプログラム②>
 「ワークショップ————発災・被災生活72時間をどう生き抜くか」

 コロナ禍ではリアルな「体験」をすることが難しくなっています。このため、あらかじめ居住者が「体験」した事前録画の視聴と感想の共有などを、参加者が自分の問題として考えることを目指し、オンライン訓練に体験の要素を取り入れて実施しました。

 その中で、実際に地震が起きることを想定して、マンション住民が72時間を生き抜くための疑似体験を行いました。怪我をしないために、参加者はその場で確認をしながら自宅の備えを考えます。

 そして、「停電時にインフラがダウンした場合のマンションならではの被害」だけではなく、「復旧する段階では通電火災という思わぬ被害がある」ことなどを、チャットやアンケート機能を活用しながら参加者と一緒に考えました。

■「オンライン防災訓練」と、「3月16日の震度6強地震の影響」を比較・対照できれば・・・

 以上のように、「津田沼エリアの5種類のマンション管理組合」では、2022年3月13日(日)に約2700世帯を対象としたオンライン防災訓練を実施。

 それからわずか3日後の、2022年3月16日(水曜日)の午後11時36分、宮城県登米市や福島県相馬市などで震度6強の地震が観測されることになったのです。

 津田沼エリアにおける「3月13日のオンライン防災訓練」、そして津田沼エリアにおける「3月16日の震度6強地震の影響」を比較・対照してみると、新たな知見を得ることができるのかもしれません。

 それ故に、「三菱地所レジデンスから、何らかのニュースレターが公表されないか」、注意したいと思います。

細野 透(ほその・とおる)

建築&住宅ジャ─ナリスト。建築専門誌『日経ア─キテクチュア』編集長などを経て、2006年からフリ─ランスで活動。

東京大学大学院博士課程(建築学専攻)修了、工学博士、一級建築士。

著書に、『建築批評講座』(共著、日経BP社)、『ありえない家』(日本経済新聞社)、『耐震偽装』(日本経済新聞社)、 『風水の真実』(日本経済新聞出版社)、『東京スカイツリーと東京タワー』(建築資料研究社)、 『巨大地震権威16人の警告』(共著、文春新書)、『謎深き庭 龍安寺石庭』(淡交社)など。


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