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スペシャリストの眼

「斜め45度」の視点

2018年5月8日

第282回不動産情報サイト『LIFULL HOME'S』の自覚なき弱点

 ウェブサイトの客観的な評価・比較を行う、モーニングスター社の「Gomez不動産情報サイトランキング」では、リクルート住まいカンパニーの『SUUMO』およびLIFULL(ライフル)社の『LIFULL HOME'S』を、いわば2強として位置づけている。

 私自身も、取材対象にする新築分譲マンションを探すときには、月に1回くらいの割合で『SUUMO』と『LIFULL HOME'S』にざっと目を通すことが多い。

 『SUUMO』には「物件概要欄」の情報がフレッシュという特徴がある。最近は第1期販売の予定時期がなかなか決まらなかったり、予定時期が決まったとしても後ろ倒しになるケースが多いので、情報のフレッシュさが問われるのである。

 『LIFULL HOME'S』には、「人気マンション・ランキング欄」があるため、注目度が高い物件を把握できる利点がある。このランキングは1週間分だが、体感的には1ヵ月分の方がより実用的な気がする。

『LIFULL HOME'S』のトップページ

 こういう物件探しとは別に、リクルート住まいカンパニーやLIFULL社が発表する「プレスリリース」を参考にして、トレンドを把握することもある。

 両社のプレスリリースで注目度が高いのは、毎年2月から3月頃に発表される「住みたい街ランキング」である。

 まず2016年に発表されたランキングを見てみよう(下の表)。リクルート社は東京都・神奈川県・埼玉県・千葉県・茨城県の居住者を対象にした「住みたい街ランキング関東版」である。

 一方、LIFULL社は東京都・神奈川県・千葉県・埼玉県に居住し、かつ3年以内に住まいの購入を検討している人を対象にした「買って住みたい街ランキング首都圏版」および「借りて住みたい街ランキング首都圏版」という二重構成である。


 両社のアンケート方法が異なるにもかかわらず、3種類のランキングではすべて恵比寿・吉祥寺・横浜が3位までを占めているため、全体として類似感がある。

 報道に携わる立場から、この意味を考えてみよう。そもそも「住みたい街ランキング」に関して、リクルート社は2010年に着手しているのに対して、ライフル社はそれを追いかける形で2015年に始めた。しかもライフル社のランキングは、リクルート社のランキングとほぼ似た内容になった──。

 ということは、ライフル社のランキングはいわば「二番煎じ」として、ニュース価値が高くなりにくいのである。

 次に2017年に発表されたランキングを見てみよう。


 リクルート社のアンケートでは、2016年版のベスト10に入っていた自由が丘・新宿・二子玉川が消え、2017年版には新たに品川・中目黒・渋谷が登場したが、大きな骨格は維持されている。

 それに対してライフル社のアンケートでは、2016年版の「買って住みたい街」のベスト10に入っていた都市はすべて消え、2017年版の「買って住みたい街」には新たに船橋(千葉県)・浦和(埼玉県)・戸塚(神奈川県)など郊外の都市が大半を占め、東京都心の街としては唯一、目黒が入るというドラスティックな結果になった。

 なぜ、見慣れない街が加わったのか。それは、アンケートの方法を変更したためである。

 2016年版までは「住みたい街」を3つ聞いて、1位に3点、2位に2点、3位に1点を割り当てて、総合的に集計する方法を採用していた。この方法だと、ユーザーにとって「憧れの街」が上位を占めやすい。

 しかし2017年版からは、ユーザーから問い合わせが多かった駅名を、1年間(2016年1月1日~12月31日)集計する形式に改めた。その結果、船橋、戸塚、柏、流山おおたかの森など、「実際に物件が買えそうな郊外の街(駅)」が一斉に登場することになった。

 斬新な内容になったライフル社の「買ってみたい街ランキング」は、新聞・雑誌・テレビ・インターネットなどをベースとするメディア各社から、「ニュース価値が高い」として取り上げられたのであろうか。いや、そういう事実はない。

 グーグルでニュース検索した限りでは、ライフル社の2017年ランキングに関する記事は見あたらなかった。これは、なぜか。

 リクルート社の「住みたい街ランキング」に登場する街は、いわば「憧れの街=スター」として、注目を浴びやすい。これに対して、「実際に物件が買えそうな街ランキング」に登場する街は、いわば「普通の街=庶民」ゆえに、注目されにくいのである。

 続いて2018年に発表されたランキングを見てみよう。


 リクルート社の2018年版「住みたい街ランキング」については、日経新聞、毎日新聞、文春オンラインなどの有力メディアが、「横浜が吉祥寺・恵比寿を抜いて1位になった」「吉祥寺が3位に落ちて、吉祥寺ブランドに陰りが見えた」などと報じて、かなりの話題になった。

 一方、ライフル社の2018年版「買って住みたい街近畿圏ランキング」について、神戸新聞が「兵庫県の姫路が近畿圏の1位に初めて輝いた」と報じている。兵庫県の人にとってはいいニュースだったので取り上げたのであろう。

 ほかに、産経新聞グループの総合経済情報サイトである『SankeiBiz』には、2018年版「買って住みたい街首都圏・近畿圏・中部圏・九州圏ランキング」に関する情報が載っていた。ただし、これは『LIFULL HOME'S』の編集コンテンツへの「リンク」に相当するもので、記者が執筆した「記事」ではない。

 今回この記事を書くため、ライフル社のランキングを隅々まで眺めていて、初めて気がついたことがある。実は同社には、「買って住みたい街ランキング」および「借りて住みたい街ランキング」に加えて、「何でもランキング」が存在したのである(下の表)。


 この中で特に印象に残ったのは「ネコが多そうな街ランキング」である。首都圏編、近畿圏編、中部圏編に分かれ、それぞれ20地区を点数付けしている。このネコ・ランキングは、マイナビ(旧・毎日コミュニケーションズ)が運営するニュースサイト、『マイナビニュース』の「旅と乗りもの」コーナーに、いわば「猫特集」の一部としてかなり詳しく紹介されている。

 さて私が理解するかぎりでは、不動産情報サイト『LIFULL HOME'S』には、街について考える4種類の調査データが掲載されている。

 (1)「何でもランキング」

 (2)「買って住みたい街ランキング」「借りて住みたい街ランキング」

 (3)「LIFULL HOME'S総研」が発行した4冊の「調査・研究レポート」

 (4)「PRESSコーナー」に収集した各機関の「調査データ・ランキング」

 4種類の調査データは、(1)から(4)になるにつれて、内容が段々に硬くなっていく。

 こういった知的集積を下地にして、より多くの人が関心を持つフレッシュな「街ランキング」を作成し、「プレスリリース」として分かりやすいカタチで提供することができれば、もっと多くのメディアが関心を持ってくれるのではないか。

 そうなれば、ライフル社のイメージアップに、大きく貢献すると思われる。さらに、リクルート社の「住みたい街ランキング」の呪縛から、逃れることもできる。

 私なら次のようなテーマに挑戦してみたい。「若者はどの街から来て、どの街へ行くのかランキング」。

 (1)まず北海道から1大学、東北地方から1大学、関東地方から6大学、中部地方から3大学、近畿地方から3大学、中国地方から1大学、四国地方から1大学、九州地方から2大学、合計で18大学を選ぶ。大学の数は各地方の人口比に応じたもの。

 (2)各大学の学生に、「どの街から来たのか」を聞く。

 (3)各大学の学生に、「今住む街はどこか」「その街を好きかどうか」を聞く。

 (4)各大学の学生に、「卒業後はどの街に行きたいのか」「その理由は何か」を聞く。

 「人はどこから来て、どこに行くのか」という「問いかけ」は、仏教やキリスト教などに共通する問題意識とされる。長期の人口減少過程に入った日本では、街づくりや住宅供給の方針を決めるとき、まず注視しなければならないのは「若者の動向」・・・。そういう考え方を背景にしたテーマである。

 またこのランキングから、いろいろなバリエーションの創出もできる。

ライフル社ウェブサイトのトップページ

 ここで話題を一気に転じて、報道関係者にとって重要な「プレスリリース」についての話をしたい。プレスリリースとは、各企業などが新聞社やテレビ局などのメディアに向けて情報を知らせる文書である。平たくいうと、「こんな話題があるから、取材して記事にしてください」というお知らせである。

 なおプレスリリースとは別に、「ニュースリリース」という文書もある。両者は極めて紛らわしいので、きちんと説明しておこう(下の表)。


 ここからが肝心なのだが、ウェブサイト『SUUMO』を運営するリクルート住まいカンパニーには、「プレスリリース」コーナーがある。そして「住みたい街ランキング」のプレスリリースもあるので、報道関係者は出典を明記すれば自由に記事化できる。

 それに対して、ライフル社のウェブサイトおよび『LIFULL HOME'S』のウェブサイトには、サイトマップを手がかりにして隅々まで見渡したが、どういうワケか「住みたい街ランキング」に関する「プレスリリース」コーナーは見当たらない。

 困惑した私は、自問自答を試みた。

 自問「そもそもライフル社は、住みたい街ランキングの記事を、書いてほしくないのだろうか?」

 自答「いや、リクルート社に対抗する意味でも、記事を書いてほしいはず」

 しかし、自問自答しても事態は改善されなかったので、報道関係者ならではのテクニックを使うことにした。各企業のプレスリリースを配信してくれる『@Press(アットプレス)』を調べるのである。

 私は『@Press』に、報道関係者として既に登録ずみである。そして色々調べてみると、プレスリリース一覧の中に、ライフル社の「住みたい街ランキング」や「何でもランキング」が存在した。

 ただし、その末尾には気になる表記が付いていた。「記事の利用や掲載については
こちら → ×××(×××はライフル社の担当部署のメールアドレス)」。

 問題は「記事の利用や掲載」という表現で、報道関係者としてはこれがとても気になるのである。それは、なぜか。

 「住みたい街ランキング」や「何でもランキング」がプレスリリースであるのなら、私は出典を明記しさえすれば自由に記事にすることができる。

 しかしながら、ライフル社は「住みたい街ランキング」や「何でもランキング」は、上記のように記事と説明している。

 当然のことながら、編集記事(編集コンテンツ)であるのなら著作権問題が発生する。それゆえに、各メディアとしては軽く引用する程度のことしかできない。

 「住みたい街ランキング」や「何でもランキング」はプレスリリースなのだろうか、それとも編集記事なのだろうか。いつまで考えても、私の頭の中は「?????(ハテナマーク)」で一杯のままだった。

 おそらく私以外にも同じようなことを感じた報道関係者がいて、「これでは著作権問題の面で利用できない可能性がある」と判断して、記事の執筆を取りやめたケースがあるかもしれない。

 LIFULL社の広報担当者は、そういう事情に気がついているのだろうか。

 以上の理由により、記事のタイトルを──不動産情報サイト『LIFULL HOME'S』の自覚なき弱点──とした次第である。

【追記】

 この記事を書き上げた日に、配信サービス『@Press』からメールで、「PR TIMES ヘッドライン」が届いた。全部で263件掲載されている。それを「不動産」というキーワードで検索すると、1件だけヒットした。

 不動産・住宅サイト『SUUMO』新CMに濱田岳さんが初登場!4月26日(木)よりオンエア。

 本社への転勤の辞令を受けて、住まい探しをするサラリーマン役を演じた「濱田さんの転勤」篇と、披露宴会場でケーキカットの前に新居をさがす新郎役の「濱田さんの披露宴」篇の2パターンに出演いただきます──。

 『釣りバカ日誌』の新入社員、浜崎伝助を演じる濱田岳さんが登場するのだから、それなりに話題になるのではないか。

細野 透(ほその・とおる)

建築&住宅ジャ─ナリスト。建築専門誌『日経ア─キテクチュア』編集長などを経て、2006年からフリ─ランスで活動。

東京大学大学院博士課程(建築学専攻)修了、工学博士、一級建築士。

著書に、『建築批評講座』(共著、日経BP社)、『ありえない家』(日本経済新聞社)、『耐震偽装』(日本経済新聞社)、 『風水の真実』(日本経済新聞出版社)、『東京スカイツリーと東京タワー』(建築資料研究社)、 『巨大地震権威16人の警告』(共著、文春新書)、『謎深き庭 龍安寺石庭』(淡交社)など。


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