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スペシャリストの眼

「斜め45度」の視点

2009年11月24日

第12回 日経トレンディの罪作りな特集

 日経トレンディ11月号に掲載された、「中古マンションのリフォーム特集」を読んで、思わずわが目を疑った。

 物件A、B、Cを比較、どれを購入してリフォームすればいいのかを判断する特集だった。所在地を明記してはいないが、東京の足立区または葛飾区の物件であるらしい。

【物件A】
 価格990万円、築22年(新耐震)、約56平方メートル、
 最寄り駅から徒歩15分、内装リフォーム済み。
 壁式構造。

【物件B】
 価格980万円、築34年(旧耐震)、約60平方メートル、
 徒歩22分、内装リフォーム済み。
 ラーメン構造、二重床。

【物件C】
 価格998万円、築34年(旧耐震)、約55平方メートル、
 徒歩10分、現状引き渡し。
 ラーメン構造、二重床。

 物件Aの特徴は、新耐震基準に適合していて、しかも地震に強い壁式構造であることだ。これに対して、物件Bと物件Cは、ともに旧耐震基準の建物であり、しかもラーメン構造なので地震に弱いと推測される。

 この3物件の中で、購入すべきでないのは、物件Bと物件Cであることは、不動産のプロならすぐに分かるだろう。足立区や葛飾区はそもそも地盤が弱い。そういうエリアで、耐震基準を満たさない旧耐震物件を選ぶことは、お金をドブに投げ捨てるのに等しい行為になる。

 どうしても、物件Bと物件Cを選びたいのなら、耐震診断をして、強度が1.0以上あると確認した場合だけである。そうでないなら、絶対に購入してはいけない。

 したがって、購入するかどうか真剣に検討する価値があるのは、物件Aのみである。ところが、日経トレンディはなぜか大暴走して、とんでもない「正解」にたどり着く。

 1位。物件C。構造はラーメン式で可変性がある。管理も良好で、リフォーム前提なら魅力。

 2位。物件B。可変性があるのが魅力。しかし、快適性の配慮を欠く。

 3位。物件A。見た目は合格点だが、壁式でリフォームしにくいのが難点。

 驚いたことに、購入してはいけない旧耐震物件C、Bが1位、2位になり、ただひとつ検討する価値がある新耐震物件はどん尻の3位になっている。

 建築を支える3要素を「用強美」という。用とは機能や快適性、強とは丈夫な構造、美とは見た目である。地震国日本では、言うまでもなく、「強」の確保は基本中の基本である。しかし、日経トレンディはなぜか強を忘れて、用と美だけを見て判断してしまった。誠に罪作りな特集である。

 ところで、日経トレンディの発行元は日経BP社であり、同社からは、建築専門誌である日経アーキテクチュアも発行されている。仮に、日経トレンディ編集部が、「中古マンションのリフォーム特集」について、日経アーキテクチュア編集部に相談していれば、大ポカを防ぐことができたと思われる。それなのに・・・。

 ちなみに、筆者は、日経アーキテクチュア出身である。それゆえ、日経トレンディの特集がなんとも歯がゆいのである。

細野 透(ほその・とおる)

建築&住宅ジャーナリスト。建築専門誌「日経アーキテクチュア」編集長などを経て、2006年からフリージャーナリストとして活動。  東京大学大学院博士課程(建築学専攻)修了、工学博士、一級建築士。日本建築学会・編集委員会顧問。 ブログ『建築雑誌オールレビュー』を主宰。日経産業新聞『目利きが斬る・住宅欄』に寄稿。  著書に、『建築批評講座』(共著、日経BP社)、『建築家という生き方』(共著、日経BP社)、 『ありえない家』(日本経済新聞社)、『建築産業再生のためのマネジメント講座』(共著、早稲田大学出版部) 、 『耐震偽装』(日本経済新聞社)、『風水の真実』(日本経済新聞出版社)ほかがある。


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