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スペシャリストの眼

「斜め45度」の視点

2011年8月30日

第41回耐震性と建築費の「知られざる関係」─ 分譲マンション編

 分譲マンションの価格は、プロジェクト利益、諸経費、建設費、用地費の4項目から構成され、一般的には次のような内訳になるとされる。

 プロジェクト利益 10%

 諸経費 15%

 建設費 40%

 用地費 35%

 例えば、分譲価格が5000万円のマンションの場合には、建設費は約2000万円ということになる。

 このマンションが戸数50戸、耐震等級1(建築基準法と同等)だとして、耐震性を向上させるために必要な1戸当たりの追加費用は、おおむね次のようになる。

(1)耐震等級2(建築基準法の1.25倍の強さ)に向上させる場合──

  建設費は約50万円アップする。

(2)耐震等級3(建築基準法の1.5倍の強さ)に向上させる場合──

  建設費は約100万円アップする。

(3)免震構造にする場合──

 建設費は50万円~100万円アップする。

(4)制震構造にする場合──

 制震構造は千差万別であるため一律ではないが、建設費は20万円~50万円~100万円アップする。

 ここで、質問をひとつ。「5000万円のマンションを購入できる人が、耐震性を向上させるために必要な100万円の追加費用を惜しむことがあるか」。答えは簡単。「100万円の費用を惜しむことは、ほぼあり得ない」。

 それでは、耐震性に優れたマンション、すなわち耐震等級2・3、免震構造、制震構造などは、なぜ、普及しにくいのであろうか。その答えもまた簡単である。「デベロッパーの立場からは、耐震性を向上させるための費用が、追加経費に見えてしまう」。

 一流住宅メーカーの多くが耐震等級3の住宅を標準にしているのは、工場生産なので耐震性向上の費用が安く抑えられるのに加えて、「費用を負担するのは、ユーザーであるから」。

 これに対して、一流デベロッパーでも耐震等級3のマンションが少ないのは、「最終的に費用を負担するのはユーザーであっても、事業の途中ではデベロッパーが費用を負担しなければならないため、その"経費"を減らしたいと考えるから」。なんとも残念な話である。

細野 透(ほその・とおる)

建築&住宅ジャーナリスト。建築専門誌「日経アーキテクチュア」編集長などを経て、2006年からフリージャーナリストとして活動。  東京大学大学院博士課程(建築学専攻)修了、工学博士、一級建築士。日本建築学会・編集委員会顧問。 ブログ『建築雑誌オールレビュー』を主宰。日経産業新聞『目利きが斬る・住宅欄』に寄稿。  著書に、『建築批評講座』(共著、日経BP社)、『建築家という生き方』(共著、日経BP社)、 『ありえない家』(日本経済新聞社)、『建築産業再生のためのマネジメント講座』(共著、早稲田大学出版部) 、 『耐震偽装』(日本経済新聞社)、『風水の真実』(日本経済新聞出版社)ほかがある。


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