リアナビ

スペシャリストの眼

「斜め45度」の視点

2016年2月23日

第203回記者発表会が「減った組織」と「増えた組織」

 2015年9月後半に、傾斜マンション事件が発覚した後、分譲マンション各社による「新規販売物件の記者発表会」が一気に減ってしまった。住宅・不動産専門紙を読んでいても、新たに供給される分譲マンションの記事が少ないため、何だか寂しい気がする昨今である。

 それと反比例するかのように、記者発表会が増えている組織がある。都市再生機構(UR)である。例えば東日本賃貸住宅本部だけをとっても、昨年10月から今年1月までに14件を数える。中部支社、西日本支社、九州支社などもこれに劣らない。

 その中で、URが外部のデザイン会社と共同で実施している、一連の「住戸リノベーション事業」が面白い。

 まず「MUJI×UR団地リノベーションプロジェクト」の「光が丘パークタウンゆりの木通り北団地」(東京都板橋区)。何か懐かしいような光景である。

 次に「イケアとURに住もう」の「高見フローラルタウン六番街」(大阪市此花区)。こちらはインテリアショップの雰囲気に似ている。

 そして「京都女子大学×UR」の「洛西ニュータウン」(京都市西京区)。空間がずいぶんスッキリしている。

 さらに「UR×8プロジェクト」の「鳴海団地」(名古屋市緑区)。こちらは大胆にも、廊下が斜めに走っている。なお8はエイトデザイン(会社名)を意味している。

 このように比べてみると、それぞれに個性があるが、「プロだなぁ」と感じるのは最初に掲載した「MUJIHOUSE」の作品である。

 MUJIはまず、マーケットリサーチ能力が優れている。「MUJI×UR団地リノベーションプロジェクト」に際しても、約2千人を対象に団地観についてのアンケート調査を実施。「新築にはない温かみのある味わいを残す」、「間取りを変更しやすいようにする」、「コストを抑える」という3つのキーワードを抽出。それをもとにデザインを展開している。

 ほかに持出しキッチン(写真上)、半透明ふすま(写真中)、麻畳(写真下)などのパーツを開発済みという強みもある。

細野 透(ほその・とおる)

建築&住宅ジャーナリスト。建築専門誌「日経アーキテクチュア」編集長などを経て、2006年からフリージャーナリストとして活動。  東京大学大学院博士課程(建築学専攻)修了、工学博士、一級建築士。日本建築学会・編集委員会顧問。 ブログ『建築雑誌オールレビュー』を主宰。日経産業新聞『目利きが斬る・住宅欄』に寄稿。  著書に、『建築批評講座』(共著、日経BP社)、『建築家という生き方』(共著、日経BP社)、 『ありえない家』(日本経済新聞社)、『建築産業再生のためのマネジメント講座』(共著、早稲田大学出版部) 、 『耐震偽装』(日本経済新聞社)、『風水の真実』(日本経済新聞出版社)ほかがある。


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