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スペシャリストの眼

「斜め45度」の視点

2015年4月14日

第172回沖有人さんの『2018年までのマンション戦略バイブル』

 マンション購入者向けのウェブサイト「住まいサーフィン」を運営する、スタイルアクト(旧アトラクターズ・ラボ)代表の沖有人さんが、マンションの資産価値について解説する本をハイペースで出版し続けている。

 一、2012年12月『マンションは10年で買い替えなさい』

   (朝日新聞出版)

 二、2013年12月『マンションを今すぐ買いなさい』

   (ダイヤモンド社)

 三、2014年3月『タワーマンション節税!』

   (朝日新聞出版)

 四、2014年10月『マンション購入で実現する究極の相続税対策』

   (幻冬舎)

 五、2014年10月『マイホームを頼れる資産にする新常識』

   (講談社)

 六、2014年12月『家族で取り組む相続対策』

   (幻冬舎)

 七、2015年1月『2018年までのマンション戦略バイブル』

   (朝日新聞出版)

 まず驚くのは、2014年10月から2015年1月までのわずか4ヵ月の間に、実に4冊もの本を出版していること。しかも、出版社は朝日新聞出版、ダイヤモンド社、幻冬舎、講談社といずれも知名度が高い会社である。

 さらに、朝日新聞出版から3冊、幻冬舎から2冊と複数回出版している。本が売れないと、出版社が再依頼してくることはないから、売れている証拠でもある。

 沖さんの著書のうち、最初の6冊は「マンションを早めに買いなさい」とする、いわば積極論に裏付けられたものだった。しかし、7冊目の『2018年までのマンション戦略バイブル』は、これまでとは趣きを異にしている。

 同書の帯は次のように強調している。

 「今後3年間、新築マンションは買ってはいけない」

 「湾岸のタワーマンションは資産になるとは限らない」

 「東京オリンピック前の売り抜けリミットは2018年」

 すなわち、積極購入論から購入慎重論に舵を切った感じである。

 もう一つ目を惹いたのは、次のようなキャッチコピーである。

 「ベストセラー『マンションは10年で買い換えなさい』から3年」

 「不動産市場は予言通りになった」

 その上で本のタイトルを『バイブル』とした。バイブルとは、その分野で最も重要かつ権威ある書物をいう。「沖有人さんもついに権威になったのか・・・」。そんな感慨を抱いた。

 しかし同書を隅々まで読み込むと、何ヵ所かに思いがけない文章が出てくる。

 「2013年の11月に新たに自宅を購入した。私と妻それぞれマンションの隣り合わせになった2戸を所有したのだ。(中略)。隣り合わせといっても直接行き来できるドアがあるわけではない。お互いが顔を合わせるにはいったん部屋の外に出なくてはならない」(182ページ)

 「相続税対策としてタワーマンションを購入したようなケースでは(中略)、価格が下がって(中略)、反転の兆しも見つからないようであれば、最後は海外へエスケープすることも視野に入れるべきである(中略)。私たちも顧客への最適提案を謳うなら、近いうちに真剣に、いざという場合の脱出先を考えなければならないと考えている」(196ページ)

 バイブルとは、そもそもキリスト教の聖典をいう。『2018年までのマンション戦略バイブル』という書名の中のバイブルは、沖有人さんが不動産コンサルタントとして信念を持って行動したいという意思表示を込めたものだったかもしれない。

細野 透(ほその・とおる)

建築&住宅ジャーナリスト。建築専門誌「日経アーキテクチュア」編集長などを経て、2006年からフリージャーナリストとして活動。  東京大学大学院博士課程(建築学専攻)修了、工学博士、一級建築士。日本建築学会・編集委員会顧問。 ブログ『建築雑誌オールレビュー』を主宰。日経産業新聞『目利きが斬る・住宅欄』に寄稿。  著書に、『建築批評講座』(共著、日経BP社)、『建築家という生き方』(共著、日経BP社)、 『ありえない家』(日本経済新聞社)、『建築産業再生のためのマネジメント講座』(共著、早稲田大学出版部) 、 『耐震偽装』(日本経済新聞社)、『風水の真実』(日本経済新聞出版社)ほかがある。


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