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スペシャリストの眼

「斜め45度」の視点

2018年6月19日

第287回『日経新聞』『日経産業新聞』が『週刊ダイヤモンド』『週刊東洋経済』を追走?

 本コラムの第177回で、「5大経済誌でマンション特集が好きな雑誌」という記事を書いたことがある。2015年6月2日付けだったので、今から約3年前になる。

 5大経済誌とは『プレジデント』『日経ビジネス』『週刊ダイヤモンド』『週刊東洋経済』『週刊エコノミスト』をいう。記事の結論は、『ダイヤモンド』と『東洋経済』の2誌が「マンション(不動産)がらみの特集が好き」というものだった。

 それから約3年。雑誌が売れない時代といわれるが、5大経済誌の発行部数はどうなっているのだろう。

  発行部数1位『プレジデント』(月2回)
   24万6000部(☆☆日本雑誌協会印刷証明付部数)

  発行部数2位『日経ビジネス』(週刊)
   19万1000部(☆公称部数)

  発行部数3位『週刊ダイヤモンド』
   14万1000部(☆☆日本雑誌協会印刷証明付部数)

  発行部数4位『週刊東洋経済』
   9万7000部(☆☆日本雑誌協会印刷証明付部数)

  発行部数5位『週刊エコノミスト』
   7万部(☆☆日本雑誌協会印刷証明付部数)

 なお、発行部数に関しては「☆☆☆ABC部数─実際に販売された部数」、「☆☆日本雑誌協会印刷証明付部数─印刷された部数」、「☆公称部数─出版社が公表した部数」の3種類があり、☆の数が多い順に信頼性が高い(部数は雑誌広告ドットコム調べ、2017年12月時点)。

 5大経済誌の売れ行きは総じて苦しいが、『週刊ダイヤモンド』と『週刊東洋経済』にはそれなりの勢いがあるとされる。

 そして「マンション(不動産)がらみの特集」についても、『ダイヤモンド』と『東洋経済』の2誌が熱心という傾向は変わっていない。

 まず『ダイヤモンド』は、2017年1月から2018年6月までの間に、次のような特集を組んでいる。




 「マンション上げ下げ」「不動産投資の甘い罠」「損しないマンション×戸建て×中古リノベ」「勝つ街、負ける街」という分かりやすいキャッチコピーに惹かれて、私はいつも反射的に購入している。

 実はこれだけではない。2017年1月から2018年3月までの間に、別冊を3回発行しているのである。



 さらに、ムックも2回発行している。



 次に『東洋経済』である。同誌は2017年8月から2018年4月までの間に、次のような特集を組んでいる。




 こちらは「親の住まい、子の住まい」「駅・路線格差」「地価崩壊が来る」「不動産投資サバイバル」とシリアスなタイトルが並んでいて、少し考え込んでしまう。

 続いて『週刊エコノミスト』である。



 『週刊エコノミスト』は「ハウジングプア」「まだ買うな不動産」と、『東洋経済』と同様にシリアスなタイトルが並んでいる。

 そして問題は、私(細野)の出身母体である、日経BP社が発行する『日経ビジネス』である。同誌はまことに遺憾なことに、2017年1月から2018年3月までの期間には、「マンションがらみの特集」を組んではいなかった。

 それでは寂しいので、次の表紙写真を引用することにした。


 大和ハウス工業の連結売上高は3兆円を超え、直近6年間で2倍に跳ね上がった。国内の住宅市場は縮小しているのに、なぜこれほどの成長を遂げているのだろうか。賃貸マンションや商業施設、介護施設など、土地オーナーにあらゆる選択肢を提案。そして長期にわたって付き合う。食いついたら離さない「スッポン経営」が身上だ──。

 大和ハウスなら、「マンションがらみの企業」といえなくもない。

 さて、肝心な話はここからである。実は最近、『日経ビジネス』に代わって、どういうワケか『日経新聞』と『日経産業新聞』が注力し始め、「マンションがらみの長い記事」が目立つようになってきた。まず今年3月以降の『日経新聞』である。

【3月27日付『日経新聞』──マンション75%、修繕不安】
  積立金、国の目安届かず
  高齢化で増額難しく

【4月1日付『日経新聞』──児童増で学校整備費22倍】
  タワマン乱立の東京4区
  財政を圧迫、開発制御を

【5月25日付『日経新聞』──東京都心、手探りのマンション規制】
  進む人口増、読めぬ適正規模
  市場冷やす恐れ

 これらは、まさしく『東洋経済』的な、シリアスな切り口である。

 次に今年1月以降の『日経産業新聞』。

【1月12日付『日経産業新聞』──パワーカップル、厳冬市場の熱源】
  マンション共働きで購買力
  不況の業界、照準絞る

【2月22日付『日経産業新聞』──住不タワマン、土台はビル賃貸】
  新築マンション供給でV4
  用地「育てる力」生む

【3月28日付『日経産業新聞』──駅近合戦、用地・開墾】
  首都圏マンション、時・金かけ仕込み
  売れる限界、徒歩8分

 これらは、まさしく『ダイヤモンド』的な、軽快な切り口である。

 特に3月28日付の記事「駅近合戦、用地・開墾」には、「首都圏の新築マンション上位30──将来価値格付け」と題する、興味深い一覧表が掲載された。

 この表では、30件のマンションを「三つ星★★★」2物件、「二つ星★★」10物件、「一つ星★」18物件と3種類に格付けしている(下の図は、その一部)。


 この種の格付けは、『週刊ダイヤモンド』『週刊東洋経済』が得意だった。しかし、日経新聞社が乗り出したのだから、今後は『日経産業新聞』の影響力が強まる可能性がある。ただし、『日経産業新聞』には無料のウエブサイトがないため、購読者以外には知名度が低いという弱点がある。

 いずれにしても『日経新聞・日経産業新聞』が、『週刊ダイヤモンド・週刊東洋経済』を本格的に追走し続けてくれるのなら、マンション(不動産)がらみの情報が充実するに違いない。

細野 透(ほその・とおる)

建築&住宅ジャ─ナリスト。建築専門誌『日経ア─キテクチュア』編集長などを経て、2006年からフリ─ランスで活動。

東京大学大学院博士課程(建築学専攻)修了、工学博士、一級建築士。

著書に、『建築批評講座』(共著、日経BP社)、『ありえない家』(日本経済新聞社)、『耐震偽装』(日本経済新聞社)、 『風水の真実』(日本経済新聞出版社)、『東京スカイツリーと東京タワー』(建築資料研究社)、 『巨大地震権威16人の警告』(共著、文春新書)、『謎深き庭 龍安寺石庭』(淡交社)など。


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