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スペシャリストの眼

「斜め45度」の視点

2014年5月27日

第140回加速する建築費の上昇

 建築費の急上昇が止まらない。『日経アーキテクチュア』2014年4月25日号は、「最新実勢価格と積算本価格に1割の差」と題する記事を掲載した。これを分かりやすく要約すると、「2011年1月の建築費を100とすると、2014年時点の建築費は126.5と、実に26.5ポイントも急上昇している」、という衝撃的な内容である。

 【同誌が掲載した建築費シミュレーション記事】

 一。積算コンサルタントの佐藤隆良氏に、東京都内に新築される「鉄骨鉄筋コンクリート造、地上8階建、延べ面積2414平方メートル」の事務所ビルの価格シミュレーションを依頼した。単価は2014年3月時点の値を使用。

 二。各種の建築積算本(建設物価調査会の「建築コスト情報」「建設物価」、経済調査会の「建築施工単価」)が示す単価を使うと、建築費は6億2633万円だった。

 三。これに対して、各工事会社に直接ヒアリングした最新の実勢価格を使うと、建築費は6億9044万円だった。

 四。両者を比較すると、最新実勢価格は6411万円、約10%高かった。

 五。建築費の内訳を見ると、躯体工事11%高、仕上げ工事3%高、設備工事12%高、諸経費22%高だった。

 六。このうち諸経費が22%高になるのは、職人確保に直結する現場経費が33%増に跳ね上がっている影響が大きい。

 佐藤氏は「この建築費シミュレーションはあくまで目安であって、現場の施工環境によっては、実勢価格は上昇する可能性がある」とする。

 【価格差がさらに広がる3つの要因】

 一「大型工事」。技能工を多数集めたり、長期間にわたって確保する場合には、施工者は様々なリスクを抱えることになるため、それを考慮して価格が大幅に増加するケースが多い。

 二「複雑な設計」。工事で手間がかかる設計は、職人の工数、工期に影響するため、価格を押し上げる要因になる。

 三「工期に余裕がない」。工期がきついと施工者がリスクを抱えるため、価格に転換される。特に、竣工間際の突貫工事では、実勢労務単価より高い賃金を支払ってでも必要人員を確保しようとするため、その傾向が一段と強まる。

 事務所ビルに比べて、マンションは設計が複雑になり、かつ年度末には竣工間際の突貫工事が増えるため、実勢価格は10%増で収まらないケースも多いと推定される。

 ちなみに、『日経アーキテクチュア』は今から9ヵ月前の2013年8月25日号で、東京圏に建設される「鉄筋コンクリート造、集合住宅」の建築費推移を次のように報じた。

 建築費の推移(2013年6月時点の推定)

  2011年─100.0

  2012年─100.0

  2013年6月─107.5

  2014年3月─115.0(予測値)

 このうち、2014年3月に関する115.0という予測値に、今回の10%増という数字を加味すると、建築費は実際には126.5に跳ね上がっていたことになる。

 『日経アーキテクチュア』に掲載されたデータは断片的で分かりにくい面がある。これを補うため、みずほ信託銀行『不動産マーケットレポート』2014年1-2月号に掲載された表を参照する。


 上の図で、東京の集合住宅(RC)は2011年1月を99とすると、2013年6月で105.9と6.9ポイント増になっている。これに対し『日経アーキテクチュア』は7.5ポイント増だったので、両者はほぼ一致している。

 目立つのは、2013年8月から9月にかけて一気に急上昇していること。振り返ると、同年9月8日に2020年の東京オリンピック開催が決定した。注意したいのは、図の9月と10月の数値は暫定値であり、また「急上昇」した以降の実勢値が掲載されていないこと。

 『日経アーキテクチュア』最近号が紹介した数字は、「急上昇期」の実態を初めて示したデータなのである。

 念のために、東京以外の表も添付する。


 この図からも、大震災の影響を強く受けた仙台を追いかけるように、各地で建築費が上昇している様子が見てとれる。

細野 透(ほその・とおる)

建築&住宅ジャーナリスト。建築専門誌「日経アーキテクチュア」編集長などを経て、2006年からフリージャーナリストとして活動。  東京大学大学院博士課程(建築学専攻)修了、工学博士、一級建築士。日本建築学会・編集委員会顧問。 ブログ『建築雑誌オールレビュー』を主宰。日経産業新聞『目利きが斬る・住宅欄』に寄稿。  著書に、『建築批評講座』(共著、日経BP社)、『建築家という生き方』(共著、日経BP社)、 『ありえない家』(日本経済新聞社)、『建築産業再生のためのマネジメント講座』(共著、早稲田大学出版部) 、 『耐震偽装』(日本経済新聞社)、『風水の真実』(日本経済新聞出版社)ほかがある。


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