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スペシャリストの眼

「斜め45度」の視点

2018年8月21日

第293回不動産各社が参入する「1棟リノベーションマンション」市場

 「分譲」という言葉は、土地や建物などを「区分け」して販売する行為を意味する。したがって「分譲マンション」は、住戸を1戸ずつ分割して販売する形式のマンション、という意味になる。

 その分譲マンションは大きく、A「新築マンション」、B「中古マンション」、C「1棟リノベーションマンション」の3種類に分かれる。

 A「新築マンション」──「竣工して1年未満」で、かつ「未入居の住戸」を意味する。

 B「中古マンション」──「竣工から1年以上」、または「既に人が住んだことがある住戸」を意味する。

 C「1棟リノベーションマンション」──不動産会社が、既存の「賃貸マンション」や「社宅」などを1棟丸ごと購入し、リノベーション(修復・刷新)した後に分譲するマンションを意味する。中古マンションとは違って、専有部だけではなく共用部も刷新・修復するケースが多いため、全体としてフレッシュな感じがする。

 不動産経済研究所は2016年10月31日に、「1棟リノベーションマンション動向」と題するプレスリリースを公表。次のように説明した。

(1)2005年から2016年10月までの期間に、改修工事が行われた1棟リノベーションマンションは、累計で143物件(5860戸)に達した。

(2)そのうち東京都が63物件で、シェア44%を占めた。

(3)1棟リノベーションマンションの主なシリーズは、12社合計で14シリーズに達した(下の表を参照)。

(表は不動産経済研究所のリリースを参考に作成)

 不動産経済研究所のプレスリリースが公表された以降も、1棟リノベーションマンション事業に参入する企業が少なくない(下表に主な企業名)。1棟リノベーションマンションは今後、確実に増えていくと思われる。

 私はこれまで、1棟リノベーションマンションを、5物件くらい取材したことがある。その度に、中古マンションとの「最大の違い」を質問し、おおむね次のような回答を得た。

 ──中古マンションに入居する場合には、すでに設立されている管理組合に途中から参加することになるため、新たな住民はいわば「転校生」のような気分を味わうことになる。一方、1棟リノベーションマンションに入居する場合には、新たに設立される管理組合に入会するため、入居者全員がいわば「新入生」としてまとまりやすい環境にある──。

 印象に残る話だったので、今でも覚えている。

 

 さて、「1棟リノベーションマンション」の将来を考えるとき、少し心配なことがある。世間一般のユーザーは、「中古マンション」については知っていても、「1棟リノベーションマンション」については無知に近いのである。

 グーグルを使って、簡単な実験をしてみよう。

【実験1「1棟リノベーションマンション」と検索】
 おおむね、「1棟リノベーションマンション」のウェブサイトに誘導される。

【実験2「リノベーションマンション」と検索】
 おおむね、「中古マンションのリノベーション住戸」のウェブサイトに誘導される。

【実験3「リノベーション」と検索】
 おおむね、「中古マンションや戸建て住戸のリノベーション事例」のウェブサイトに誘導される。

 「1棟リノベーションマンション」の場合には、マンション全体にリノベーション工事を施すため、専有部だけではなく共用部(エントランス、共用廊下、給排水用の配管、空調用のダクト・・・)も刷新・修復されるケースが一般的である。

 これに対して「中古マンションのリノベーション住戸」の場合には、中古マンションの住戸所有者が転売価格を高くすることを目的に、あらかじめ徹底的なリフォームを施した後に、「リノベーションマンション」と称して売りに出しているに過ぎない。

 要するに、「1棟リノベーションマンション」と「中古マンションのリノベーション住戸」は、まったく別物なのである。

 このように、グーグルで検索するときのいわば「指運」次第で、別世界に誘導されてしまうのだから恐ろしい。

細野 透(ほその・とおる)

建築&住宅ジャ─ナリスト。建築専門誌『日経ア─キテクチュア』編集長などを経て、2006年からフリ─ランスで活動。

東京大学大学院博士課程(建築学専攻)修了、工学博士、一級建築士。

著書に、『建築批評講座』(共著、日経BP社)、『ありえない家』(日本経済新聞社)、『耐震偽装』(日本経済新聞社)、 『風水の真実』(日本経済新聞出版社)、『東京スカイツリーと東京タワー』(建築資料研究社)、 『巨大地震権威16人の警告』(共著、文春新書)、『謎深き庭 龍安寺石庭』(淡交社)など。


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