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「斜め45度」の視点

2017年2月7日

第237回「地下室マンション」建築確認取り消しの歴史的背景

 横浜市金沢区の斜面地に建設中の「地下室マンション──クオス横浜六浦ヒルトップレジデンス」に関して、東京地裁は2016年11月29日に、A・Bの2棟のうちB棟について「建築基準法に違反している」として、民間の確認検査機関が行った建築確認を取り消した。

 【クオス横浜六浦ヒルトップレジデンスの物件概要】

 所在地─神奈川県横浜市金沢区六浦5丁目 

 交通─京浜急行逗子線「六浦」駅徒歩4分 

 総戸数─116戸

  A棟─52戸、地上2階・地下3階

  B棟─64戸、地上3階・地下3階 

  用途地域─第1種低層住居専用地域(10mの高さ制限)

       第1種高度地区 

 構造─鉄筋コンクリート造

 完成予定時期─2017年3月上旬 

 売主─ワイ・エフ・エム 

 販売代理─ビッグヴァン

 設計・監理─荒川建設工業

 施工─大勝 

 建築確認─国際確認検査センター

 裁判の原告は近隣住民で、被告は指定確認検査機関の国際確認検査センター。東京地裁は2棟のうちB棟について、「高さ制限に関する建築基準法55条1項に違反している」として、建築確認の取り消しを認める原告の訴えを認めた。

 建築物の高さは「地盤面」から測る。原告は、「この地盤面が、意図的に偽装された」と主張し、裁判所も「その主張は、合理的である」と認めた。

 原告はまたA棟について、横浜市建築基準条例6条2項が定める「避難通路の設置」に違反するとしたが、東京地裁はこの主張は退けた。

 なお、近隣住民は、横浜市との間でも「開発許可の取り消し」を求めて係争中で、こちらは今年2月に横浜地裁から判決が出る。

 この判決に関連して、販売代理会社であるビッグヴァンの「クオス横浜六浦ヒルトップレジデンス」ホームページには、「諸事情により第1期2次の販売を中止いたします」と記してある。これとは別に、第1期1次販売で住戸を購入し、「3月上旬の完成を待って下旬頃に入居しよう」と計画していた顧客への対応も必要になる。

 地下室マンションとは、斜面を利用することにより、「地上3階・地下3階」などと地下部分の床面積が異常に多くなったマンションをいう。斜面なら片側に窓がつくれるので、地下室マンションといっても実際には窓がある例が多い。

 斜面の上からは3階建てにしか見えないけれど、斜面の下からは6階建てに見える。このため、「巨大なコンクリートの塊が、まるで絶壁のようにそそり立ち、上から強く圧迫してくる」として、地域住民が反発するケースが多い。

 「地下室マンションに反対する市民ネットワーク」によると、地域住民にとって以下のような弊害をもたらす。

  1.低層住宅地としての景観が台無しになる

  2.日照、通風、眺望などが妨げられる

  3.傾斜地にわずかに残っていた緑が失われる

  4.傾斜地の崖崩れが心配である

  5.マンションから見下ろされる状態になり、近隣住民のプライバシーが侵害される

  6.人口が過密となり、交通量増大、公園の不足、騒音の増大などが生ずる

  7.住宅地としての価値が下落し、近隣住宅地の財産価値が低下する

 歴史を振り返ると、1995年頃から神奈川県、東京都、大阪府、兵庫県などで、住民が地下室マンションの建設に反対する紛争事例が相次いだ。紛争の件数は数百件を超えたと推定される。

 このため横浜市は独自に「横浜市斜面地における地下室建築物の建築および開発の制限等に関する条例」(2004年6月1日施行)を制定。第1種・第2種低層住居専用地域では、建物の階数を地下を含めて5階もしくは6階までとし、地盤面をかさ上げする盛り土も禁止した。

 この点、「クオス横浜六浦ヒルトップレジデンス」は、A棟が全5階(地上2階・地下3階)、B棟が全6階(地上3階・地下3階)なので、階数だけを見ると横浜市の条例に適合していた。

 しかし、建築基準法55条1項の「第1種低層住居専用地域または第2種低層住居専用地域内においては、建築物の高さは、10メートルまたは12メートルのうち、当該地域に関する都市計画において定められた建築物の高さの限度を超えてはならない」という規定には、適合していなかったことになる。

 なお、2005年11月には、横浜市日吉本町の地下室マンションについて、横浜地裁が建築確認を取り消したことがある。これが、「地下室マンションの建築確認を取り消した初判決」とされる。

細野 透(ほその・とおる)

建築&住宅ジャーナリスト。建築専門誌「日経アーキテクチュア」編集長などを経て、2006年からフリージャーナリストとして活動。  東京大学大学院博士課程(建築学専攻)修了、工学博士、一級建築士。日本建築学会・編集委員会顧問。 ブログ『建築雑誌オールレビュー』を主宰。日経産業新聞『目利きが斬る・住宅欄』に寄稿。  著書に、『建築批評講座』(共著、日経BP社)、『建築家という生き方』(共著、日経BP社)、 『ありえない家』(日本経済新聞社)、『建築産業再生のためのマネジメント講座』(共著、早稲田大学出版部) 、 『耐震偽装』(日本経済新聞社)、『風水の真実』(日本経済新聞出版社)ほかがある。


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