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スペシャリストの眼

「斜め45度」の視点

2010年7月27日

第20回最後から2番目の「同潤会アパート」

 藤和不動産は、6月下旬に、「ベリスタ東日暮里」の第1期分25戸を売り出した。敷地は荒川区東日暮里2丁目。地下鉄日比谷線「三ノ輪駅」から、西に徒歩8分ほどの場所だ。建物は10階建て、全55戸。専有面積は68~82平方メートルで、最多価格帯は4300万円台になる。完成は2011年2月中旬の予定。

 「ベリスタ東日暮里」の前身は、知る人ぞ知る「同潤会(どうじゅんかい)三ノ輪アパート」である。

 同潤会アパートは、関東大震災後に発足した財団法人同潤会が、東京と横浜に建設した鉄筋コンクリート造の集合住宅である。第1号の中之郷アパートメント(1926年)から、第16号の江戸川アパートメント(1934年)まで、都合16個所に建設された。

 このうち、三ノ輪アパートメントは1928年(昭和3年)の竣工。鉄筋コンクリート造、4階建て、2棟構成で、1階から3階までが家族用、4階が単身者用になっていた。建物の表面に凹凸がある、立体的な構成のモダニズム建築で、味わいのある名建築だった。

 しかし、1990年頃から激しく老朽化。最近では、コンクリートはボロボロ、壁面が大きくゆがむ、外壁に大きな亀裂が入って鉄筋が露出するなどして、「震度5」程度の地震が来れば崩壊しそうな状態になっていた。

 最近になって、等価交換方式による建て替え事業がまとまり、建物は2009年10月に解体された。

 同潤会アパートは名建築であるがゆえに、建て替え話が持ち上がると「保存運動」が行われるケースが多い。しかし、三ノ輪アパートメントの場合には、老朽化がひどく、誰の眼にも「保存は無理」と分かったため、老兵が惜しまれつつ去っていくような形で、取り壊された。いわば、持っている力をすべて出しきって、精一杯、生き抜いたような一生となった。

 これで、現存する同潤会アパートは、1929年に建設された上野下アパートメント(台東区東上野5丁目4番地)だけになった。地下鉄銀座線「稲荷町駅」3番出口から、清洲橋通りを北に50メートルほど歩いた場所である。

 できるなら、最後の同潤会アパートには、ぜひ残ってほしいものだが、さて・・・。

細野 透(ほその・とおる)

建築&住宅ジャーナリスト。建築専門誌「日経アーキテクチュア」編集長などを経て、2006年からフリージャーナリストとして活動。  東京大学大学院博士課程(建築学専攻)修了、工学博士、一級建築士。日本建築学会・編集委員会顧問。 ブログ『建築雑誌オールレビュー』を主宰。日経産業新聞『目利きが斬る・住宅欄』に寄稿。  著書に、『建築批評講座』(共著、日経BP社)、『建築家という生き方』(共著、日経BP社)、 『ありえない家』(日本経済新聞社)、『建築産業再生のためのマネジメント講座』(共著、早稲田大学出版部) 、 『耐震偽装』(日本経済新聞社)、『風水の真実』(日本経済新聞出版社)ほかがある。


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