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スペシャリストの眼

「斜め45度」の視点

2018年2月13日

第273回「不動産テック」の最新トレンド─「AI推定価格」をユーザーも支持

 不動産業界で、「AI」(人工知能、人間の知的営みをコンピュータに行わせるための技術)や、「ビッグデータ」(不動産事業に役立つ知見を導くためのデータ)を活用した、「不動産テック」(Real Estate Tech)と呼ばれる分野の動きが活発化している。

 2017年の終わりから2018年の初めにかけては、そのうち「AIを利用した価格の推定」に関するニュースが多かった。

【★AI推定価格に関する分譲マンションオーナーの意識調査】

 まず、大京グループで不動産流通事業を手掛ける大京穴吹不動産が、分譲マンションのオーナーに対して「AI推定価格に関するアンケート調査」を実施。その結果を2017年12月に公表した。

 ここでいう「AI推定価格」とは、地域特性や経済指標、最新の不動産市場情報を含む売買履歴情報や賃貸情報などをベースにしたビッグデータを、AIが日々学習し、既存マンションの現在の市場価格をリアルタイムに算出するものをいう。

 アンケートの対象は、東京都千代田区、中央区、文京区、港区、渋谷区、新宿区、目黒区、品川区、大田区、江東区という、10の区に建つ分譲マンションのオーナーで、550名から回答を得た。

 

 調査に際しては、各人が所有するマンションの「AI推定価格」を、リブセンスが運営するIESHIL(イエシル)で算出。その推定価格表を添えて、アンケートを実施した。

 [質問]AIが算出した「AI推定価格」を、インターネットで公開するようなサービスが、日本でも必要と思いますか?

 [回答]

  とても思う、思う──71%

  どちらとも言えない─25%

  あまり思わない、まったく思わない─4%

 [質問]不動産価格をどんな方法で把握していますか?

 [回答]

  インターネット等で自分で情報収集する─35%

  不動産会社にインターネットで問い合わせる─21%

  不動産情報専門サイトを介して問い合わせる─20%

  不動産会社に直接電話・訪問する─17%

  親族・知人に相談する─3%

  その他─4%

 このうち「AI推定価格」の普及を支持する理由は、次のようなものだった。

  

(1)営業的な感覚が多い査定ではなく、ビッグデータから導き出したであろう価格の方が信用性が高いと思うから。

 (2)売却の必要が生じた時に、すぐに価格が分かって便利だから。

 (3)これまでの査定は担当者により返答内容に差があり、信頼感が薄かったため。

 (4)資産価値を常に把握したいから。

 (5)AIの導入により不動産会社の事務作業時間が減り、効率化が図れることにより、不動産手数料が下がることが期待でるから。

 【★「カウル鑑定」で購入と賃貸の得失を比較】

 次のニュースはハウスマート(針山昌幸社長、東京都渋谷区)発である。同社はスマホで物件の売買ができる「カウル」に、2018年1月、新機能「カウル鑑定」を追加すると発表した。

 この「カウル鑑定」は、AIによって1~35年後の物件価格を算出。さらに物件価格の値下がり金額や、住宅ローン金利、マンションの管理費や税金などを考慮したシミュレーションを行うことで、「賃貸で借りた場合」と「購入した場合」のどちらが得かを、瞬時に鑑定できるという。

 ただし、今後の物件価格を算出するに際しては、マンションのスペック、立地条件、築年数などによる過去の値動きを機械に学習させ、「この部屋は、このぐらいのペースで値下がりしていくだろう」と仮定して計算を進める。

 そのため、再開発が行われてそのエリアの価格が上がったり、好景気になって不動産価格が上昇する、というような要因は価格予測に組み込まれていない。

 同社は今後、ユーザーが現在住んでいる賃貸住宅と、新たに住宅を購入した場合の比較機能も開発する予定とのこと。

 【★「不動産テックカオスマップ」で全体像を把握】

 さてAIやビッグデータを活用した不動産テックの分野は、まさに日進月歩のペースで動いている。その全体像を把握するとき役に立つのが、リマールエステート(赤木正幸社長、東京都中央区)が、2017年6月と7月に公表した「不動産テックカオスマップ」である。

 ここでは「カオスマップ7月版」を紹介する(作成者はリマールエステート社、QUANTUM社、川戸温志氏)。

 このマップには、「VR」「IoT」「物件情報・メディア」「ローン・保証」「シェアリング」「クラウドファンディング」「マッチング」「価格可視化・査定」「業務支援」「不動産情報」という10分野に分けて、関連企業のロゴマークを掲載している。

 「VR」──VR(ヴァーチャルリアリティ)技術を活用して物件を擬似内見できるシステム、AR(拡張現実)技術を活用して家具配置や材質等をシミュレーションできるシステムを提供する。ほかに直観的なユーザーインタフェースにより、コミュニケーションや合意形成を支援するシステムもある。

 「IoT」──各種センサーやWEBカメラ等との連携で、不動産の状況をリアルタイムに確認できるシステムや、電子錠を用いた自由度や安全性が高い入退室管理システムなどを提供する。IoTを操作するアプリケーションにより、オーナーと入居者とのコミュニケーション機会も得られる。

 「物件情報・メディア」──消費者に向けて、不動産や街に関する全般的な情報や、個別物件情報などを掲載。彼らを不動産仲介会社へ送客するプラットフォームを提供する。不動産購入に関する知識や専門家によるアドバイスなどを提供し、メディアとしても機能する。

 「ローン・保証」──住宅ローン選びをサポートする比較サイトや詳細情報を提供する。シミュレーション機能や借り換えメリット査定などにより、借手の立場で最適な住宅ローンをアドバイスする。

 「シェアリング」──スペースとユーザーとの適切なマッチングで遊休資産をシェアすることで、空いているスペースを有効活用して新たな事業機会を創出する。会議室にはじまり、イベントスペースや駐車場、民泊、さらには美容室等に用途が拡大している。

 「クラウドファンディング」──個人投資家がインターネットを介して、少額でも不動産投資案件へ参加できる仕組みを提供する。新たな不動産投資機会を創出するとともに、これまで資金調達の選択肢が少なかったプロジェクトにも調達機会を提供する。

 「マッチング」──不動産に関する様々なニーズを有する人々を結びつける、マッチング機能やプラットフォームを提供する。居抜きオフィスや相続不動産といった種別に特化したもの、リノベーションや工事等の業務に特化したもの、不動産プロフェッショナルや専門業者等の人材に特化したものがある。

 「価格可視化・査定」──大量のデータ(ビックデータ)を統計手法やAI等の解析技術を用いて分析し、不動産価格や価値を査定する。物件の参考価格を地図上に示すもの、一括査定で複数の査定価格を比較するものなどがある。

 「業務支援」──不動産事業者向けのサービスが中心で、業務効率化を支援するシステム、不動産情報や顧客情報の管理・運営を支援するシステムなどを提供する。また2017年10月に本格運用が開始されたIT重説の支援ツールも含まれる。

 「不動産情報」──不動産登記情報をデータベース化して、情報取得や解析・可視化を補助するシステムを提供する。また不適切コンテンツを判別することで、情報の適正化や透明性の確保を支援し、不動産業界全体の価値向上を図るサービスもある。

 【★「価格可視化・査定」分野の詳細】

 これら10分野のうち、ユーザーから広く関心を集めているのは「価格可視化・査定」の分野と思われる。「カオスマップ」から、該当部分をピックアップした。

 「Gate.」──ワンクリックで全てが分かる、全く新しい不動産投資シミュレーション。

 「すまいValue」──6社へまとめて査定を依頼することができる不動産売却ポータルサイト。

 「マンションナビ」──マンション売却をサポートするサービス。

 「GEEO」──不動産および金融業界のプロフェッショナル向け分析サービス。

 「イエシル」──ビックデータを利用したリアルタイム価格査定で、部屋ごとのマンション価格を算出。

 「ウルアパ」──賃貸アポート・マンションの売却価格査定サービス。

 「HAYAGAI」──中古ワンルームマンション買取り査定サービス。

 「AI-Checker」──人工知能(AI)で様々な角度からオフィスビルのキャップレート、不動産の価値を算出。

 「HOME4U(ホームフォーユー)」──不動産の売却や購入、資産活用をサポートする。

 「HOW MA(ハウマ)」──日本全国の不動産(一戸建て、マンション)の市場価値を自動的に査定し提供する。

 「プライスマップ」──知りたい物件の参考価格を、誰でも簡単に調べられるサービス。

 「マンションバリュー」──分譲マンションオーナーの快適なマンションライフをサポートする情報サービス。

 「ふじたろう(PROPERTYAGENT)」──マンション相場情報を検索できるサイト。

 「TAS-MAP(タスマップ)」──アプリケーションサービスプロバイダー(ASP)による不動産評価サービス。

 「OhMy!家賃」──家賃診断アプリ。

 【★不動産テック分野の最新情報を得られる2つのメディア】

 不動産テック分野の最新情報を得ようとする場合には、次の2つのメディアが役に立つ。

 マーキュリー社が運営する、不動産業界のニュースリンクサイト「Realnetニュース」(https://news.real-net.jp)。

 トップページの「検索欄」を活用すれば、主要なニュースをカバーできる。

 PR TIMES社が運営する、ニュースリリース配信サービスの「PR TIMES」(https://prtimes.jp)。

 トップページの「検索欄」を活用すれば、主要なニュースリリースをカバーできる。

細野 透(ほその・とおる)

建築&住宅ジャ─ナリスト。建築専門誌『日経ア─キテクチュア』編集長などを経て、2006年からフリ─ランスで活動。

東京大学大学院博士課程(建築学専攻)修了、工学博士、一級建築士。

著書に、『建築批評講座』(共著、日経BP社)、『ありえない家』(日本経済新聞社)、『耐震偽装』(日本経済新聞社)、 『風水の真実』(日本経済新聞出版社)、『東京スカイツリーと東京タワー』(建築資料研究社)、 『巨大地震権威16人の警告』(共著、文春新書)、『謎深き庭 龍安寺石庭』(淡交社)など。


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