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スペシャリストの眼

「斜め45度」の視点

2012年9月25日

第80回関西で先行するレベル3の耐震設計

 JSCA(日本建築構造技術者協会)関西などが主宰する、「大阪府域内陸直下型地震(上町断層帯地震)に対する建築設計用地震動および設計法に関する研究会」(略称、大震研)は、2011年、新しい耐震設計方法を提案した。

 (1) 大阪市域に新築される、60mを超える超高層建物と免震建物を対象にする。

 (2) 現行のレベル2を上回る、レベル3(3A、3B、3C)の地震動を採用する。

 (3) レベル2地震動と比べて、3Aの地震動は1.2倍、3Bは1.5倍、3Cは1.8倍とする。

 (4) 設計目標として、限界状態Ⅰ(中破程度)、限界状態Ⅱ(倒壊しない)の2種類を考える。

 (5) 設計者は建築主と協議して、3A、3B、3Cおよび状態Ⅰ、状態Ⅱを選択する。

 (6) 大震研としては、地震動レベル3Bと限界状態Ⅰを推奨する。このとき、整形の建物では、全体コストが1?5%上昇する。

 なお、 低層建物に関しては現行のレベル2設計のままでいいが、中高層建物(高さ10m超)に関しては地震動レベルは3Bの方が望ましいとする論文も存在する。

 2012年夏に開催された、日本建築学会構造委員会のシンポジウム「増大する地震動レベルと今後の耐震設計」では、JSCA関西「大震研」への対応が報告された(大林組大阪本店構造設計部、西影武知氏)。

 (1) 超高層分譲マンションでは、傾向として、大震研対応を行う場合が多い。

 (2) マンション以外の民間ビルでは、大震研対応を行う建築主もあるが、コスト増に躊躇する場合も多い。

 (3) レベル2で免震構造や制震構造を採用した場合、建築主がレベル3は不要と判断する場合もある。

 なお、東京の直下型地震でも、レベル3のキラーパルスが発生すると予想されるが、こちらは大阪に比べて研究が進んでいない。

 ほかに心配なのが、南海トラフ巨大地震の震源地が、静岡県、愛知県、三重県、和歌山県、四国4県などの直下だったとき。この場合には、未曽有のキラーパルスが発生する可能性を否定できない。

 

 【参考資料】

 「日本建築構造技術者協会 (JSCA)関西支部プレスリリース資料(平成23年7月6日)」─「大阪府域内陸直下型地震(上町断層帯地震)に対する建築設計用地震動および設計法に関する研究」

 http://www.pref.osaka.jp/attach/13203/00078593/jsca_sannkou.pdf

細野 透(ほその・とおる)

建築&住宅ジャーナリスト。建築専門誌「日経アーキテクチュア」編集長などを経て、2006年からフリージャーナリストとして活動。  東京大学大学院博士課程(建築学専攻)修了、工学博士、一級建築士。日本建築学会・編集委員会顧問。 ブログ『建築雑誌オールレビュー』を主宰。日経産業新聞『目利きが斬る・住宅欄』に寄稿。  著書に、『建築批評講座』(共著、日経BP社)、『建築家という生き方』(共著、日経BP社)、 『ありえない家』(日本経済新聞社)、『建築産業再生のためのマネジメント講座』(共著、早稲田大学出版部) 、 『耐震偽装』(日本経済新聞社)、『風水の真実』(日本経済新聞出版社)ほかがある。


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