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スペシャリストの眼

「斜め45度」の視点

2010年11月30日

第24回「建基法見直し検討会」が空中分解

 このコラムの第17回(2010年4月27日付)で、「改悪建築基準法を緊急手術」と題して、建築基準法の改正が2段階に分けて行われることを説明した。

 第1段階は、「確認審査の迅速化」、「提出資料の簡素化」、「厳罰化」を3本柱として、6月1日から施行する。

 第2段階は、構造計算適合性判定制度(適判)の対象範囲、確認審査の法定期間、厳罰化の3テーマを課題として、国交省が設置する「建築基準法の見直しに関する検討会」(座長、深尾精一首都大学東京教授)で、改正の内容を詰めていく・・・。

 このうち、第1段階は予定通り施行されたが、第2段階は「空中分解」してしまった。それは、「見直し検討会」が結論を出せないまま、10月下旬に、散会してしまったからだ。

 最後になった第11回検討会(10月19日)では、深尾精一座長が「とりまとめ座長案」を示して、委員の意見を集約しようと試みた。しかし、逆に意見は拡散するだけで、結論を出すことはできなかった。

 その原因は、建築業界側の委員が、適判の対象範囲の縮小など「規制緩和」を求めたのに対し、消費者側の委員が「規制緩和」に反対し、かつ「罰則強化」を主張して、調整が付かなかったからだ。

 したがって、「とりまとめ座長案」とは言っても、実際には、委員から出された各論を並記しているだけで、方向性を明記しているわけではない。

 「座長案」では、例えば「厳罰化」に関して、次のように表記している。

 (1) 厳罰化については、性善説に立ち設計側に対するチェックを緩和するのであれば、信頼を裏切った者はより厳罰に処すべきとの意見が提起されている。

 (2) 一方で、罰則は十分強化されているとの慎重意見や、刑事罰の強化よりも業務停止等の行政処分による制裁強化により対応すべきとの指摘が、複数の委員よりなされた。

 (3) また、事後の罰則では被害者の救済に直結しないとの指摘があった。さらに、効果的な行政処分による制裁があることを前提に、事前チェック機能や資格者の資質を確保する仕組みを強化することが、不正防止につながり有効ではないかとの指摘もあった。

 (4) 罰則(法定刑)の引き上げの是非に関しては、他制度における罰則の水準を考慮して検討する必要がある。あわせて、効果的な行政処分による制裁強化を通じた、不正の発生防止について検討する必要があると考えられる。

 (5) この場合、設計段階のみならず、施工段階も含めた、より効果的な違反防止策について検討すべきである。

 この5項目を一読して、座長がどの方向を目指しているのか、理解できる人がいるだろうか。私には理解できない。

 振り返れば、姉歯元建築士による「耐震偽装」が発覚したのは2005年11月17日だった。そして、改正された建築基準法が施行されたのは2007年6月20日。それと同時並行する形で、「建基法不況」が発生した。

 さらに、2007年10月30日には、建材メーカーのニチアスによる「建材偽装」が発覚。約4万棟の住宅が「耐火基準を満たしていない」と判明した。その後、建材偽装は続々と発覚し、認定を取り消された建材は、実に約60社、約140製品に及んでいる。

 このように、建築基準法は「機能不全」状態に陥っているのに、「見直し検討会」はあえなく空中分解してしまった。建築行政は今後、どうなっていくのか。暗澹たる気持ちにとらわれているのは、私だけであろうか。

細野 透(ほその・とおる)

建築&住宅ジャーナリスト。建築専門誌「日経アーキテクチュア」編集長などを経て、2006年からフリージャーナリストとして活動。  東京大学大学院博士課程(建築学専攻)修了、工学博士、一級建築士。日本建築学会・編集委員会顧問。 ブログ『建築雑誌オールレビュー』を主宰。日経産業新聞『目利きが斬る・住宅欄』に寄稿。  著書に、『建築批評講座』(共著、日経BP社)、『建築家という生き方』(共著、日経BP社)、 『ありえない家』(日本経済新聞社)、『建築産業再生のためのマネジメント講座』(共著、早稲田大学出版部) 、 『耐震偽装』(日本経済新聞社)、『風水の真実』(日本経済新聞出版社)ほかがある。


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