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「斜め45度」の視点

2016年3月8日

第204回横浜「傾斜2物件」が全棟建替で決着へ

 杭の施工不良によって傾斜した2件のマンション、「パークシティLaLa横浜」と「パークスクエア三ツ沢公園」が、ともに全棟建替で決着する見通しになった。

 最初に傾斜が発見されたのは、住友不動産が分譲し熊谷組が設計・施工した「パークスクエア三ツ沢公園」だった。しかし、問題の経緯表に示すように、その対応は後手後手に回った。

 2013年3月に住民が手すりのズレを発見したにもかかわらず、住友不と熊谷組はなぜかこれを放置していた。そのため、業を煮やした住民が、翌14年3月に自主的にボーリング調査を実施し、一部の杭が支持層に未達であるらしいことを確認した。その後、住友不と熊谷組は重い腰をようやく上げて、ボーリング調査を実施したのである。14年6月に判明した結果は、横浜市が傾いた1棟(B南棟)からの退避を勧告するほどの深刻なものだった。

 14年10月に、住友不は、傾いた1棟(B南棟)だけの建替を提案し、問題を決着させようとした。しかし、B南棟と繋がっている、B東棟の住民のうち2割程度が一時転居するなど、安全性への不安が絶えなかったのである。

 そういう状態が続いていた15年10月に、「LaLa横浜」傾斜問題を各メディアが大々的に報道し、三井不レジが全棟建替を基本的な枠組みとする解決案を提示した。これに刺激された「三ツ沢公園」管理組合が、「誠実」な対応を求めて活動すると、今度は基礎部分のスリーブに、鉄筋が切断された個所が確認されたのである。

 スリーブとは、配管や配線のために、構造躯体(柱、梁、床、壁)を貫通する穴(孔)をいい、「三ツ沢公園」には315個所ある。

 (1)23個所のスリーブで鉄筋を切断している可能性がある。

 (2)これとは別に37個所のスリーブで、穴周辺に必要な開口補強筋を確認できなかった。

 スリーブの鉄筋切断で記憶に新しいのは、13年12月に発覚した「ザ・パークハウスグラン南青山高樹町」事件である。事業主は三菱地所レジデンス、設計監理は三菱地所設計、建築施工者は鹿島建設という最強トリオが手がけた高級マンションは、販売中止・契約解除という前代未聞の事態に追い込まれてしまった。

 地下に埋設されて分かりにくい杭と違って、鉄筋の切断あるいは開口補強筋の欠落はいったん発覚すると、建築基準法的には即座に「アウト」と判断される。住友不動産も事態が深刻なことを認識。管理組合に対して、16年3月5日、全棟建替を視野に入れた解決案を提案した。

 一方、「LaLa横浜」では15年2月27日に開催された管理組合総会で、圧倒的な多数で全棟建替案を承認。9月までに全棟建替を正式に決議する見込みである。

 問題の経緯表に示すように15年11月に1回目のアンケート、16年1月に2回目のアンケート、16年2月に管理組合総会で承認というプロセスを経て、なお9月頃まで待って全棟建替を正式に決議するのは、管理組合としては「可能なら全員一致が望ましい」と希望しているためである。

 建替工事が完了して、再入居が始まるのは2020年末とされている。

細野 透(ほその・とおる)

建築&住宅ジャーナリスト。建築専門誌「日経アーキテクチュア」編集長などを経て、2006年からフリージャーナリストとして活動。  東京大学大学院博士課程(建築学専攻)修了、工学博士、一級建築士。日本建築学会・編集委員会顧問。 ブログ『建築雑誌オールレビュー』を主宰。日経産業新聞『目利きが斬る・住宅欄』に寄稿。  著書に、『建築批評講座』(共著、日経BP社)、『建築家という生き方』(共著、日経BP社)、 『ありえない家』(日本経済新聞社)、『建築産業再生のためのマネジメント講座』(共著、早稲田大学出版部) 、 『耐震偽装』(日本経済新聞社)、『風水の真実』(日本経済新聞出版社)ほかがある。


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