リアナビ

スペシャリストの眼

「斜め45度」の視点

2010年5月25日

第18回 「マンション建設反対運動」の旗を目にしたとき

 私は現在、新聞やインターネットなどで、分譲マンションの評価記事を執筆中だ。取材対象は合格点を付けられるマンションに限定している。

 取材に際しては、モデルルームに出かけるだけではなく、必ず建設予定地を訪れて周辺を歩き回る。すると、5?10回に1回ぐらいの割合で、「マンション建設反対運動」の旗や幟(のぼり)を目にする。

 

 反対の理由は、日照権が阻害される、プライバシーが侵害される、眺望が悪くなる、巨大すぎる、景観が破壊される、周辺の建物に悪い影響が出る、交通の安全が脅かされる、などなどだ。私は、「住民の主張がもっともで、マンション会社の行動が強引すぎる」と判断すれば、そのマンションを記事に取り上げない。

 インターネットで調べれば、ほとんどの場合、反対運動の理由を知ることができる。特に注意するのは、ひとつは、反対運動が裁判に発展していないかどうか、である。

 最高裁判所第一小法廷は平成21年12月17日、「平成21(行ヒ)145 建築確認処分取消等請求、追加的併合申立て事件」に関する判決を下した。この訴訟は、東京都新宿区に建設中だったマンションを巡る争いである。最高裁は、東京高裁が下した「新宿区の建築確認は違法」とする判決を支持して、新宿区の上告を棄却。これにより、マンションの建築確認は取り消されることになった。

 日経新聞(平成22年2月15日付け)は、「建築確認の取消を巡る訴訟で、最高裁が判断を示したのは今回の訴訟が初めて」とした。

 記事ではまた、弁護士で早稲田大学法科大学院教授の日置雅晴氏の見解を伝えている。その要旨はおおむね3点になる。

 (1)建築確認は後から取り消されるリスクがあることを、建設業者は認識すべきである。

 (2)周辺住民の反対があっても、建築確認が出たことを理由に計画を強引に進める業者に、警告する必要がある。

 (3)業者と行政、周辺住民らが事前に調整できるシステムがないことを問題視したい。

 最高裁の「建築確認取消判決」により、建築確認は後から取り消される可能性があることが判明した。よって、裁判中のマンションについて評価記事を掲載することには、極めて慎重でなければならない。

 建設反対運動に関して、次に注意するのは、悪質な「近隣紛争対策会社」がからんでいないかどうか、である。この手の会社の特徴は、地域住民に対して、「誠意のない対応をする、約束を守らない、平気で嘘をつく」ことなどだ。そのため、物事がこじれて、反対運動が激化しやすくなる。

 悪質な近隣紛争対策会社が関わったということは、そのマンションがいわば「汚染」されて、本来持っている運を失ったようなものだ。運を失ったマンションを採点すると、当然ながら、「不合格点」しか付けられない。したがって、この手のマンションは、私が執筆する記事の対象にされることはない。

細野 透(ほその・とおる)

建築&住宅ジャーナリスト。建築専門誌「日経アーキテクチュア」編集長などを経て、2006年からフリージャーナリストとして活動。  東京大学大学院博士課程(建築学専攻)修了、工学博士、一級建築士。日本建築学会・編集委員会顧問。 ブログ『建築雑誌オールレビュー』を主宰。日経産業新聞『目利きが斬る・住宅欄』に寄稿。  著書に、『建築批評講座』(共著、日経BP社)、『建築家という生き方』(共著、日経BP社)、 『ありえない家』(日本経済新聞社)、『建築産業再生のためのマネジメント講座』(共著、早稲田大学出版部) 、 『耐震偽装』(日本経済新聞社)、『風水の真実』(日本経済新聞出版社)ほかがある。


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