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「斜め45度」の視点

2015年12月22日

第197回「建築基準法の改悪不況」という悪夢再び

 国交省土地・建設産業局建設市場整備課は今年10月30日に、「基礎ぐい工事問題に関する対策委員会」を設置した。私は今、同委員会の取り組みを注意深く見ている。それはかつて「耐震偽装事件」後に行われた建築基準法のとんでもない改悪で、建設業界や不動産業界が「数年間もの不況」に巻き込まれた悪夢が忘れられないからだ。

 問題の経過を、建築専門誌『日経アーキテクチュア(NA)』の指摘をピックアップする形で、たどってみよう。

 一「2005年11月」。姉歯元建築士による耐震偽装事件が発覚。

 二「NA2006年1月号」。偽装を見抜けなかった建築界のシステム再点検が始まる。

 三「NA2006年4月号」。国交省の再発防止策は、設計実務に過大な負担をかける割に、効果が少ないとしても建築界の反発が強まる。

 四「2007年6月」。国交省が改正建築基準法の改悪を強行。

 五「NA2007年10月号」。建築基準法の改悪が建築界を大混乱させただけではなく、経済活動を停滞させたため、深刻な不況が訪れる。

 六「NA2008年7月号」。3年経って着工戸数は回復傾向を示したが、建築界の疲弊は続いた。

 七「NA2009年9月号」。姉歯事件から約4年後も、建築界は不況に苦しんでいた。

 以上を要約すると、国交省は効果が余り期待できない割には、時間と費用がやたらにかかる検査体制を何重にも構築するなどして、天下り先を増やすことに注力。そのあおりを受けて、「建築基準法の改悪不況」が発生して、建設業と不動産業は長く苦しんだことになる。

 さて、傾斜マンション事件を受け、国交省が組織した「基礎ぐい工事問題に関する対策委員会」のメンバーは次の9名である。

  ○大森文彦─東洋大学法学部教授・弁護士

  □小澤一雅─東京大学大学院工学系研究科教授

  □蟹澤宏剛─芝浦工業大学工学部教授

  □時松孝次─東京工業大学大学院理工学研究科教授

  ○中川聡子─東京都市大学工学部教授

  ○西山功─国立研究開発法人建築研究所理事

  ○深尾精一─首都大学東京名誉教授

  □古阪秀三─京都大学大学院工学研究科教授

  □升田純─中央大学大学院法務研究科教授・弁護士

 このうち○印を付けた4名は、東洋ゴム工業の免震装置性能偽装事件を受けて設置された「免震材料に関する第三者委員会」のメンバーで、□印の5名は今回新たに加わったメンバーである。

 「基礎ぐい対策委員会」は、建築基準法だけではなく、建設業法や宅建業法も関わってくる奥が深いマンション傾斜問題を、どのように処理するのだろうか。建築基準法の改悪に伴う不況の二の舞だけは避けてほしいものだ。

細野 透(ほその・とおる)

建築&住宅ジャーナリスト。建築専門誌「日経アーキテクチュア」編集長などを経て、2006年からフリージャーナリストとして活動。  東京大学大学院博士課程(建築学専攻)修了、工学博士、一級建築士。日本建築学会・編集委員会顧問。 ブログ『建築雑誌オールレビュー』を主宰。日経産業新聞『目利きが斬る・住宅欄』に寄稿。  著書に、『建築批評講座』(共著、日経BP社)、『建築家という生き方』(共著、日経BP社)、 『ありえない家』(日本経済新聞社)、『建築産業再生のためのマネジメント講座』(共著、早稲田大学出版部) 、 『耐震偽装』(日本経済新聞社)、『風水の真実』(日本経済新聞出版社)ほかがある。


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