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スペシャリストの眼

「斜め45度」の視点

2018年4月17日

第280回「シェアハウス・かぼちゃの馬車」と「スルガ銀行の危ういビジネスモデル」

 サブリース形式によって、女性専用シェアハウス「かぼちゃの馬車」を運営するスマートデイズ(本社、東京都中央区銀座)が、2018年4月上旬に経営破綻した。負債総額は3月末時点で約60億円とされる。

スマートデイズのウェブサイト

 サブリースとは、不動産管理会社などが住宅所有者(オーナー)から住宅を一括で借り上げ、それを入居希望者に転貸するもの。『週刊東洋経済』などの記事を参考にすると、今回は次のような経緯になる。

【スマートデイズ】

 「高い家賃を30年間保証する」として会社員などを勧誘し、シェアハウスを建設させた。その数は845棟(1万1259室)、オーナーは約700人とされる。

 同社はそのシェアハウスを入居希望者に転貸した。

 しかし実際問題として、賃料が相場より高すぎたため、入居者は余り集まらなかった。その後、家賃を低減するなどしたが、それでも入居者は増えなかった。

【投資家(シェアハウスのオーナー)】

 会社員や地主などが、スマートデイズの「家賃を保証する」という言葉を信用して、スルガ銀行から1棟当たり1億円前後の融資を受けて住宅を建設した。

 その金利は数%なので、借入期間を30年として1億円の融資を受けた場合、毎年数百万円、30年間の総額では1億2000万円~1億5000万円を返却することになる。

 このとき注意したいのは、数%という金利の場合、家賃が利回り11%程度(毎月約92万円、毎年1100万円)に達しないと、オーナーとして利益を得るのが難しい事実である。

 しかし、スマートデイズから支払われる家賃は2017年10月にいきなり減額された。続いて2018年1月には、家賃がまったく支払われない事態に陥った。さらに4月上旬には、スマートデイズが経営破綻してしまった。

 オーナーの立場からすると、「家賃収入はゼロ」になったのに、スルガ銀行に30年かけて「毎年数百万円」ずつ返却し続けなければならない。これはまさに「泣きっ面に蜂」である。

スルガ銀行のウェブサイト

 今回の事件を受けて、日本弁護士連合会は2018年2月15日、「サブリースを前提とするアパート等の建設勧誘の際の規制強化を求める意見書」を提出した。その骨子は次の3点。

 (1)国土交通省は、建設会社(サブリース業者あるいはその関連会社)がサブリースを前提とした賃貸住宅の建設を勧誘する場合、「注文主となろうとする者に対し、サブリースに伴うリスクを十二分に説明することを義務づけるべきである」。 

 (2)国土交通省は、サブリース業者に対して「賃貸住宅管理業者登録制度」を義務づける法整備を行うとともに、「注文主となろうとする者に対し、サブリースに伴うリスクを十二分に説明することを義務づけるべきである」。 

 (3)金融庁は銀行法の施行規則に、「金融機関は賃貸住宅のローンを融資する際に、将来的な需要の見込み、空室や賃料低下のリスク等を説明すべき」と明記すべきである。

日本弁護士連合会のウェブサイト

 しかしながら国土交通省は2018年3月27日、「サブリース契約を検討されている方は、契約後のトラブルにご注意ください!」と題して、次のように述べただけである。

 「2011年から任意の登録制度として、賃貸住宅管理業者登録制度を実施している。サブリースを含む賃貸住宅管理業が守るべきルールを設けており、登録業者は、このルールを守らなければなりません」。

 要するに、日弁連は「サブリース業者に対して、賃貸住宅管理業者登録制度を義務づけろ」と主張しているのに対して、国交省は「賃貸住宅管理業者登録制度は任意で運営している」と述べただけで、余りやる気を見せていないのである。

国土交通省のウェブサイト

 その一方では、『週刊東洋経済』3月17日号が「スルガ銀行、シェアハウスでずさん審査の実態」と題する衝撃的なスクープを行った。記事の内容を要約する。

 ──シェアハウスをめぐる問題で、オーナー(住宅所有者)に取得資金を融資したのはスルガ銀行である。

 しかし、今回の融資では、提出した預金通帳の写しなどに改ざんがあったと多くのオーナーが声を上げている。「スマートデイズ被害者の会」が実施したアンケートでは、72人中60人が書類の改ざんなど不正の疑いがあったと回答した。

 これについて、スルガ銀行は2月22日に顧客にアンケートを送付して、実態把握を進めているようである。ただし、東洋経済の取材に対しては、調査中を理由に回答を控えた──

 「書類の改ざん」の目的は、預金通帳や収入証明書のコピーを勝手に書き換えて、審査を通りやすくすることである。『週刊東洋経済』が報じた「書類の改ざん」が事実とすると、由々しい問題である。

(『週刊東洋経済』3月17日号の目次)

 そして4月13日になって、事態は大きく動いた。全国紙やテレビ各局が一斉に、「金融庁は銀行法に基づいて、スルガ銀行への立ち入り検査に乗り出した」と報じたのである。

 (1)住宅所有者(オーナー)がスルガ銀行に融資を申し込むとき、スマートデイズの販売代理店が事務手続きを行った。

 (2)その際、販売代理店は融資の審査を通りやすくするため、「預貯金の残高を100倍程度にかさ上げする」「給料の額を水増しする」などの改ざんを行った。

 (3)スルガ銀行もこれを黙認した。

 これをどう解釈すればいいのだろう。サブリース問題といえば、従来は「サブリース業者あるいはその関連会社が住宅所有者(オーナー)をだますパターンだった。しかし、今回は銀行も加わっていたのである。まさに前代未聞である。

(『読売新聞オンライン』4月13日の記事)

 さてスルガ銀行(本店・静岡県沼津市)は、2016年度の平均年間給与が全国85地方銀行のトップになったことで知られる。

 その店舗は静岡県68支店、神奈川県35支店、東京都5支店、その他の地域に9支店あるので、「静岡県と神奈川県を地盤とする銀行」と呼んだ方が正確かもしれない。

 実はわが家から徒歩5分ほどの場所にも、スルガ銀行の支店がある。しかも古い店舗が解体されて、今年3月12日に「立派な店舗」が完成したばかりである。私は散歩するときには、必ずこの支店の前を通る。

 それに加えて、私が近所の本屋さんで購入した、『週刊東洋経済』3月17日号の発売日もまた3月12日だった。

 このように私とスルガ銀行の支店には「それなりの縁」がある。しかし同行を利用したことはない。よって不動産業を営む友人にスルガ銀行の評判を聞いてみると、「スルガ銀行は住宅ローンで伸びてきた」と教えてくれた。

 スルガ銀行が作成した「2017年9月期 インベスターズ・プレゼンテーション」に掲載された資料をピックアップしてみよう。
 (https://www.surugabank.co.jp/apa/2017sep/SurugaBank1711_J.pdf)


 上の図に示すように、「一般的な金融機関は事業者に対する融資を基本としている」のに対して、「スルガ銀行は消費者に対する個人ローンを基本としている」。



 個人ローンの内訳は「住宅ローンが2兆550億円(約69%)」、「パーソナルローンが9084億円(約31%)」となっている。


 住宅ローンの地域別残高比率を見ると、2017年9月時点では「首都圏60.9%」「広域18.6%」「神奈川県10.8%」「静岡県9.7%」という割合になっている。

 すなわち、「静岡県と神奈川県を地盤とする銀行」という枠を超えて、スルガ銀行の住宅ローンの融資先は、「首都圏」および「広域」にも及んでいるのである。


 「首都圏」および「広域」へ展開する手がかりになったのが、「ゆうちょ銀行」との業務提携である。そのため、全国233店舗でローンの申込みが可能になった。

 これとは別にリクルート社のSUUMOが作成した「金融機関別 住宅ローンの流れ」と題する資料がある。その中で「SUUMOはみずほ銀行、三菱東京UFJ銀行、三井住友銀行、スルガ銀行・・・など24銀行と付き合いがある」と説明している。
 (https://loan-manager.suumo.jp/c/faq/pdf/e_bank_loanline.pdf)

 いかにもSUUMOらしいのだが、驚いたことに24銀行の中でスルガ銀行だけが唯一、「スルガ銀行リクルート支店」を設置しているという。スルガ銀行の営業努力はすさまじいのである。


 さて、国民生活センターは、雑誌『国民生活8(2014 No.25)』で、「不動産サブリース問題の現状」を特集した。

 (http://www.kokusen.go.jp/wko/pdf/wko-201408_01.pdf)

 (http://www.kokusen.go.jp/wko/pdf/wko-201408_02.pdf)

 (http://www.kokusen.go.jp/wko/pdf/wko-201408_03.pdf)

 そして次のように警告した。

 ──「宅地にしてアパートを建てませんか。当社が一括借り上げして家賃も保証します。管理の手間もかかりません。節税効果もあって、安心・確実な資産運用ですよ・・・」といった甘いセールストークで勧誘。それを鵜呑みにした消費者が、その後、家賃を減額されたり打ち切られてしまって泣いているケースが少なくない──。

 しかしながら、スマートデイズのシェアハウス「かぼちゃの馬車」でもまた、国民生活センターの警告が生かされることなく多数の被害者を出してしまった。

 被害者は「スルガ銀行が融資してくれるのだから、シェアハウスを建設しても心配はないと思っていた」と訴えている。

 けれども実際問題としては、スルガ銀行はスマートデイズの販売代理店と結託して、住宅所有者(オーナー)にいわば融資を押しつけたのである。このような破廉恥な行為に対して、金融庁はどのような処分を下すのであろうか。

細野 透(ほその・とおる)

建築&住宅ジャ─ナリスト。建築専門誌『日経ア─キテクチュア』編集長などを経て、2006年からフリ─ランスで活動。

東京大学大学院博士課程(建築学専攻)修了、工学博士、一級建築士。

著書に、『建築批評講座』(共著、日経BP社)、『ありえない家』(日本経済新聞社)、『耐震偽装』(日本経済新聞社)、 『風水の真実』(日本経済新聞出版社)、『東京スカイツリーと東京タワー』(建築資料研究社)、 『巨大地震権威16人の警告』(共著、文春新書)、『謎深き庭 龍安寺石庭』(淡交社)など。


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