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スペシャリストの眼

「斜め45度」の視点

2020年4月28日

第350回 70%の不動産事業者が「新型コロナで影響」と回答──コリアーズ・ジャパン社が調査

 コリアーズ・インターナショナル・ジャパン社は、新型コロナウイルス感染症が発生して以降、「コロナ問題が不動産市場に与える影響」について、精力的に調査リリースを公表し続けている。

 本社──東京都千代田区内幸町・日比谷国際ビル5階

 同社は、世界68カ国に展開する有数の大手総合不動産・投信運用会社、「コリアーズ・インターナショナル」の日本法人である。そのため、日本だけではなく、中国、香港などのアジア市場にも詳しく、いわば「国際的な視点の調査リリース」になっているという特徴がある。

【■■■新型コロナ以前の投資市場としての東京】

 2020年1月15日の時点、すなわち日本で新型コロナ問題が発生する以前には、コリアーズ・ジャパン社は、「投資市場としての東京」について、次のように分析していた。

 ❶マクロ
 日本銀行はゼロ金利を継続する見通し。
 東京首都圏はアジア最大の大都市圏を形成。雇用の伸びは緩やかながら安定しており、景気を後押ししている。
 2030年代半ばまでは、東京は世界都市別GDP(国内総生産)ランキングで2位を維持できるであろう。

 ❷オフィス
 2019年の賃料上昇率4.0%は、今後5年間平均は1%以下と勢いを失う。
 2020年の内定率は70%を超えており、貸主のキャッシュフロー改善に貢献する見通し。
 2019年の平均利回りは3.5%前後。足元の不動産価格上昇率8.5%は、今後5年間平均で3.1%に減速する見通し。

 ❸リテール(小売り)
 都心型リテールトップと見做される地区では賃料収入が大きい。銀座や新宿等の一等地では、賃料上昇率が販売高上昇率を上回りつづける見通し。

 ❹物流
 最先端施設を備えた物流施設は、首都圏の全物流ストックの5%しかなく、かなりのグレードアップが必要である。全体的に賃料は底堅く推移し、近い将来の大量供給の影響を打ち消す見通し。


【■■■新型コロナウイルスが国内不動産市場に与える影響】

 新型コロナ問題が発生した後、コリアーズ・ジャパンは3月4日付で、「新型コロナウイルスが国内不動産市場に与える影響は?」と題するリリースを公表した。その要点を以下にまとめた。

 ❶2020年の「日本のGDP成長率」は0.2%減


 「オックスフォード・エコノミクス」は、新型コロナウイルス感染症の負の経済的影響を考慮し、日本の2020年の実質GDP成長率の予測を0.2%減とした。

 ❷潤沢な流動性サポート


 財政余力も限られる日本政府は、ウイルス対策に携わった経験に乏しく、当初の政策対応も遅れた。しかし、全体的には資金繰りの懸念は限定的である。金融緩和は維持され、実質短期金利はマイナス、10年国債金利もゼロ近辺で推移している。

 ❸消費パターンの変化に注目


 ホテルでは訪日訪問客が激減し、イベントや部屋がキャンセルされているため、最も大きな悪影響を受けている。また人気の観光地の小売店舗などでも、月間売上高の先行指数がすでに約30〜90%減少している。(注、この図は「消費パターンの進化に注目」となっているが、実際には「消費パターンの変化に注目」が正しい)

 ❹投資市場は手控え、需給は弱含み


 新型コロナウイルス感染症の影響は、年内には収束する可能性が高く、投資家は長期的な需要の原動力に注目すべきである。物流施設への追加投資は、単なるリスク管理対策となるだけでなく、日本より遥かに大きい中国の電子商取引市場にアクセスすることを可能とする。

【■■■資産クラス別の影響】
 次に資産クラス別、すなわちオフィス、ホテル、物流施設、店舗の順に、新型コロナ問題の影響を説明する。

 ❶〖オフィス〗影響は微少──タイトな需給、対応できる余地も限定的


 オフィスの移転計画、拡張計画、物件内覧は一時停止になり、投資市場、貸借市場ともに必要とされる決断は遅れる傾向。

 東京──需給はタイトで貸主に有利な市況は継続する見通し。竣工予定ビルについても、2020年は85%、2021年は39%と内定率も高く、二次空室も限定的でテナントの選択肢も限定的。空室率も低位で推移するだろう。

 大阪──相対的に過密地帯が集積しているため、短期的には貸借市場の落ち込みも相応に大きくなる見通し。2022年までは新規供給もほぼ皆無であり、取引活動も鈍化、賃料上昇のベースも想定を下回る可能性が高まりつつある。

 ❷〖ホテル〗影響はまだら模様──局地的に過剰供給懸念が顕在化


 東京オリンピックを前に増加してきた供給量は、大阪と京都でそれぞれストックの30%と65%に匹敵し、既に懸案事項となっていた。しかし、リスクは地方の小規模ホテルに偏在している。この背景は、総観光収入における訪日客への依存度が相対的に高い(全ホテル平均20%に対して地方平均29%)ため。

 ❸〖物流施設〗プラスの影響──消費パターンの変化から追い風


 長期的成長により総需要は維持される。全体的に空室率も低下傾向。首都圏では年間200万平方メートル以上の記録的な供給も順調に消化し、賃料は堅調に推移している。

 ❹〖店舗〗影響は限定的──人気のある観光地でリスクが上昇


 小規模な個人事業者などでは床需要が減退傾向に。事業規模が小さく、かつ運転資金需要が高い場合には、 地方都市などで局所的に投げ売りが発生する可能性も。

【■■■危機対応からの教訓】

 不動産価値の下落は早期にとどまり、迅速に回復する見通しである。

 価格推移を振り返ると、2011年の東日本大震災は局所的かつ物質的な影響にとどまった一方で、2008年の世界金融危機は資金繰りの悪化なども絡まり、当時の不動産価格の下落幅は震災時の4倍まで拡大した。

 資産別では、GDP成長率との関連性が高い資産クラスが、相対的に大きな影響を受けた。オフィス資産の下落幅は13%に達し、店舗とホテルがそれに続く。ただし、物流資産は、長期的な需要が健在であることから、比較的安定した価格を維持することができた。

 2020年新型ウイルス関連では、弊社では同様の不動産価格下落を見込んでいない。資金繰りや物理的ダメージを受けた過去の危機と違い、今回の危機に関する悪材料は裁量的支出と市場の信頼感の維持にかかるものが大半であるためである。

【◆】コリアーズ・ジャパン社の新型コロナ関連のニュースリリース一覧

「新型コロナウイルス: 国内不動産市場への影響は?」
 URL<https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000017.000046143.html>

細野 透(ほその・とおる)

建築&住宅ジャ─ナリスト。建築専門誌『日経ア─キテクチュア』編集長などを経て、2006年からフリ─ランスで活動。

東京大学大学院博士課程(建築学専攻)修了、工学博士、一級建築士。

著書に、『建築批評講座』(共著、日経BP社)、『ありえない家』(日本経済新聞社)、『耐震偽装』(日本経済新聞社)、 『風水の真実』(日本経済新聞出版社)、『東京スカイツリーと東京タワー』(建築資料研究社)、 『巨大地震権威16人の警告』(共著、文春新書)、『謎深き庭 龍安寺石庭』(淡交社)など。


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