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スペシャリストの眼

「斜め45度」の視点

2018年7月3日

第288回大京「横山学校」のこと──独立系デベロッパーに「山あり、谷あり」

 新築マンションのデベロッパーは大きく8つのタイプに分類できる。

 一 財閥系(三井不動産R、三菱地所R、住友不動産、東京建物・・)
 二 金融系(野村不動産・・)
 三 電鉄系(東急不動産、阪急阪神不動産、近鉄不動産・・)
 四 メーカー系(大和ハウス工業、積水ハウス、旭化成不動産R・・)
 五 ゼネコン系(大成有楽不動産、大林新星和不動産・・)
 六 インフラ系(NTT都市開発、関電不動産開発・・)
 七 商社系(伊藤忠都市開発、住友商事、丸紅・・)
 八 独立系(大京、プレサンスコーポ、日本エスリード・・)

 この8つのタイプのうち、一から七まで、すなわち「財閥系、金融系、電鉄系、メーカー系、ゼネコン系、インフラ系、商社系」の各デベロッパーは、各社もしくはその経営母体に資金力があるため、おおむね安定的に運営されてきた。

 しかしながら八の「独立系」デベロッパーは、安定した経営母体を持たないため、「山あり、谷あり」の道を歩んできて、時には企業存亡の危機に立たされることもあった。

 独立系デベロッパーを代表する、大京の歴史を振り返る(下の表)。


 大京の前身となる大京商事は1960年に設立された。1978年には「事業主別マンション発売戸数」で初の業界第1位となるなどして、1980年代には絶頂期を迎えた。

 けれども1990年代に入ると、バブル崩壊に伴って経営状態が悪化。2004年には産業再生機構による支援が決定し、2005年にはオリックスの関連会社となった。それでもなお、2006年には「事業主別マンション発売戸数」で、29年連続で業界第1位の座を占めていた。

 2010年代に入ると大京の経営は安定し、2017年には格付投資情報センターが大京の発行体格付けを「トリプルBプラス」から「シングルAマイナス」に1段階引き上げた。その一方では、2017年の「事業主別マンション発売戸数」では、業界第13位に留まっている。

 しかし現在でもなお、住友不動産、大京、東急不動産、東京建物、野村不動産、三井不動産レジデンシャル、三菱地所レジデンスという、大手7社が共同で運営をする新築マンションポータルサイト「メジャーセブン」の一員の座を占め、社会的にもいわば「老舗」として認知されている。

 その大京の創業者で、初代社長・会長を務めた横山修二氏が、5月に死去した。『日本経済新聞・電子版』は次のように報じた──。

 1960年に大京の前身となる大京商事を設立し、電話セールスや訪問による猛烈な営業攻勢で業容を拡大。「ライオンズマンション」のブランドが浸透し、1970年代後半以降、分譲マンション市場で30年近くにわたりシェア首位に君臨した。同社のOB社員が独立しダイア建設や明和地所などのマンションデベロッパーを次々に立ち上げ、「横山学校」と呼ばれた時期もあった──。

 Wikipedia「横山修二」は、大京時代の部下が創業した会社として次の9社を紹介している。

 一 安倍徹夫氏─扶桑レクセル元社長、笹原隆志氏─扶桑レクセル元常務
 二 下津寛徳氏─ダイア建設創業者
 三 原田利勝氏─明和地所創業者
 四 神山和郎氏─日神不動産創業者
 五 山岸忍氏─プレサンスコーポレーション創業者
 六 荒牧杉夫氏─日本エスリード創業者
 七 房園博行氏─アーバンコーポレイション創業者
 八 西丸誠氏─日本綜合地所創業者
 九 松谷昌樹氏─ランド創業者

 この9社は「独立系」デベロッパーだったため、大京と同様に経営状態は「山あり、谷あり」の連続だった。そして、次の3社はすでに存在しない。

「扶桑レクセル」─2009年に大京が吸収・合併した

「ダイア建設」─2008年に民事再生法を申請。それに伴って、2014年にダイア建設新潟およびダイア建設名古屋を切り離した後、本体は大和地所と合併し解散

「アーバンコーポレイション」─2011年に解散

 また、日本綜合地所は名前を変えた。

「日本綜合地所」─2009年に大和地所グループの一員となり、2015年に社名を「大和地所レジデンス」に変更

 2007年は、アメリカでサブプライムローン問題(低所得者向け住宅ローン証券の焦げつき)が発生。続く2008年は、リーマンショック(アメリカで名門証券会社のリーマンブラザースが経営破綻)が発生。世界的に金融不安となり、株価が下落し、不況が深刻化した。

 その影響もあって、「横山学校」の出身者が立ち上げた「独立系」マンションデベロッパー9社は荒波に翻弄され、3社は退場し、1社は名前を変えたのである。

細野 透(ほその・とおる)

建築&住宅ジャ─ナリスト。建築専門誌『日経ア─キテクチュア』編集長などを経て、2006年からフリ─ランスで活動。

東京大学大学院博士課程(建築学専攻)修了、工学博士、一級建築士。

著書に、『建築批評講座』(共著、日経BP社)、『ありえない家』(日本経済新聞社)、『耐震偽装』(日本経済新聞社)、 『風水の真実』(日本経済新聞出版社)、『東京スカイツリーと東京タワー』(建築資料研究社)、 『巨大地震権威16人の警告』(共著、文春新書)、『謎深き庭 龍安寺石庭』(淡交社)など。


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