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スペシャリストの眼

「斜め45度」の視点

2019年12月24日

第331回 悪質コンサルに要注意、日経MOOK『マンション管理・徹底ガイド』の視点

 皆さんは、毎年出版される『マンション管理・修繕MOOK』の3強をご存知だろうか。

 出版社の50音順でいうと、ダイヤモンド社の『マンション・団地再生“完全ガイド”』、東洋経済新報社の『マンション管理と修繕“最強ガイド”』、日本経済新聞出版社の『マンション管理・修繕&建替え“徹底ガイド”』になる。

 この中から1冊だけ選ぶとすれば、どれがいいのだろうか。書名を見ると、『完全ガイド』『最強ガイド』『徹底ガイド』。これでは、迷って決められない・・・。

 こういう場合は「ことわざ」の出番である。思い浮かぶのは、「悪かろう、安かろう」・・・。こんな本は、避けた方が無難だろう。

 その反対は「高かろ、良かろう」。すなわち、価格が高い本の方が良書のような気がする。

 この点、2019年版は『完全ガイド』886円、『最強ガイド』1080円、『徹底ガイド』1512円だった。ということで、日本経済新聞出版社の『マンション管理・修繕&建替え“徹底ガイド”』を選ぶことにした。


 念のために、AMAZONの売れ筋ランキングで「マンション本」をチェックすると、日経の『徹底ガイド』は5位に入っていた。それに対して、ダイヤモンドの『完全ガイド』、東洋経済の『最強ガイド』は1位〜100位に入っていなかった。これを見ても、日経の『徹底ガイド』を選ぶのが最善と思われる。

 それに加えて、『マンション管理・修繕』MOOKを本コラムのテーマにした理由も、説明しておこう。それは国土交通省が今年4月下旬に、『不動産業ビジョン2030』を公表。官民ともに取り組むべき課題として、「マンション管理の適正化」および「老朽ストックの更新・再生」を、掲げていたからだ。

■■■日経MOOK『マンション管理・修繕&建替え徹底ガイド』の内容

 日経の『徹底ガイド』は次のような構成になっている。

 特集─マンションにかかわる直近1年の重大ニュース
 1章─マンションの未来を考える
 2章─建物の老朽化・陳腐化をどう防ぐか
 3章─管理組合をどう運営していくか
 4章─安心できる長期修繕計画の立て方
 5章─後悔しない大規模修繕工事
 6章─資産価値を保つマンション、その秘訣を探る

 この中で注目したいのは、特集に掲載された「直近1年の重大ニュース」だ。

 「重大ニュース1」─大規模修繕工事に伴う悪質コンサルの多発
 「重大ニュース2」─免震・制震オイルダンパーの検査データ改ざん
 「重大ニュース3」─不動産とテクノロジーを融合する「不動産テック」の動き

 このうち、重大ニュース1の「大規模修繕工事に伴う悪質コンサルの多発」は、極めて深刻な問題である。

■■■悪質コンサルタントの手口

 分譲マンションの管理組合が大規模修繕工事を行う場合、通常は管理会社や設計事務所にコンサルタントを依頼することになる。しかし、そのコンサルタントが悪質な行為を行うケースが増えている。次のような手口である。

(1)施工業者を選定するに際して、コンサルタントが自分のいうことを聞く会社だけを指名する。
(2)入札に際しては、各施工業者に談合させ、特定の施工会社(A社)が落札するように手配する。
(3)これによって、コンサルは落札したA社からバックマージンを受け取ることが可能になる。
(4)管理組合はバックマージン(工事費の数%〜20%程度)の分だけ損をしてしまう。

■■■マンションNPO(マンション管理支援協議会)のウェブサイト

 悪質コンサルト問題の実情を知るためには、マンションNPO(マンション管理支援協議会)のウェブサイトが最も便利かと思われる。

 同ウェブサイトに掲載された、「狙われる管理組合──今、マンション改修業界で何が起きているのか」は、次のような構成になっている。

【1 悪質コンサルタントの実態】http://www.mansion.mlcgi.com/reno_c1.htm
 (1)2016年11月30日「マンションリフォーム技術協会が問題提起」
 (2)2017年1月27日「国土交通省通達・国住マ第41号」
 (3)2017年2月4日号「週刊ダイヤモンド」
 (4)2017年4月25日「毎日新聞」
 (5)2017年5月29日号「AERA」
 (6)2017年9月10日「マンションNPOのセミナー発表事例」
 (7)2017年10月19日「NHKクローズアップ現代」

【2 談合と管理会社主導の悪質事例】http://www.mansion.mlcgi.com/reno_c2.htm
 (1)談合を排除した事例「マンションNPO建築士の証言1」
 (2)管理会社主導の悪質事例1「マンションNPO建築士の証言2」
 (3)管理会社主導の悪質事例2「マンションNPO建築士の証言3」
 (4)管理会社主導の悪質事例3「マンションNPO建築士の証言4」

【3 マンション管理適正化法の限界】http://www.mansion.mlcgi.com/reno_c3.htm
 (1)「利益相反行為」
 (2)「双方代理と自己契約」
 (3)「欧米の管理業者規制法」
 (4)「マンション管理適正化法のしくみ」
 (5)「マンション管理適正化法の限界」
 (6)「管理会社の不公正取引」
 (7)「整備局への相談事例」
 (8)「整備局相談窓口」

【4 独禁法と公取委】http://www.mansion.mlcgi.com/reno_c4.htm
 (0)大規模修繕やマンション管理に係る不正な取引は公取委に申告しよう!
 (1)独占禁止法のいま
 (2)独占禁止法違反事件の処理の流れ
 (3)談合情報提供に当たっての留意事項
 (4)望ましい情報提供の例
 (5)審査活動の妨げとならないよう留意していただきたい事項
 (6)公正取引委員会における談合情報の取扱等
 (7)不公正な取引方法の規制
 (8)発注機関と独占禁止法の関係
 (9)不公正な取引方法に関する一般指定
 (10)独禁法第2条第9項「不公正な取引方法」
 (11)公正取引委員会への相談・届出・申告の窓口

【5 大規模修繕を成功させるポイント】http://www.mansion.mlcgi.com/reno_c5.htm
 (0)まえがき
 (1)競争性確保の徹底
 (2)安易に管理会社に頼らない
 (3)修繕委員会を立ち上げよう
 (4)第三者機関を上手に利用しよう

【6 コンサルタント選びの落とし穴】http://www.mansion.mlcgi.com/reno_c6.htm
 (1)コンサルタントの役割
 (2)コンサルタントによって何が違ったか
 (3)コンサルタント選びの落とし穴

【7 今、建築業界で何が起きているのか】http://www.mansion.mlcgi.com/serv_14.htm
  (1) 欠陥マンションで全棟建替えが相次ぐ
  (2) 問題の根
  (3) 自分のマンションをどうやって守るのか
  (4) 上昇が続く工事原価
  (5) 検査会社とは?
  (6) 国交省の補助金
  (参考) 工事価格と株価の相関について
  (参考)「設計」と「施工」が一体となった日本の特殊事情

■■■最高裁第三小法廷の衝撃的な判決

 実は日経MOOK『徹底ガイド2019年版』の発行と相前後する形で、最高裁第三小法廷で衝撃的な判決が下されている。

 「マンションの電気代を安くするために、高圧一括受電方式を導入することにしたい」──。札幌市にある分譲マンションの管理組合の総会で、高圧一括受電に関する決議が成立したのは2015年のことだった。

 しかし、全544戸のうち2戸がこの決議に反対した結果、電力会社との契約が難航して、高圧一括受電の導入は進まなかった。そのため決議に賛成した住民1人が、反対した住民2人に対して、「契約が実現していれば安くなったはずの、電気料金の差額(計1万円)を賠償してほしい」と提訴した。

 裁判は一審(地裁)、二審(高裁)を経て、三審(最高裁)まで争われた。そして2019年(平成31年)3月5日、最高裁第三小法廷は、「決議は共用部分の変更や管理にしか認められず、専有部分には及ばない」として、賛成派住民の請求を退けた──。

【平成30年(受)第234号 損害賠償等請求事件
 平成31年3月5日 第三小法廷判決
 http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/462/088462_hanrei.pdf

 何とも間が悪いことに、日経MOOK『徹底ガイド2019年版』では、その第2章「建物の老朽化・陳腐化をどう防ぐか」で、「高圧一括受電サービスの導入」を提唱している。

 しかし最高裁の判決に伴って、「高圧一括受電サービスの導入」が極めて困難になった。したがって『徹底ガイド2020年版』では、関係個所の書き換えを迫られる。

■■■「悲観論」に傾いていく気配あり

 『日経MOOK マンション管理・修繕&建替え 徹底ガイド』は2019年版で3冊目になる。

 最初に発行された2017年版には、次のようなキャッチコピーが付いていた。
 【管理組合がやること全部】

 

 次に発行された2018年版は、キャッチコピーが少し変わった。
 【住む人が満足するお金のテクニック】

 

 それが2019年版では、次のように改められた。
 【分譲マンションの未来はどうなる】

  2030年には廃墟化が加速!?
  建物と住民、二つの老いに対処
  悪質業者から積立金を守る!

 このように、年が経つにつれて、『日経MOOK 徹底ガイド』の内容が、「悲観論」に傾いていくような気配が感じられるのである。

細野 透(ほその・とおる)

建築&住宅ジャ─ナリスト。建築専門誌『日経ア─キテクチュア』編集長などを経て、2006年からフリ─ランスで活動。

東京大学大学院博士課程(建築学専攻)修了、工学博士、一級建築士。

著書に、『建築批評講座』(共著、日経BP社)、『ありえない家』(日本経済新聞社)、『耐震偽装』(日本経済新聞社)、 『風水の真実』(日本経済新聞出版社)、『東京スカイツリーと東京タワー』(建築資料研究社)、 『巨大地震権威16人の警告』(共著、文春新書)、『謎深き庭 龍安寺石庭』(淡交社)など。


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