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「斜め45度」の視点

2019年3月19日

第313回 総合的な混雑率1位はJR横須賀線「武蔵小杉→西大井」区間

 国土交通省・鉄道局・都市鉄道政策課は毎年、「主要区間を走る都市鉄道の混雑率データ」を公表する。そのデータを詳しく分析し、「“ピーク3時間帯”の総合的な混雑率」を計算した結果、JR横須賀線「武蔵小杉駅→西大井駅」区間が1位であることが判明した。

 話が込み入っているので、順を追って説明したい。

■■■東京圏における主要区間の混雑率データ

 初めに、最近3年間の「東京圏における主要区間の混雑率データ」を紹介する。


 平成27年度では、3位に「武蔵小杉→西大井」、5位に「武蔵中原→武蔵小杉」と、武蔵小杉駅の名前が2カ所に登場していることに注目したい。

 タワーマンションの街として知られる武蔵小杉駅には、東急東横線、東急目黒線、JR南武線、JR横須賀線、JR成田エクスプレス、JR湘南新宿ラインなど複数の路線が乗り入れている。同駅周辺でタワーマンションの建設が進んで、人口が増えるにつれて、武蔵小杉駅の名前は混雑率データの「常連」になってしまった。


 平成28年度では、武蔵小杉駅の名前は4位と5位に登場している。


 平成29年度では、武蔵小杉駅の名前は3位と4位に登場している。しかも1位の「木場→門前仲町」区間と、3位の「武蔵小杉→西大井」区間はわずか3%の差に縮まった。

■■■資料「混雑の見える化」を分析

 ここから先はいわば「スクープ」である。国交省・鉄道局が平成29年度(2018年7月)に初めて公表した、資料「東京圏における主要区間等の混雑の見える化」を丁寧に分析。その上で、筆者が独自に「“ピーク3時間帯”の総合的な混雑率」を計算した結果、1位は横須賀線「武蔵小杉→西大井」区間であると判明した。

 以下、図と表を交えて、詳しく説明する。

 「混雑率1位(199%)」だったのは、東京メトロ東西線「木場→門前仲町」の区間である。

 ただし、上の図表に示すように、ピーク前の「午前6時50分〜7時50分という時間帯」、ピーク時の「午前7時50分〜8時50分という時間帯」、ピーク後の「午前8時50分〜9時50分という時間帯」では、混雑率にかなりの差があることに注目してほしい。

 午前6時50分〜7時50分の時間帯には、混雑がまだピークに達していない。そのため、10両編成の電車を21本、すなわち3分弱に1本というペースで運行し、輸送力(定員)は2万9904人分が確保された。しかし、実際に乗車した人はそれをはるかに上回る4万7052人だったため、混雑率は157%になった。

 続いて、午前7時50分〜8時50分の時間帯には、混雑がピークに達する。そのため、10両編成の電車を27本、すなわち2分強に1本というペースで運行し、輸送力(定員)は3万8448人へとかさ上げされた。しかし、実際に乗車した人は7万6616人に激増したので、混雑率は199%に達した。

 さらに、午前8時50分〜9時50分の時間帯には、混雑がすでにピークを過ぎている。そのため、10両編成の電車を21本、すなわち3分弱に1本というペースで運行し、輸送力(定員)は2万9904人が確保された。しかし、実際に乗車した人は3万8866人だったため、混雑率は130%に減った。

 このデータをもとに、午前6時50分〜9時50分という「“ピーク3時間帯”の総合的な混雑率」を求めることにしたい。計算には次の式を使う。

 「“ピーク3時間帯”の総合的な混雑率」
   =「“ピーク3時間帯”の輸送人員」÷「“ピーク3時間帯”の輸送力」
   =「16万2534人」÷「9万8256人」
   =1.65(165%)

 このようにデータを見える化したことにより、「“ピーク3時間帯”の総合的な混雑率」という、新たな指標を得ることができた。

「混雑率2位(197%)」だったのは、JR総武線(緩行)「錦糸町〜両国」の区間である。この区間について、午前6時33分〜9時35分という「“ピーク3時間帯”の総合的な混雑率」を求めると、171%になった。

「混雑率3位(196%)」だったのは、JR横須賀線「武蔵小杉〜西大井」の区間である。この区間について、午前6時25分〜9時27分という「“ピーク3時間帯”の総合的な混雑率」を求めると、177%になった。

 

■■■「“ピーク3時間帯”の総合的な混雑率」ランキング

 資料「混雑の見える化」に掲載されたデータを使って計算した、「“ピーク3時間帯”の総合的な混雑率」ランキング(平成29年度)を、下の表にまとめた。


 「“ピーク3時間帯”の総合的な混雑率」ランキングで1位の座に着いたのは、177%を記録したJR横須賀線「武蔵小杉→西大井」区間である。

 すなわち、「混雑がピークになる1時間を避けるため、乗客がピーク前の1時間およびピーク後の1時間 に分散していく、“ピーク3時間帯”というコンセプト」に注目すると、総合的な混雑率1位は「武蔵小杉→西大井」区間であるという事実が浮き彫りになった。

■■■混雑率の目安


 混雑率が150%とは「広げて楽に新聞を読める」、180%とは「折りたたむなど無理をすれば新聞を読める」という状態である。また200%だと「身体が触れあい相当圧迫感がある」状態になる。

■■■三大都市圏主要区間の平均混雑率

 国交省・鉄道局は、「ピーク時における主要区間の平均混雑率を150%に抑えること」を目標にしている。しかし東京圏だけは目標に達していない。

 東京圏─163%
 大阪圏─125%
 名古屋圏─131%

■■■目標混雑率180%を超える11路線

 国交省・鉄道局は、「ピーク時における個別路線の混雑率を180%以下に抑えること」を目標にしている。しかし、東京圏では以下の11路線が目標に達していない。

 東京メトロ東西線  ─199%
 JR総武線(緩行) ─197%
 JR横須賀線    ─196%
 JR南武線     ─189%
 JR東海道線    ─187%
 日暮里舎人ライナー ─187%
 JR京浜東北線   ─186%
 JR埼京線     ─185%
 東急田園都市線   ─185%
 JR中央快速線   ─184%
 JR総武線(快速) ─181%

細野 透(ほその・とおる)

建築&住宅ジャ─ナリスト。建築専門誌『日経ア─キテクチュア』編集長などを経て、2006年からフリ─ランスで活動。

東京大学大学院博士課程(建築学専攻)修了、工学博士、一級建築士。

著書に、『建築批評講座』(共著、日経BP社)、『ありえない家』(日本経済新聞社)、『耐震偽装』(日本経済新聞社)、 『風水の真実』(日本経済新聞出版社)、『東京スカイツリーと東京タワー』(建築資料研究社)、 『巨大地震権威16人の警告』(共著、文春新書)、『謎深き庭 龍安寺石庭』(淡交社)など。


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