リアナビ

スペシャリストの眼

「斜め45度」の視点

2009年08月25日

第9回 企画担当者が熱く語るマンション

 分譲マンションの取材に際して、住宅ジャーナリストとして話を聞きたいのは、まず企画担当者であり、 次に販売担当者と設計者であり、さらには施工者にも会えればベストである。その一方、芸能人などを起用した セールスプロモーション用のビデオは、時間が無駄になるだけなので、出来れば見たくはない。 しかし、取材のためにモデルルームを訪れると、当方の意に反して、初めにセールスプロモーション用の ビデオとお付き合いさせられるケースが少なくない。

 芸能人などを起用したビデオが、マンション販売に実際に役に立っているのであれば、これから私が書くことは、 「余計なお世話である」として読み飛ばしてもらえばいい。逆に、あまり役に立っていないのであれば、 ぜひ参考にしてもらいたい。

 7月16日に、野村不動産が記者発表を開いた。マンション建て替え事業を積極的に展開する予定であり、 その目玉プロジェクトとして、草創期のヴィンテージマンションとして知られた「エンパイアコープ」(69戸、昭和38年竣工)を 解体して、新たに「プラウド新宿御苑エンパイア」(93戸、平成22年6月竣工予定)を建設し、8月から販売するという内容だった。

 管理組合がデベロッパーとして野村不動産を選定したのは2006年6月である。記者発表の席上では、それ以降の同社の 取り組みがビデオなどで示された。プロジェクトの担当者が順番に登場し、「エンパイアコープは親しまれていた」、 「敷地は緑に恵まれている」などと前置きした後、「旧入居者と新入居者の双方に満足してもらうマンションを実現するため、 こんな風に努力してきた」と説明するストーリーだった。

 内容が分かりやすかっただけではなく、担当者のいわば「熱い心」も伝わってきた。プロジェクトの良さを素直に表現できていて、 芸能人が登場するきれい事ビデオに比べて、はるかに説得力があった。 「マンション購入を検討するユーザーにも、本当はこういうビデオを見せた方がいいのになぁ・・・」。

 記者発表が終わった後で、念のために広報担当者に確認した。「これは記者発表用のビデオですよね?」。「違います。モデルルームに来るユーザーにもお見せします」。

 野村不動産は現在、11物件のマンション建て替え事業に取り組んでいるという。

 阿佐ヶ谷住宅建て替えプロジェクト (350戸→582戸)
 桜上水団地建て替えプロジェクト (404戸→780戸)
 南砂エステート建て替えプロジェクト (139戸→296戸)
 白金台共同住宅建て替えプロジェクト (98戸→175戸)
 三田建て替えプロジェクト (94戸→172戸)
 渋谷駅前建て替えプロジェクト (29戸→107戸)
 ・・・・・・

 プロジェクトのリストを眺めると、いずれも長い歴史があっただろうマンションの名前が並んでいる。担当者にとって、 苦労が多い一方、さぞやりがいもあるのではないか。その意気込みを伝えるためにも、ぜひ、彼らが登場するビデオを 作って見せてもらいたい。

 マンション各社には、企画担当者が主役となるビデオの活用を検討してほしいと思う。ただし、その前提条件となるのが、 対象となるプロジェクトが担当者を熱くするだけの優れたマンションでなければならないのは、言うまでもない。

細野 透(ほその・とおる)

建築&住宅ジャーナリスト。建築専門誌「日経アーキテクチュア」編集長などを経て、2006年からフリージャーナリストとして活動。  東京大学大学院博士課程(建築学専攻)修了、工学博士、一級建築士。日本建築学会・編集委員会顧問。 ブログ『建築雑誌オールレビュー』を主宰。日経産業新聞『目利きが斬る・住宅欄』に寄稿。  著書に、『建築批評講座』(共著、日経BP社)、『建築家という生き方』(共著、日経BP社)、 『ありえない家』(日本経済新聞社)、『建築産業再生のためのマネジメント講座』(共著、早稲田大学出版部) 、 『耐震偽装』(日本経済新聞社)、『風水の真実』(日本経済新聞出版社)ほかがある。


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