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スペシャリストの眼

「斜め45度」の視点

2017年2月21日

第239回生き返るマンション、死ぬマンション

 すでに読んだ人がいるかもしれないが、マンションをこれから購入しようとする人、あるいはすでに住んでいる人を不安にさせるような新書が、相次いで出版された。

 生き返るマンション、死ぬマンション』(萩原博子著、文春新書)

 『マンション格差』(榊淳司著、講談社現代新書)

 『こんな街に「家」を買ってはいけない』(牧野知弘著、角川新書)

 まず1冊目『生き返るマンション、死ぬマンション』の内容を簡単にまとめる。帯には「あなたのマンションは資産になるのか! お荷物になるのか!!」とある。

 「年々ローンはきつくなるのに、資産価値はどんどん落ちてゆく──。マンション大崩壊の時代に、我々庶民に打つ手はないのか?そんな悩みに『庶民の味方』が日本各地を徹底取材。あなたのマンションを『お宝』に変える方法を具体的に紹介します!」

 第1章 なぜ買ってしまったのか

     ―50代の生活を破壊するマンション負債

 第2章 失われる資産価値

     ―続発する欠陥マンション

 第3章 建替えという高いハードル

     ―耐震偽装マンションの再生に学ぶ

 第4章 あなたのマンションは再生可能か?

 第5章 資産価値を守る

     ―マンションのメンテナンス最前線

 第6章 マンション管理の経営的視点

     ―「勝ち組マンション」になるために

 第7章 築41年の中古物件なのに資産価値が上がり続ける秘密

 1章から3章までは、お荷物になるマンションを買ってしまった場合に待ち受ける、暗い話が続く。続く4章は建替の実態、5章はメンテナンスの実態だが、いろいろな困難が伴うため、読んでいるとため息が出てくる。

 しかし、6章と7章になると場面は一転。「勝ち組マンション」になるために、マンション管理組合が独創的な試みを行っている「ブリリアマーレ有明(東京都江東区有明1丁目、33階建て、1085戸)」、および「西京極ハイツ(京都市右京区西院久保田町、9階建て、162戸)」における驚くような成功例が報告され、気分が一気に高揚してくる。

 2冊目は『マンション格差』。帯には、「あなたのマンションは『勝ち組』『負け組』?」とある。

 「いまから35年前、都心に勤務する30代のサラリーマン二人が、それぞれマンションを購入した。価格はともに4000万円前後。35年ローンを完済させたこのAさんとBさんが、いずれ将来は高齢者施設に入ることを想定し、自宅マンションの売却査定額をそれぞれ不動産仲介業者に出してもらった。すると、Aさんのマンションは3200万円だったのに対し、Bさんのマンションは800万円だった。何が運命を分けたのか!?」

 「いまあなたが住んでいるマンション、これから住むかもしれないマンション、親から譲り受けて何とかしなければならないマンション、子供から購入のために資金援助を求められているマンション。それらのマンションを『格差』の視点で見つめるとどうなるのか?」

 第1章 マンションのブランド格差を考える

     ―最初に格差をつけるのはデベロッパー

 第2章 管理組合の財政が格差を拡大させる

     ―大規模修繕工事「割高」「手抜き」の実態

 第3章 価格が落ちない中古マンションとは

     ―市場はいかにして「格付け」するのか

 第4章 マンションの格差は「9割が立地」

     ―将来性を期待「できる」街と「できない」街

 第5章 タワーマンションの「階数ヒエラルキー」

     ―「所得の少ない低層住民」という視線

 第6章 管理が未来の価値と格差を創造する

     ―理事会の不正は決して他人事ではない

 第7章 マンション「格差」大競争時代への備え

     ―賃貸と分譲を比較検討する

 特別附録 デベロッパー大手12社をズバリ診断

 萩原博子氏の『生き返るマンション、死ぬマンション』と、榊淳司氏の『マンション格差』を比べると、基本的には似たような構成なのだが、萩原氏は経済ジャーナリストとして社会を広く見回しているのに対して、榊氏は住宅ジャーナリストとして不動産業界に深く迫っていくような視点である。

 そして、萩原氏は最後に勝ち組マンション「ブリリアマーレ有明」、「西京極ハイツ」を詳しく取材しているため、何か救われた気持ちになる。その一方、榊氏は「管理が未来の価値と格差を創造する」と指摘した後に、さらに「理事会の不正は決して他人事ではない」と厳しい現実を突きつけているため、重い気持ちが残ったままになった。

 3冊目は『こんな街に「家」を買ってはいけない』。帯には、「東京などへの通勤に1時間以上、駅からバスを利用する、住宅地内の傾斜がきつい、1970~80年代に開発された──マイホームも使い捨ての時代がやってきた」とある。

 「住民の高齢化、崩壊する生活基盤、空き家の増加。今、郊外の住宅街は破綻の危機にある。この現実を前にできることは何か。家を買った人も買う予定の人も知って欲しい、住宅街が抱える問題と対策を明らかにした1冊」。

 第1章 住宅街が崩壊する日

 第2章 全国に2000もあるニュータウンという厄介者

 第3章 戸建ての維持に悲鳴を上げる人たち

 第4章 人気が上昇し続ける住宅地の条件とは

 第5章 相続が「負の相続」になるとき

 第6章 戸建て住宅街に将来性はあるのか

 第7章 戸建て住宅街からの脱出法

 第8章 住宅を賢く買うには

 第9章 不動産に対する考え方を変えるとき

 著者の牧野知弘氏はホテルビジネスのコンサルタント、および不動産売買・賃貸仲介業を手がける株式会社オラガ総研の代表。萩原氏と榊氏は、マンションの勝ち組と負け組を選別しているのに、牧野氏は戸建て住宅街(ニュータウン)そのものを厄介者と総括していて、ずいぶん手厳しい。

細野 透(ほその・とおる)

建築&住宅ジャーナリスト。建築専門誌「日経アーキテクチュア」編集長などを経て、2006年からフリージャーナリストとして活動。  東京大学大学院博士課程(建築学専攻)修了、工学博士、一級建築士。日本建築学会・編集委員会顧問。 ブログ『建築雑誌オールレビュー』を主宰。日経産業新聞『目利きが斬る・住宅欄』に寄稿。  著書に、『建築批評講座』(共著、日経BP社)、『建築家という生き方』(共著、日経BP社)、 『ありえない家』(日本経済新聞社)、『建築産業再生のためのマネジメント講座』(共著、早稲田大学出版部) 、 『耐震偽装』(日本経済新聞社)、『風水の真実』(日本経済新聞出版社)ほかがある。


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