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「斜め45度」の視点

2021年1月12日

第367回 新築分譲マンション広告No1「読売広告社の味わい深いコロナレポート」

 明けまして御目出度うございます。2020年に続いて、2021年も「新型コロナに苦労する1年になる」のは必至です。新年を迎えたのを契機に、しっかり「気合い」を入れ直して、コロナに立ち向かっていこうではありませんか。

 私は次のように考えました──。この特別コラムに掲載する「本年最初の記事」の素材としては、「昨2020年に公表された各種調査レポートの中から、2021年の冒頭にもう1度、読み直したくなるものを選ぶことにしよう」。

 2020年に私は、「200点〜300点の調査レポート」に目を通しました。その中で、読み直したいもの・・・。その筆頭は、読売広告社が昨2020年8月27日に発表した、「withコロナで見えてきた住宅ニーズの変化」と題する調査レポートでした。

「調査レポート」のURL
<https://www.yomiko.co.jp/wp-content/uploads/2020/08/20200827-1.pdf>

【■■】読売広告社「新築分譲マンション広告は業界No1」

 読売広告社は東京都港区赤坂に本社を置く広告代理店で、国内広告業界第2位の博報堂DYホールディングスの傘下にあります。

 広告業界への就職を目指す就活生のための就活情報サイト「ADvice(アドバイス)」は、同社を次のように紹介しています。

 ──総合広告代理店として国内7位。「読売」という名前が社名に入っていますが、実はあの読売新聞グループとは無関係で、会社発足当時に読売新聞の広告枠を扱っていたことからこの社名になったそうです。

 ズバリ、読売広告社が強みを持つ領域は不動産業界です。同社は大手不動産のクライアントを多く持ち、「新築分譲マンションの広告は業界No1」と言われています。長年にわたり不動産領域にてノウハウを蓄積し、そのスキルは都市開発へのコンサルティングなどの分野にも活かされています──。

「新築分譲マンション広告の業界No1」というのですから、やはり見逃す訳にはいきません。

【■■】調査レポート「withコロナで見えてきた住宅ニーズの変化」

 この調査レポートは、「首都圏に住む住宅購入意向者」を対象に、新型コロナウイルスの流行によって、「住宅購入に対する考え方、ニーズがどう変わったのか」をアンケート調査した結果です。

 その冒頭で読売広告社は、調査の目的を次のように説明しています。

 ──世界はもとより、日本に住むおよそ全ての生活者に対し、経済的にも生活面にも大きなインパクトを与えた新型コロナウイルスの流行。

 これによって、住宅購入者の行動やマインド・ニーズは、どう変化するのか。マーケットそのものは、どのような変化を見せるのか。マーケットに起こりうる変化の兆しを考察しました。

 調査の結果、生活者は、コロナ禍そのもの、またそこから派生したテレワークやオンライン授業などの経験から、「住まい=住宅」に求める価値や機能を拡大させる傾向にあります。

 また、住まいのエリア選定においても生活利便性の高さはもちろんのこと、自然環境など「暮らしやすい環境」を強く求める傾向が見えてきました──。

〔調査対象〕
  過去1年以内に住宅購入のために情報収集をしていて、3年以内のマンションもしくは戸建て購入を検討している人。世帯年収は700万円以上。

〔マンション購入検討層 600名〕
 首都圏23区(214名)、都下(86名)、神奈川(100名)、埼玉(100名)、千葉(100名)

〔戸建て購入検討層250名〕
 首都圏23区(50名)、都下(50名)、神奈川(50名)、埼玉(50名)、千葉(50名)

【■■】調査結果その1──住まいの考え方(コロナ後に重視しているトップ10)


(画像データは読売広告社の調査レポートから引用)

◆住まいの考え方「コロナ後トップ10」の内容

(1位)日当たりや風通しの良い家に住みたい
32.6%──コロナ前1位・変化なし

(2位)セキュリティがしっかりとした家に住みたい
    24.7%──コロナ前2位・変化なし

(3位)防災に強い家に住みたい
    24.2%──コロナ前3位・変化なし

(4位)インターネット環境のよい家に住みたい
    20.6%──コロナ前6位・2ランクup

(5位)一生住み続けられる家に住みたい
19.6%──コロナ前5位・変化なし

(6位)設備仕様が充実した住まいに住みたい
    19.2%──コロナ前4位・2ランクdown

(7位)家族間のプライバシーが保たれる家に住みたい
14.6%──コロナ前8位・1ランクup

(8位)子育てがしやすい家に住みたい
12.5%──コロナ前10位・2ランクup

(9位)マンションより一戸建てに住みたい
12.4%──コロナ前12位・3ランクup

(10位)信頼のおける大手企業が販売する住まいに住みたい
    11.3%──コロナ前7位・3ランクdown

 ◆「調査結果その1」の分析

 「住まいの考え方(コロナ後に重視しているトップ10)ランキング」をざっと見ると、大きく3つのグループに分類できます。

 ◇グループ1〘コロナ発生後にランク(順位)が上がった〙

  「インターネット環境のよい家に住みたい (6位→4位)」
  「家族間のプライバシーが保たれる家に住みたい (8位→7位)」
  「子育てがしやすい家に住みたい (10位→8位)」
  「マンションより一戸建てに住みたい (12位→9位)」

   ⇨ネット環境、プライバシー、子育て、戸建ての評価が上がりました。
   すなわち、現在のマンションに不足している要素が判明したことになります。

  ◇グループ2〘コロナ以前と以後で、ランク(順位)が変わっていない〙

  「日当たりや風通しの良い家に住みたい(1位→1位)」
  「セキュリティがしっかりとした家に住みたい(2位→2位)」
 「防災に強い家に住みたい(3位→3位)」
  「一生住み続けられる家に住みたい(5位→5位)」

   ⇨日当たり・風通し、セキュリティ、防災、一生住み続けられる家。   これらはいずれも、「住まいの基本」です。

 ◇グループ3〘コロナ発生後にランク(順位)が下がった〙

  「設備仕様が充実した住まいに住みたい(4位→6位)」
  「信頼のおける大手企業が販売する住まいに住みたい(7位→10位)」

⇨いい設備、信頼できる企業への「こだわり」が減っています。    コロナで「生活にゆとりがなくなった」ためでしょうか。

  ◇〘注記〙

 読売広告社は2020年8月27日付け「レポート」の中で、「コロナ前のデータ」と「コロナ後のデータ」を比較しています。そのうち「コロナ前のデータ」とは、読売広告社・都市生活研究所が、2019年12月6日に公表した、下記の調査レポートに掲載されたものです。

 「新しい消費スタイルは『都市』から生まれる。 首都圏高額マンション居住者から垣間見える、 最新の都市生活者像と消費スタイルが明らかに」。

調査レポートのURL
 <https://www.yomiko.co.jp/news/release/201912061266/>

【■■】調査結果その2──エリア・立地の考え方(コロナ後に重視しているトップ10)


((画像データは読売広告社の調査レポートから引用)

 ◆エリア・立地の考え方「トップ10」の内容

(1位)日常の買い物に便利なところに住みたい
30.4%──コロナ前2位、1ランクup

(2位)治安のよいエリアに 住みたい
    27.2%──コロナ前1位、1ランクdown 

(3位)医療関係の良いところに住みたい
    27.1%──コロナ前5位、2ランクup

(4位)駅に近いところに住みたい
    16.9%──コロナ前3位、1ランクdown 

(5位)通勤通学に便利なところに住みたい
15.9%──コロナ前4位、1ランクdown

(6位)緑や公園が豊富なところに住みたい
    15.4%──コロナ前6位、変化なし

(7位)住民サービスの充実に取り組む自治体に住みたい
15.2%──コロナ前11位、4ランクup 

(8位)自然が豊かなところに住みたい
11.6%──コロナ前11位、3ランクUP

(9位)閑静な住宅街に住みたい
10.8%──コロナ前9位、順位の変化なし

(10位)都心や都市部に住みたい
    10.6%──コロナ前7位、3ランクdown

 ◆「調査結果その2」の分析

 「エリア・立地の考え方(コロナ後に重視しているトップ10ランキング)」をざっと見ると、大きく3つのグループに分類することが可能です。

 ◇グループ1「〘コロナ発生後にランク(順位)が上がっている〙

 (1位)日常の買い物に便利なところに住みたい
 30.4%──コロナ前2位、1ランクup

 (3位)医療関係の良いところに住みたい
     27.1%──コロナ前5位、2ランクup

 (7位)住民サービスの充実に取り組む自治体に住みたい
 15.2%──コロナ前11位、4ランクup 

 (8位)自然が豊かなところに住みたい
 11.6%──コロナ前11位、3ランクUP

  ⇨買い物、医療、自治体の住民サービス、自然が豊か・・・。
   コロナを経験して、「健康な生活を過ごすために必要」と実感した項目が並んでいます。

 ◇グループ2〘コロナ以前と以後で、ランク(順位)が変わっていない〙

(6位)緑や公園が豊富なところに住みたい
     15.4%──コロナ前6位・順位の変化なし

 (9位)閑静な住宅街に住みたい
     10.8%── コロナ前9位・順位の変化なし

  ⇨緑・公園、閑静な住宅街・・・。
   コロナを経験しても、評価は変わりません。

 ◇グループ3〘コロナ発生後にランク(順位)が下がっている〙

 (2位)治安のよいエリアに 住みたい
     27.2%──コロナ前1位・1ランクdown 

 (4位)駅に近いところに住みたい
     16.9%──コロナ前3位・1ランクdown 

 (5位)通勤通学に便利なところに住みたい
15.9%──コロナ前4位・1ランクdown

 (10位)都心や都市部に住みたい
     10.6%──コロナ前7位・3ランクdown

  ⇨治安、駅近、通勤通学の便、都心・都市部に対する評価が下がっています。
   コロナ問題が発生する以前は考えられなかった、「新たな価値観」が生まれた結果と思われます。

【■■】調査結果その3──住宅購入意欲


((画像データは読売広告社の調査レポートから引用)

「住宅購入意欲」の調査結果は次のような割合になりました。

 「意欲が高まった」──29.3%
 「意欲が変わらない」──55.1%
 「意欲が減退した」──15.6%

  「意欲が高まった」と「意欲が変わらない」を合計すると、実に84.4%になりました。コロナ禍のなかでも購入意欲は高いようです。その理由を詳しく説明しましょう。

 (1位)住宅購入と新型コロナウイルス流行は無関係──32.6%
 (2位)年齢的に購入するタイミングを遅らせたくない──29.6%
 (3位)今後不動産価格が下落する可能性がある──24.1%
 (4位)結婚や子供など、家族の事情で購入する必要がある──18.0%
 (5位)今後中古マンションの流通量が増えそう──16.7%
 (6位)コロナ流行に伴う変化で現住居への不満が顕在化した──13.0%
 (7位)株価が不安定になったので、安定資産への組み換えをしたい──11.2%
 (8位)社宅の制限や借家期限で、住み替えを迫られている──9.8%
 (9位)今後マンションの供給が減って選択肢が少なくなりそう──9.6%
 (10位)今後不動産価格が上昇する可能性がある──7.4%
 (11位)その他──1.0%

 念のために、「意欲が減退した理由」も説明しましょう。

(1位)景気が悪化し、収入減や雇用不安が懸念──52.6%
(2位)自分や家族の働き方がどう変化するか分からない──39.8%
(3位)株価の下落などが懸念──34.6%
(4位)今の世情ではとてもそんな気分になれない──33.8%
(5位)自分や家族にとっての住まいのあり方について改めて考えてみたい──26.3%
(6位)住むエリアや場所について改めて考えてみたい──23.3%
(7位)元々、購入を急ぐような事情がなかった──21.8%
(8位)子供の通学や教育がどう変化するか分からない──14.3% 

  色々なことを考え過ぎると、用心深くなって、「慎重論」が台頭してくるのかもしれません。

【■■読売広告社がコロナ直前に行ったもう1つの調査】

 すでに説明したように、読売広告社の「都市生活研究所」は2019年12月6日にも、マンションに関係する調査結果を発表しています。

 そのタイトルは──新しい消費スタイルは『都市』から生まれる。首都圏高額マンション居住者から垣間見える、最新の都市生活者像と消費スタイルが明らかに──。

 念のために、調査結果の要点をまとめておきましょう。

 ①世帯主のイメージ
 世帯主の職業は「約3分の2」が会社員・公務員。また、配偶者の約半数を年収300万円未満が占め、少し前に言われていた、いわゆる「パワーカップル」とは異なる人物・世帯像になっている。

 ②食品や日用品を買う場所
 デパ地下や高級スーパーの利用率が、一般層の約2倍。逆に「つい無駄遣いをしてしまうことがある」は約47%で一般層より約11ポイント低い。“質”についての意識が高めな一方、意志的・計画的な消費姿勢が基本にある。

 ③普段生活する上でのモチベーション
「家族を幸せにすること」が約60%と、家族への意識・思いが強い。これに続くのが、「その日その日を楽しむこと」で約48%。

 ④自分の人生を何年先くらいまでイメージできているか。
 「7000万円〜1億2000万円の高額マンション購入層」の約40%は、「15年以上先まで人生をイメージできている」と回答。これに対して、一般層で「15年以上先まで人生をイメージできている」と回答した人は約25%にとどまっている。

 調査結果のURL
<https://www.yomiko.co.jp/wp-content/uploads/2019/12/20191206-2.pdf>

◆調査結果を発表してから数十日後にコロナ感染者・・・

 高額マンション購入層」の約40%が、「15年以上先まで人生をイメージできている」と回答してから、わずか数十日後の2020年1月16日。厚生労働省は、「神奈川県在住の30代男性からコロナウイルスが検出された」ことを、公表しました。

 この「予期していなかった」出来事をきっかけにして、それ以降、日本全体がまさにコロナ一色に染まってしまいました。

 それを前提にして、読売広告社の2通の調査結果(2019年12月6日付、2020年8月27日付)を、比較しながらじっくり読み込むと、「コロナ禍の来し方・行く末を考える上で、実に味わい深い資料だなぁ」と感じる次第です。

細野 透(ほその・とおる)

建築&住宅ジャ─ナリスト。建築専門誌『日経ア─キテクチュア』編集長などを経て、2006年からフリ─ランスで活動。

東京大学大学院博士課程(建築学専攻)修了、工学博士、一級建築士。

著書に、『建築批評講座』(共著、日経BP社)、『ありえない家』(日本経済新聞社)、『耐震偽装』(日本経済新聞社)、 『風水の真実』(日本経済新聞出版社)、『東京スカイツリーと東京タワー』(建築資料研究社)、 『巨大地震権威16人の警告』(共著、文春新書)、『謎深き庭 龍安寺石庭』(淡交社)など。


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