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スペシャリストの眼

「斜め45度」の視点

2015年5月26日

第176回住友不動産の「マンション販売手法七不思議」

 分譲マンションを取材していると、不思議な事実に出会うことが少なくない。そのうち語呂がいい七つを集めると「分譲マンション七不思議」になる。私にとって「七不思議」の代表格は、ここ数年の間、ずーっと住友不動産の販売方法であった。

 マンション各社は建物の竣工前に完売を目指す「青田売り」を採用している。

 ただし、大京はかつてただ1社だけ、建物の完成直前に販売を開始する「現場現物売り(在庫売り、完成売り)」を採用していた。しかし十数年くらい前に、「現場現物売り」を止めて「青田売り」に転向した。

 しかし、大京とほぼ入れ替わるような形で、今度は住友不動産が「青田売り+完成売り」という独自の手法を採用した。その手法が余りに独特すぎるため、同社の物件を取材していると、いつも不思議な事実に直面した。例えば次のようなケースがある。

 一。取材で質問しても、第1期分の平均坪単価は答えてくれるが、全住戸の坪単価は答えてくれないケースが多い。

 二。第1期販売ではなく、第3期くらいの段階で取材すると、第3期の平均坪単価は答えてくれるが、第1期と第2期の価格は教えてくれない。

 三。30階建てタワーマンションの場合、18階~27階の住戸が、一律にすべて8000万円というケースもある。

 四。第1期で即日完売すると、普通なら販売所長はほめられるが、住友不動産ではしかられるらしい。

 五。数十戸程度の小規模マンションの場合には、「青田売り」はしないで、「完成売り」に限定する場合もある。

 六。「ワールドシティタワーズ」(東京都港区、42階建、全2090戸)の販売は、2004年に開始され2012年8月に終了した。完売するまでに9年間もかかっているが、一切、値引きはしなかったらしい。

 七。未入居物件であっても、マンションは大きく、新築マンションと新古マンションと中古マンションの3つに分かれる。新築マンションは「竣工して1年未満の物件」。新古マンションは「新築マンションと中古マンションの境目にある物件」。中古マンションは「竣工から1年以上の物件」あるいは「借入申込日が竣工から2年を超えている物件」。しかし購入者は呼び方はまったく気にしていないらしい。

 これを数えると、丁度、住友不動産の「マンション販売手法七不思議」になる。

 同社は2014年(1月~12月)には、全国で6308戸のマンションを供給(発売)して、不動産経済研究所「マンション全国供給ランキング」で初めて日本一の座に着いた。

  それを機に、住友不動産執行役員・マンション分譲事業本部長の青木斗益(あおき・ますみ)氏にインタビューをお願いして、記事は日経BP社のウェブサイトに掲載した。上記「販売手法七不思議」に関してすべて答えてもらっているので、興味のある人は目を通していただきたい。

 最近、あるマンション評論家が、このインタビューを参考に書いたと思われる評論記事を目にした。「このような好立地に建つ物件を即日完売させたら、次に売る物がなくなってしまう。それなら、竣工後半年から1年で売り切ることを想定し、その間の人件費と販管費を捻出できる価格設定にしておく戦略も成り立つ」。この戦略こそが、住友不動産の販売手法そのものである。

 【参考記事】

 分譲マンション七不思議──住友不動産「青田売り+完成売り」の舞台裏(前編)

 http://www.nikkeibp.co.jp/article/sj/20150331/441237/?ST=safety

 分譲マンション七不思議──住友不動産「青田売り+完成売り」の舞台裏(後編)

 http://www.nikkeibp.co.jp/atcl/sj/15/150245/040200003/?ST=safety

細野 透(ほその・とおる)

建築&住宅ジャーナリスト。建築専門誌「日経アーキテクチュア」編集長などを経て、2006年からフリージャーナリストとして活動。  東京大学大学院博士課程(建築学専攻)修了、工学博士、一級建築士。日本建築学会・編集委員会顧問。 ブログ『建築雑誌オールレビュー』を主宰。日経産業新聞『目利きが斬る・住宅欄』に寄稿。  著書に、『建築批評講座』(共著、日経BP社)、『建築家という生き方』(共著、日経BP社)、 『ありえない家』(日本経済新聞社)、『建築産業再生のためのマネジメント講座』(共著、早稲田大学出版部) 、 『耐震偽装』(日本経済新聞社)、『風水の真実』(日本経済新聞出版社)ほかがある。


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