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スペシャリストの眼

「斜め45度」の視点

2014年2月18日

第130回東京カンテイ「赤色の楕円」と「黒色の楕円」

 東京カンテイが発行するマンション情報誌「Kantei eye」はいつも愛読している。最新号(2014年1月31日号)では、「赤色の楕円」と「黒色の楕円」が面白かった。

 「赤色の楕円」とは、縦軸を「東京都のマンション化率(%)」、横軸を「住宅地価(万円/坪)」とし、それに千代田区・中央区・港区などの値を点でプロットし、全体を囲ったもの。(図は同誌から転載)。


 住宅地価が坪400万円超と高額な都心3区ではマンション化率も70%以上と高いのに比べて、郊外の住宅地価が低い行政区ではマンション化率も低くなっている。また、ほとんどの行政区は「赤色の楕円」の範囲内に収まっている。

 一方、「黒色の楕円」とは、神奈川県・埼玉県・千葉県の周辺3県をプロットし、全体を囲ったもの。こちらは、住宅地価に対して、マンション化率が少し高くなっている。


 首都圏だけではなく、近畿圏&中部圏でもほぼ同様の傾向を示している。

 注目したいのは、地価がほぼ同レベルであっても、マンション化率を見ると、新宿区=高い、台東区や品川区=中間、世田谷区や目黒区=高くないと分かれていること。この図は非常に見やすいために、思わず、イソップ物語の「田舎のネズミと町のネズミ」を連想。「狭い土地に高密度で住むマンション形式と、広い土地に低密度で住む戸建て形式のどちらに注力した方がいいのか」と、少し考え込んでしまう。

 その後で、巻頭言「消費増税と駆け込み需要──購入者と供給サイドの意識のギャップ」を読むと、ぐっと味わいが深まる。次のような内容である。

 一 2007年のミニバブル期はファンドバブルであり、海外からの投資マネーが短期間で売り買いを繰り返した結果、都心一等地の不動産価格を高騰させた。

 二 そのため、マンション価格は新価格、新・新価格と急騰して、2006年から10%を超える上昇率を記録した。

 三 この影響を受けた一般の給与所得者層は、郊外で購入可能な物件を探すはずだった。けれども、実際には、サブプライムローン問題に直面して、マンション市場は一気に冷え込み、新興デベロッパーは相次いで倒産した。

 四 現在でも、地価の上昇を見越して、郊外でマンション開発を計画するデベロッパーがある。

 五 しかしながら、ニーズが郊外方面まで拡散するためには、景気拡大が継続することが大前提になる。残念ながら、現段階でそれを確信するに至る材料はない。

 要するに、首都圏の「赤色の楕円」「黒色の楕円」のうち、地価では200万~150万円以下、マンション化率では30~20%以下の範囲は、まだモヤモヤとした霧に包まれて見通しがつかないと述べている。

細野 透(ほその・とおる)

建築&住宅ジャーナリスト。建築専門誌「日経アーキテクチュア」編集長などを経て、2006年からフリージャーナリストとして活動。  東京大学大学院博士課程(建築学専攻)修了、工学博士、一級建築士。日本建築学会・編集委員会顧問。 ブログ『建築雑誌オールレビュー』を主宰。日経産業新聞『目利きが斬る・住宅欄』に寄稿。  著書に、『建築批評講座』(共著、日経BP社)、『建築家という生き方』(共著、日経BP社)、 『ありえない家』(日本経済新聞社)、『建築産業再生のためのマネジメント講座』(共著、早稲田大学出版部) 、 『耐震偽装』(日本経済新聞社)、『風水の真実』(日本経済新聞出版社)ほかがある。


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