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「斜め45度」の視点

2021年4月20日

第374回 「日本マンション学会」が新型コロナ問題に論文14本

 「日本マンション学会」の機関誌である、『マンション学68号』(2021年2月28日発行)は、1冊丸ごと「コロナ特集」でした。正式には「特集─マンションと新型コロナウイルス感染症」という名前です。

 今回は「コロナ特集号に掲載された16本の論文」のうち、3本をピックアップ。「マンション学会が、新型コロナ問題にどのように取り組んでいるのか」について紹介したいと思います。

【■■】「建築行政の視点」からコロナに対する注意を喚起した論文

 横浜市建築局住宅再生課担当課長の米満東一郎さんは、「新型コロナウィルス感染症に対する注意喚起」と題する論文を提出しています。

 私は建築および住宅の分野で、「何か大きな問題が発生したとき、地方自治体がそれにどのように立ち向かっているのか」を調べたい場合には、まず、横浜市建築局のウェブサイトにアクセスすることにしています。

 それは、かつて飛鳥田一雄さんが横浜市長だった時(1963年4月〜1978年3月)、横浜市六大事業を策定し、際立った個性をもつ今日の横浜市の基礎を作り上げたためです。

 ①「みなとみらい21をはじめとした都心部強化事業」
 ②「①と連動した金沢地区埋め立て事業」
 ③「港北ニュータウン事業」
 ④「幹線道路事業」
 ⑤「地下鉄事業」
 ⑥「ベイブリッジ事業」

 上記の六大事業を通じて、横浜市建築局は建築や住宅の分野でわが国の自治体として、トップクラスのノウハウを集積。それをウェブサイトで公開しています。それゆえに、新型コロナ問題が発生して以降、私は情報を収集する目的で、何回も横浜市建築局のウェブサイトにアクセスして、情報をチェックしているほどです。

 横浜市建築局ウェブサイトのURL
 <https://www.city.yokohama.lg.jp/city-info/koho-kocho/press/kenchiku/>

【■■】「夢見る力は失くさない」──ひとりの市民として取り組む活動の報告

 宮崎県マンション管理組合連合会理事の山口伸子さんは、「夢見る力は失くさない、一市民として取り組む活動の報告」と題する論文を提出しています。

 山口さんは、上記の理事であるだけではなく、次のような活動も続けています。
 ①「宮崎市市民活動推進委員会委員」
 ②「地域自治区地域協議会委員」
 ③「分別大使」
 ④「介護予防アドバイザー」
 ⑤「防犯パトロール隊」
 ⑥「自主防災組織」
 ⑦「公園愛護会」
 ⑧「宮崎市福祉協力員」
 ⑨「災害時救援ボランティアコーディネーターみやざき役員、防災士」
 ⑩「地域自治区、防犯・防災部会委員」
 ⑪「自治会副会長兼会計」
 ⑫「マンション管理組合で理事長等役員を14年間務めた」
 ⑬「宮崎県マンション管理組合連合会理事」

 本当にすごいですね。いわゆる世話ずきな、「親切なお母さん」タイプの女性なのでしょう。その山口さんが執筆した「夢見る力は失くさない」と題する論文を読んでいると、いつの間にか心が「ホッコリ」してきます。

【■■】アンケート調査から導いた5つの提言

 マンションコミュニティ研究会代表の廣田信子さんと、事務局長の大滝純志さんは、「Withコロナの管理組合運営とコミュニティの実態と今後の展望──アンケート調査から導いた5つの提言」と題する論文を提出しています。

 このアンケートは、「全国のマンション管理組合の役員およびマンション居住者」を対象に、「Webアンケート」方式で、2020年9月23日(水)〜 10月25日(日)に実施され、316人から回答を得ています。

 ①コロナ禍で管理組合に起こったこと
 (1)新型コロナウィルス感染対策
 (2)管理組合運営
 (3)管理会社の対応
 (4)コミュニティ・防災

 ②今後について
 (1)Withコロナ、コロナ後で不安に思うこと
 (2)新しい生活様式での管理組合運営
 (3)今後のオンライン会議の活用意向
 (4)管理会社との関係の今後
 (5)コミュニティの今後

 ③コロナ禍の経験を今後に活かす提言
 (1)「総会開催方法を見直し、準備を充実させ、より民主的な決議を目指す」
 (2)「理事会等にオンライン会議システムを取り入れ、話し合いの場の選択肢を増やす」
 (3)「管理会社とのコミュニケーションを密にして、信頼関係でつながる協働を目指す」
 (4)「コミュニティ形成は、『イベント型』から、『多様な小グループの連携型』へ」
 (5)「情報発信、情報交換のレベルを上げ、情報でつながるコミュニティへ」

 さて、廣田信子さんと大滝純志さんの論文、すなわち「Withコロナの管理組合運営とコミュニティの実態と今後の展望──アンケート調査から導いた5つの提言」には、特筆すべき大きな長所があります。

 それは、上記のアンケート調査の結果が、マンションコミュニティ研究会のウェブサイト(下記)に公開されていることです。

「Withコロナの管理組合運営とコミュニティに関する実態及び意識調査」報告書のURL
 <http://www.mckhug2.com/20201203_03.pdf>

 マンション学会の会員だけではなく、マンションに興味を持つすべての人が、報告書の原文を見ることが出来るのは、面白い試みであると思います。

【■■】16本の論文のタイトル

 最後に、『マンション学68号』の特集に掲載された、14本の論文のタイトルをまとめました。

 ◆〘イントロダクション〙
   ①趣旨説明(角田光隆・神奈川大学教授)

 ◆〘行政の視点から〙
   ②新型コロナウィルス感染症に対する注意喚起
  (米満東一郎・横浜市建築局住宅再生課担当課長)

 ◆〘福祉関係の視点から〙
   ③夢見る力は失くさない──1市民として取り組む活動の報告
  (山口伸子・宮崎県マンション管理組合連合会理事)

   ④感染症と地域支援
  (中島絢・周行会上杉地域包括支援センター所長)

   ⑤新型コロナウィルス感染症に思うこと
  (川端洋子・代沢あんしんすこやかセンター介護支援専門員)

 ◆〘管理会社の視点から〙
   ⑥マンション管理業におけるコロナ禍対策
  (梅津潤・マンション管理業協会協会業務部長)

 ◆〘管理組合・自治会等の視点から〙
   ⑦コロナ禍と団地型マンション──札幌市山鼻産タウンの場合
  (齋藤裕・北海道大学名誉教授)

   ⑧コロナ禍・緊急事態宣言下の管理組合──閉じこもって、見えてきたもの
  (吉村順一・横浜マンション管理組合ネットワーク副会長)

   ⑨県ドリームハイツの感染症対策
  (大越喜彦・県ドリームハイツ住宅管理組合理事長)

   ⑩管理組合における人権問題──新型コロナウィルス感染の拡大を受けて
  (弁護士・内田耕司氏)

   ⑪迅速な意思決定とわかりやすい周知の徹底
    ──パークシティ溝の口の新型コロナウィルス感染防止への取り組み
   (櫻井良雄・パークシティ溝の口管理組合元理事長)

   ⑫「コンクリート長屋」における新型コロナウィルス感染症への挑戦
    ──感染者公表の葛藤、個人情報取扱いの難しさ
   (日置一夫・高取台サンハイツ管理組合相談役)

   ⑬Withコロナの管理組合運営とコミュニティの実態と今後の展望
    ──アンケート調査から導いた5つの提言
   (廣田信子・マンションコミュニティ研究会代表、大滝純志・同事務局長)

   ⑭分譲マンションにおける新型コロナウィルス感染症に対する
    個人生活および組織活動に関する行動指針
   (角田光隆・神奈川大学教授)

細野 透(ほその・とおる)

建築&住宅ジャ─ナリスト。建築専門誌『日経ア─キテクチュア』編集長などを経て、2006年からフリ─ランスで活動。

東京大学大学院博士課程(建築学専攻)修了、工学博士、一級建築士。

著書に、『建築批評講座』(共著、日経BP社)、『ありえない家』(日本経済新聞社)、『耐震偽装』(日本経済新聞社)、 『風水の真実』(日本経済新聞出版社)、『東京スカイツリーと東京タワー』(建築資料研究社)、 『巨大地震権威16人の警告』(共著、文春新書)、『謎深き庭 龍安寺石庭』(淡交社)など。


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