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「斜め45度」の視点

2019年6月25日

第319回 国交省・総合調査が示す「マンション管理組合の重い課題」(後編)

 国土交通省・住宅局市街地建築課・マンション政策室は、2019年4月26日に、「平成30年度マンション総合調査結果報告書」を公表した。

 前編「分譲マンション生活の知られざる実態」に続いて、後編では「マンション管理組合の重い課題」について説明する。何よりも深刻なのは、修繕積立金の不足問題である。

 国交省は「マンションの修繕積立金に関するガイドライン」(平成23年4月)において、「将来にわたって安定的な修繕積立金の積立てを確保する観点からは、均等積立方式が望ましい」と明言している。

 しかし、多くのマンションデベロッパーがこれを無視。実際には、欠点が多いと指摘されている、「段階増額積立方式」を採用している。

 その結果、修繕積立金の不足に悩む管理組合が増えている事実は、重く受け止める必要がある。

「総合調査結果報告書のURL」
 http://www.mlit.go.jp/common/001287409.pdf

■■■長期修繕計画の作成

 下の図に示すように、長期修繕計画を作成しているマンション管理組合の割合は増加し、平成30年度は90.9%に達した。その一方では、作成していない管理組合も7%ある(残りの2.1%は不明)。


■■■長期修繕計画による修繕積立金の設定

 計画期間25年以上の長期修繕計画に基づいて修繕積立金の額を設定している管理組合の割合は増加し、平成30年度は53.6%に達した。ただし、これを別の角度から見ると、それを怠っている管理組合が46.4%もあることになる。


■■■月/戸当たり修繕積立金の額

 平成30年度の「月/戸当たりの修繕積立金」の額は平均1万1243円、「駐車場使用料等からの充当額を含む修繕積立金」の額は平均1万2268円に達した。


■■■平成22年以降に完成したマンションの特徴

 平成21年までに完成したマンションと、平成22年以降に完成したマンションを比較すると、後者には大きな違いがある。

 前者は「月/戸当たりの修繕積立金」および「駐車場使用料等からの充当額を含む修繕積立金」の額とも1万1000円を超えている。

 しかしながら、後者は「月/戸当たりの修繕積立金」および「駐車場使用料等からの充当額を含む修繕積立金」の額が、ともに8000円台以下と大きく落ち込んでいる。

 これは、「完成年次の新しいマンションほど、段階増額積立方式となっている割合が多い」ため、と考えられる(後で、詳しく説明)。


■■■修繕積立金の積立方式に「極めて深刻な問題」

 現在の修繕積立金の積立方式は、「均等積立方式」が41.4%、「段階増額積立方式」が43.4%となっている。そして、「下の図」に示したように、完成年次の新しいマンションほど「段階増額積立方式」となっている割合が多い。


 修繕積立金の積立方式には、大きく分けて「均等積立方式」「段階増額積立方式」「一時金徴収方式」の3つがある。

〔均等積立方式〕
 計画期間中に必要とされる修繕費用の総額を計画期間の月数で割った額を徴収する方式。

〔段階増額積立方式〕
 数年ごとに段階的に値上げする方式。その欠点は、計画通り値上げしていかないと、不足金が生じる可能性があること。また、途中で反対者が出るケースも少なくない。

〔一時金徴収方式〕
 大規模修繕工事など多額の費用を要する時期に、各戸から一時金を徴収することを前提とする方式。その欠点は、一度に多額の資金を用意する必要があるので、負担が大きいこと。また、用意できない人が出ることもある。

 国交省は「マンションの修繕積立金に関するガイドライン」(平成23年4月)において、「将来にわたって安定的な修繕積立金の積立てを確保する観点からは、均等積立方式が望ましい方式といえます」と明記している。

 それにも拘わらず、完成年次の新しいマンションほど「段階増額積立方式」の割合が増えているのは、極めて深刻である。

■■■現在の修繕積立金の状況
 現在の「修繕積立金の状況」を見ると、大きく3タイプに分類される。第1に「積立金が計画を上回っている33.8%」、第2に「積立金が計画を下回っている34.8%」、第3に「積立金の額が不明31.4%」である。


■■■長期修繕計画の見直し時期
 修繕積立金の状況が計画を下回っている場合には、長期修繕計画を見直す必要がある。

 その見直し時期は、下の図に示すように、「5年ごとを目安に定期的に見直している」が56.3%、「修繕工事の実施直前に見直しを行っている」が12.5%、「修繕工事実施直後に見直しを行っている」が10.1%となっている。その一方、「見直しを行っていないマンション」も5.7%ある。


■■■マンションの老朽化問題

 下の図に見るように、マンションの老朽化問題についての対策の議論を行い、「建替え」「修繕・改修」の方向性が出た管理組合は21.9%だった。一方、議論は行ったが、方向性が出ていない管理組合は16.6%だった。

 そして、深刻なのは、議論を行っていない管理組合が56.3%に達した事実である。


■■■耐震診断・耐震改修の実施状況

 旧耐震基準に基づき建設されたマンションのうち、「耐震診断」を行ったマンションは34.0%となっている。そのうち「耐震性があると判断された」マンションが40.8%、「耐震性がないと判断された」マンションが40.8%、「さらに詳細な耐震診断を実施する必要がある」が18.4%だった。

 このうち、「耐震性がないと判断された」マンションについて、「耐震改修工事」を実施するかどうか訪ねると、「実施した」が38.1%で、「今後実施する予定」が21.4%、「実施する予定はない」が38.1%だった。


■■■大規模災害への対応状況

 下の図は、「大規模災害への対応状況」について、平成20年度、25年度と30年度を比較したものである。これを見ると、ほぼすべての項目で、20年度よりは25年度、25年度よりは30年度の方が準備が進んでいることが分かる。


細野 透(ほその・とおる)

建築&住宅ジャ─ナリスト。建築専門誌『日経ア─キテクチュア』編集長などを経て、2006年からフリ─ランスで活動。

東京大学大学院博士課程(建築学専攻)修了、工学博士、一級建築士。

著書に、『建築批評講座』(共著、日経BP社)、『ありえない家』(日本経済新聞社)、『耐震偽装』(日本経済新聞社)、 『風水の真実』(日本経済新聞出版社)、『東京スカイツリーと東京タワー』(建築資料研究社)、 『巨大地震権威16人の警告』(共著、文春新書)、『謎深き庭 龍安寺石庭』(淡交社)など。


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