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スペシャリストの眼

「斜め45度」の視点

2013年1月22日

第91回エコ化推進に「省エネ新基準」と「低炭素基準」の導入

 これまで、建物の省エネルギー性能を規定していたのは、1979年に制定された「エネルギーの使用の合理化に関する法律」(略称、省エネルギー法)だった。その省エネ法に基づく「省エネ基準」が、2013年4月頃、「省エネ新基準」に改められる。

 この「省エネ新基準」は、300平方メートル未満の建物では「努力義務」に過ぎないが、300平方メートル以上になると所管行政庁への「届出」が必要になる。また、2020年を目途に、すべての建物に「義務付ける」見通しである。

 加えて、2012年8月30日に、都市における二酸化炭素(CO2)の排出量を減らして低炭素都市を実現することを目的とした、「都市の低炭素化の促進に関する法律」(略称、都市低炭素化促進法)が成立。その低炭素化法に基づいて、2012年12月4日に、「低炭素建物認定基準」が導入された。

 すなわち、「省エネ新基準」をベースに、特別な場合には「低炭素基準」が加味される、一種の2重体制になる。

 このうち、「省エネ新基準」は、建物の断熱性能を重視していた現行基準を、1次エネルギー消費量の低減を重視する新基準に改める。

 (1) 「1次エネルギー」とは──石油、石炭、天然ガス、ウラン、水力、太陽、地熱など「自然から直接得られるエネルギー」

 (2) 「2次エネルギー」とは──電気、ガソリン、都市ガスなど「1次エネルギーを変換、加工して得られるエネルギー」

 今後は、各建物ごとに、1次エネルギー消費量を計算する必要があるので、かなり大変な作業になる。

 さらに、現在は建物の「Q値(熱損失係数)」を指標としていたのを改めて、「外皮平均熱貫流率」を指標とする。

 (3)「Q値(熱損失係数)」=「外皮の総熱損失量」÷「延べ面積」

 (4)「外皮平均熱貫流率」=「外皮の総熱損失量」÷「外皮表面積」

 次に、「低炭素基準」は、省エネ基準より高いレベルを求めるもので、以下のA、B、Cが課せられる。

  A 建物全体の1次エネルギー消費量が、省エネ新基準より10%以上少ない

  B 建物の外皮性能(外皮平均熱貫流率)が、省エネ新基準と同等以上

 C 次の中から2項目以上を選択するか、項目9を選択する

  (1) 節水に役立つ設備機器を採用

  (2) 雨水、井戸水、雑排水を利用する設備を設置

  (3) 住宅ではHEMES、非住宅ではBEMSを採用

  (4) 定置型の蓄電池を設置

  (5) ヒートアイランド対策(緑化、敷地の高反射性塗装)

  (6) 住宅品確法で劣化対策等級3を取得

  (7) 木造建物とする

  (8) 構造耐力上主要な部分に高炉セメント

    またはフライアッシュセメントを使用

 (9) CASBEEによる一定以上の評価を受ける

 この「低炭素基準」は、環境性能の高さをセールスポイントにしたい住宅供給者が、任意に対応する基準になり、税制上の優遇措置が受けられることになりそうだ。

 設備設計者および建設会社や工務店の担当者は、「省エネ新基準」と「低炭素基準」の導入が重なって、対応に大わらわである。下手をすると、耐震偽装事件の後に行われた建築基準法の構造関係規定の「煩雑化」によって、建築確認業務が大幅に遅れたときのような混乱が繰り返される恐れもある。

細野 透(ほその・とおる)

建築&住宅ジャーナリスト。建築専門誌「日経アーキテクチュア」編集長などを経て、2006年からフリージャーナリストとして活動。  東京大学大学院博士課程(建築学専攻)修了、工学博士、一級建築士。日本建築学会・編集委員会顧問。 ブログ『建築雑誌オールレビュー』を主宰。日経産業新聞『目利きが斬る・住宅欄』に寄稿。  著書に、『建築批評講座』(共著、日経BP社)、『建築家という生き方』(共著、日経BP社)、 『ありえない家』(日本経済新聞社)、『建築産業再生のためのマネジメント講座』(共著、早稲田大学出版部) 、 『耐震偽装』(日本経済新聞社)、『風水の真実』(日本経済新聞出版社)ほかがある。


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