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「斜め45度」の視点

2022年2月8日

第393回 電通の「新型コロナ・日米定点・生活者意識調査」から学ぶこと

 皆さんは、「新型コロナウイルス・日米定点・生活者意識調査」と題する「調査レポート」を記憶しているでしょうか。これは広告代理店として日本では最大手、世界では第5位に位置する「電通」が、2020年5月から現時点まで、連続的に発行しているレポートです。

 調査は日本では「電通」、米国では「Dentsu Aegis Network US Holdings」が担当。 おおむね月に1回のペースで公表し続けています。それゆえに、「コロナの年となった2020年、2021年、2022年」について、日米両国の事情を振り返る時にとても便利です。

【■■】第1回調査レポート(2020年5月14日に公表)の要点

◆調査のタイミング
 緊急事態宣言の対象地域が全国に拡大(4月16日)されて、1週間が経過した時点。

◆調査レポートのタイトル
 日米には生活者の心理ステージ、感情、生活者意識、生活行動などに大きな差

◆生活者の心理を「5つのステージ(段階)」に分類。
 ステージ1─混乱・動揺
 ステージ2─変化への対応
 ステージ3─順応・適応
 ステージ4─収束の兆し
 ステージ5─収束後の生活へ

◆主なファインディングス(発見)

 ①日本では80%がまだ「初期のステージ2(変化への対応)」だが、米国ではすでに46%が「ステージ3(順応・適応)」以降にある。

 ②生活者の感情は、「ストレスや無力感などが強い」日本に対し、米国では「一端、ネガティブに振れた心情」が、徐々に通常に戻りつつある。

 ③できなくて恋しいもののトップは、日本では「旅行」、米国では「友人や家族と出掛けること」。

◆企業に対する期待

 ①日米ともに自粛でなく、「積極的に活動すること」が期待されている。
 ②日本では特に、「寄付」や「適切な商品やサービスの提供・割引等」が期待されている。

◆収束時期の予想
 ①日本では50%の人が、「通常の生活に戻れるのは年末年始、または来年以降」と考えている。
 ②米国では55%の人が、「7月上旬頃には、通常の生活に戻れる」と考えている。

【■■】第2回調査レポート(2020年5月26日に公表)の要点

◆調査のタイミング
 緊急事態宣言が、対象地域を全国に拡大(4月16日)して、1週間が経過。ゴールデンウィーク(「ステイホーム週間」)が明け、感染者数が3月末以降初めて100人を下回った時点。

◆調査レポートのタイトル
 ネガティブ意識は回復傾向も、日常生活に戻るには「ワクチン開発」必要。
 日本は「収束時期」、米国は「景気」を懸念」。

◆主なファインディングス(発見)
 前回に比べ「医療崩壊」「家族や友人の新型ウイルス感染」などが減少。相対的に「景気」への懸念が2位に浮上。

 「不安や不自由なく日常生活に戻るのに必要なもの」は、日米ともに「ワクチンが開発され、利用可能 になること」がトップ。日本では82%、米国では56%を占める。

 生活者の感情もネガティブに振れた感情が正常に戻りつつあり、「周囲への感謝」「自分のペースを保てている」は米国よりも高い。一方でストレスは、「前回に引き続き高い」。気になっているのは、「収束時期」が前回に引き続き首位にあること。

【■■】第3回調査レポート(2020年6月16日に公表)の要点

◆調査のタイミング
 全国で緊急事態宣言が解除されてから、数日経った5月下旬。

◆調査レポートのタイトル
 日本では──外出の危険を感じて、「行楽・レジャー」「運動」などの自粛ムードは継続。
 全体的には収束の兆しが見え、気持ちは前向きに。

◆主なファインディングス(発見)
 特に「収束時期」「医療崩壊」に対する懸念が減少し、「日本の景気」に対する懸念が首位となった。

 外出時に感じる危険について、日本は米国以上に高い項目が多い。そのためか、「行楽・レジャー」「職場や地域などの行事」「運動・エクササイズ」を、行っていない割合が高い。

【■■】第4回調査レポート(2020年6月30日に公表)の要点

◆調査のタイミング
 全国で緊急事態宣言が解除されてから2週間後。東京アラートが解除されるまでのタイミング。

◆調査レポートのタイトル
 外出自粛緩和するも、日米共に第二波に対して高い懸念。日本の外出時の感染への危機意識は、米国よりも30%高い。

◆主なファインディングス(発見)
 生活者の懸念事項は日米ともに首位は「感染の第二波」。次いで「日本&米国の景気」が高い。日本ではウイルス感染への懸念が減少傾向。

 外出時の感染の危険性については、日本人の約8割が「危険を感じる」と回答しているのに対し、米国では約5割が「危険」と回答。日本人の慎重さや危機意識の高さがうかがえる。

【■■】第5回調査レポート(2020年7月15日に公表)の要点

◆調査のタイミング
 都内ホストクラブでのクラスタ発生を中心に、感染者が再び増加してきたタイミングで実施。

◆調査レポートのタイトル
 外出自粛緩和するも、消費者心理は停滞・長期化へ。日米共に第二波に対する懸念が高く、日本では外出緩和が早すぎると感じる層が7割以上。

◆主なファインディングス(発見)
 生活者の心理について、米国ではステージ3、「順応・適応」以降の割合が増加している。これに対して日本はステージ2、「変化への対応」にとどまる割合が高い。

 日本において、生活者心理に大きな変化は見られない反面、「充実している」「自分のペースを保てている」など、緩やかながらポジティブな感情へのシフトもみられる。

【■■】第6回調査レポート(2020年7月29日に公表)の要点

◆調査のタイミング
 東京都を中心に感染者数が大幅に増加し、都外への外出自粛が要請されたタイミングで実施

◆調査レポートのタイトル
 日米共に感染再拡大で心理ステージが後退、日本は5月上旬頃の水準に。また日本では、夏休みの予定を「特に予定していない」層が7割と、「自粛の夏」が予想される。

◆主なファインディングス(発見)
 生活者の心理について、日本ではステージ3「順応・適応」以降が減少し、5月上旬(緊急事態宣言解除直後)頃に近い心理変容となった。

 米国でもステージ3「順応・適応」以降の割合が4月以降は増加傾向だったが、今回は減少した。

 日本において、前回(第5回)まで「緩やかにポジティブな感情に推移していた生活者心理」は大きくネガティブへと推移し、全ての項目において「前回比でマイナス」になった。

【■■】第7回調査レポート(2020年9月9日に公表)の要点

◆調査のタイミング
 国内の感染者数が1日に1000人を超え、各地で感染が拡がる中迎えた「お盆・夏季休暇中」で実施。

◆調査レポートのタイトル
 日米ともに6月中旬以降からの感染の広がりに混乱・動揺を感じる層が増加。日本では感染の再拡大により、「できる限り外出しないようになった」人が約3割。

◆主なファインディングス(発見)

 生活者の心理は、感染者数拡大を受け日米ともにステージ1「混乱・動揺」が増大。日本は2割弱、米国は3割弱が「ステージ1」の心理状態にあり、4月頃のスコアに近似。米国は6月初旬からステージ1が増加し、過去最も高い結果になった。

 生活者の感情は、全ての項目で前回よりネガティブ寄りに。中でも「孤独」が過去最も高い結果に。また、複数の項目で、「過去2番目」にネガティブな感情が強い結果となった。

 日本では感染者数が再び増加したことを受けて、「できる限り外出をしないようになった」人が約30%、「外出時に注意を払うようになった」人も50%と、意識に変化がみられる。

 またワクチン接種は、米国では、「接種可能になったら「いち早く接種したい」が約30%だった。これに対して日本では、「他の人が接種してから、完全に立証されてから」の接種意向が80%と、慎重な姿勢が目立った。

【■■】第8回調査レポート(2020年10月16日に公表)の要点

◆調査のタイミング
 感染者数は減少傾向にあり、9月14日に自民党総裁選が行われた直後のタイミングでの実施。

◆調査レポートのタイトル
 日米ともに心理変容ステージが推移し、生活者の感情もポジティブ寄りに。一定の危機感を持ちながらも活動の再開が進む。

◆主なファインディングス(発見)
 生活者の心理は、新規感染者数の減少を受けて、日米ともにステージ3「順応・適応」以降の割合が増加し、日本は48%、米国は52%となった。

 外出時に感じる危険性は、日本において81%が外出時に危険を感じていると回答したものの、日米ともに6月上旬から続いた上昇傾向が減少に転じた。

 余暇活動を再開した人の割合が増加。また、まだ再開していない人による、「想定再開時期」も前倒しになり、活動再開への「意識と行動」が進んだ。

【■■】第9回調査レポート(2020年11月19日に公表)の要点

◆調査のタイミング
 感染者数が安定して推移。「GoToトラベル」キャンペーンの東京発着分追加、「GoToイート」キャンペーン開始など経済活性化政策が強化される中で実施。

◆調査レポートのタイトル
 日本は心理変容ステージが進行、感情もポジティブに推移。GoToキャンペーンの利用意向はトラベルもイートも41%。米国は心理変容ステージが後退。

◆主なファインディングス(発見)
 生活者の心理変容は、日本ではステージ3「順応・適応」以降が51%と半数を超えた。これに対し米国では、ステージ3「順応・適応」以降の割合が46%まで後退した。

 外出時に感じる危険性は、日本において71%が「外出時に危険を感じている」と回答し、減少傾向にある。

 日本では、感染者数がさらに増加した場合、「経済活動が多少犠牲になったとしても再び自粛要請や規制を行うべき」との回答が64%に達した。これに対して、「自粛要請や規制をすべきでない」との回答は36%に止まった。

【■■】第10回調査レポート(2020年12月4日に公表)の要点

◆調査のタイミング
 日本国内の一日あたりの新規感染者数が2000人を超え、過去最高を記録した時期に実施。

◆調査レポートのタイトル
 日本では「コロナ疲れ」を感じている人が69%。ワクチンは「いち早く接種したい」が日本で1割未満、米国では約3割。

◆主なファインディングス(発見)
 日本において、生活者の感情は多くの項目でネガティブへ推移。特に「ストレスを感じる」は前回より18ポイント増加。米国と比較すると、日本の方が多くの項目でネガティブな感情傾向がみられた。

 有効性の高いワクチン開発のニュースを受けてのワクチン接種意向について、「接種したくなった」が日本では20%にとどまり、米国では52%が「接種したくなった」と回答。

 「コロナ疲れ」は日本では69%、米国では55%がコロナ疲れを感じていると回答。特に日本では若年層ほど疲れを感じている傾向がみられた。

【■■】調査レポート(第1回〜第10回)の総括

 第1回調査レポート(2020年5月14日に公表)〜第10回調査レポート(2020年12月4日に公表)をザックリ総括すると、日本では「コロナの感染者数」に応じて「一進一退」を繰り返してきた、という印象が残ります。

 2021年が「一進一退から、亀のような歩みへ切り替える年」、すなわち「遅いように見えるかもしれないが、実際には着実に前進する年」になりますように・・・。

 一方、米国では、「トランプ大統領の時代には、コロナを巡って大混乱が繰り返された」、という印象が強いですね。そのため米国民の間には、「2021年、すなわちバイデン新大統領の時代には、大混乱がどうにか収拾してほしい」、という期待感が強いと思われます。

細野 透(ほその・とおる)

建築&住宅ジャ─ナリスト。建築専門誌『日経ア─キテクチュア』編集長などを経て、2006年からフリ─ランスで活動。

東京大学大学院博士課程(建築学専攻)修了、工学博士、一級建築士。

著書に、『建築批評講座』(共著、日経BP社)、『ありえない家』(日本経済新聞社)、『耐震偽装』(日本経済新聞社)、 『風水の真実』(日本経済新聞出版社)、『東京スカイツリーと東京タワー』(建築資料研究社)、 『巨大地震権威16人の警告』(共著、文春新書)、『謎深き庭 龍安寺石庭』(淡交社)など。


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