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2012年11月20日

第86回オール電化マンションが激減した本当の理由

 「オール電化マンション 供給戸数が回復傾向に」──。住宅新報10 月16日号のニュースピックアップ欄で、こういう記事タイトルを見て少し違和感を感じた。

 それは、不動産流通研究所のニュースサイトで、10月12日に、「首都圏オール電化マンション、3年連続のシェアダウン」という記事のタイトルを見たばかりであるからだ。

 一方は「回復傾向とし」、他方は「シェアダウン」と伝えている。いったい、どちらが正しいのだろう。筆者が取材した限りでは、最近、マンションのモデルルームで、IHクッキングヒーターを見かける機会は少ない。

 住宅新報および不動産流通研究所ニュースサイトのネタ元は、不動産経済研究所が10月11日に発表した、「オール電化マンション2011年及び2012年上半期」と題する調査資料である。

 この表を見て驚いたのは、新築マンションに占めるシェア(普及率)のピークは、2008年に記録した19.5%で、翌2009年には一気に12.2%へと落ち込んでいた事実である。意外なことに、2011年3月の東日本大震災によって福島第1原発が水素爆発する2年も前から、オール電化マンションは激減していたことになる。

 不動産経済研究所は、「2009年以降のシェア低下の要因は、デベロッパー各社が土地や建築コストの上昇に伴って、値段が上がりはじめたマンションのグロス価格を抑えるため、住戸設備のコストダウンを図ろうとして、初期コストが高いオール電化の採用を見送ったこと等が背景にある」とする。

 もうひとつ驚いたのは、2011年から2012年にかけての変化である。シェアは、10.5%(11年上半期)→9.7%(11年下半期)→10.9%(12年上半期)と変化した。すなわち、福島原発事故に伴う電力不足の影響でシェアは9.7%まで落ち込んだものの、年が変わると半年で一気に1.1ポイントも上昇して10.9%になっている。

 不動産経済研究所は、「今後のオール電化マンションに関しては、福島原発事故の影響による電気料金の値上げが実施され、その集結地点が見えないこともあって、中堅デベロッパーを中心に採用を見合わせる状況が続くことが予想される。しかし、その一方で太陽光発電などによる省エネ・創エネマンションへの採用が増加することも見込まれる。また、高齢化社会における電化マンションの安全性や利便性への信頼感の高まりが大きいこともあり、オール電化マンションの供給の落ち込みは限定的といえそう」とする。

 さて、住宅新報が「回復傾向」としたのは、シェアが9.7%(11年下半期)→10.9%(12年上半期)と上昇したことを強調したもの。一方、不動産流通研究所が「3年連続のシェアダウン」としたのは、12.2%(09年)→11.8%(10年)→10.0%(11年)と下降したことに注目したもの。よって、2つの記事は、ともに間違っていたわけではない。

細野 透(ほその・とおる)

建築&住宅ジャーナリスト。建築専門誌「日経アーキテクチュア」編集長などを経て、2006年からフリージャーナリストとして活動。  東京大学大学院博士課程(建築学専攻)修了、工学博士、一級建築士。日本建築学会・編集委員会顧問。 ブログ『建築雑誌オールレビュー』を主宰。日経産業新聞『目利きが斬る・住宅欄』に寄稿。  著書に、『建築批評講座』(共著、日経BP社)、『建築家という生き方』(共著、日経BP社)、 『ありえない家』(日本経済新聞社)、『建築産業再生のためのマネジメント講座』(共著、早稲田大学出版部) 、 『耐震偽装』(日本経済新聞社)、『風水の真実』(日本経済新聞出版社)ほかがある。


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