リアナビ

スペシャリストの眼

「斜め45度」の視点

2016年10月11日

第226回名古屋マンション市場の特異性をにらんだ「メガシティテラスの商品戦略」

 前回は住友不動産、近鉄不動産、住友商事、東急不動産の4社が分譲する、「メガシティテラス」の記者発表について紹介した。今回は初めに名古屋のマンション市場の動向を要約し、次にメガシティテラスの商品戦略を説明したい。

 記者発表の当日、新東通信・名古屋本社・東海ライフスタイルラボ(名古屋市中区)の土岐勝啓所長から、「ネットに書く記事をいつも読んでいます」という挨拶とともに、『マンション通信特別号─2015年の分譲マンション動向のまとめ』と題する資料をもらった。パラパラめくると、これが面白い。

 土岐所長が読んでいるネットの記事が、MERCURY社の「リアナビ」なのか、日経BP社の「危ない建築と安全な建築の境目を分けるもの」なのかよく分からない。ただ、資料の内容からいってリアナビ向きと感じたので、このコラムに書かせてもらう。

 『マンション通信特別号』を読んで、名古屋市には「中央部3区」と「都心部4区」というエリア分けがあることを初めて知った。名古屋以外の人で、中央部と都心部の違いが分かる人はいるだろうか。

 名古屋の場合には、地図に示したように中央部3区は茶色の「千種区・昭和区・瑞穂区」で、都心部4区は青色の「東区・中区・熱田区・中村区」である。このうち中村区にはJR名古屋駅があり、2027年にはリニア中央新幹線が開通する事情が加わるので、今後は都心部4区が優位になると思われる。

 ちなみに、東京では都心6区は千代田区、中央区、港区、渋谷区、新宿区、文京区である。まず東京の中心地は皇居なので、千代田区という特別な名前を付けた。次に周辺5区のうち、区政が導入された明治の頃には、人口および都市活動から見ると東京の中央部は日本橋および京橋の界隈だったので、中央区という名前を付けた経緯がある。つまり都心の内部に中央が含まれている。

 さて、次の表を眺めてほしい。

 【2014年】

 供給戸数─中央部1033戸、都心部828戸

 平均価格─中央部4682万円、都心部3652万円

 平均坪単価─中央部192万円、都心部174万円

 初月成約率─都心部77%、中央部75%

 【2015年】

 供給戸数─都心部768戸、中央部609戸

 平均価格─都心部4993万円、中央部4866万円

 平均坪単価─都心部228万円、中央部197万円

 初月成約率─都心部81%、中央部75%

 2014年までは供給戸数・平均価格・平均坪単価は中央部がトップで、初月成約率だけは都心部がトップだった。しかし2015年には都心部は、供給戸数・平均価格・平均坪単価・初月成約率でトップに躍り出て、四冠を達成した。まさに都心部の1人勝ちである。

 その背景には高額物件2件、すなわち野村不動産・NIPPO・三菱地所レジデンスの3社が販売した「プラウドタワー名古屋栄」(347戸、中区栄1丁目)、および積水ハウスが販売した「グランドメゾン御園座タワー」(430戸、中区栄1丁目)の影響が大きい。

 しかし、『マンション通信特別号』と、メガシティテラスの記者発表で配布された資料を比べて、思わず「ギクッ」としてしまった

 「名古屋市内のマンション市場は、2015年の供給戸数は2413戸だったが、2016年は半期で673戸まで落ち込んでいる」(メガシティテラス配布資料)。仮に2015年の上半期の供給戸数が1200戸程度だったとすると、2016年の上半期は50%以上も落ち込んだことになる。

 【2016年上半期の供給戸数】

  首都圏──前年比20%減(不動産経済研究所)

  近畿圏──前年比12%減(不動産経済研究所)

  名古屋市──前年比50%以上減

 三大都市圏の中は、名古屋マンション市場の特異性が際立っている。こういう背景を前提にメガシティテラス配布資料を読み込むと、その商品戦略を理解できた気がする。

 (一)記者発表前日までの問い合わせ件数は2000件超。

 (二)顧客の希望予算は、3500万円までが20%、4000万円までが28%、4500万円までが19%、5000万円までが6%、5500万円までが5%・・・。

 (三)よって、メガシティテラスは都心近接(東区アドレス)ではあるが、その主力は市内平均を下回る4000万円前後とする。

 (四)これなら、「サラリーマン」「30?60代までのあらゆる世代」に手の届く希少物件として、支持されるはずである。

 ここまでは筋が通っている。そうすると、あとは購入希望者が物件のスペックを、「どのように評価するか」にかかっている。 

 この物件には、敷地の約60パーセントにあたる空地面積を確保、黒を基調としたファザードデザイン、大規模物件ならではのコンシェルジュサービスおよび24時間有人管理、コミュニティ形成を後押しする共用施設、全戸南向きの住戸、地震などに備える防災対策、全戸分の駐車場などの特徴がある。

 住友不動産、近鉄不動産、住友商事、東急不動産のJV4社は、次の表に見るような強気の分析をしている。

細野 透(ほその・とおる)

建築&住宅ジャーナリスト。建築専門誌「日経アーキテクチュア」編集長などを経て、2006年からフリージャーナリストとして活動。  東京大学大学院博士課程(建築学専攻)修了、工学博士、一級建築士。日本建築学会・編集委員会顧問。 ブログ『建築雑誌オールレビュー』を主宰。日経産業新聞『目利きが斬る・住宅欄』に寄稿。  著書に、『建築批評講座』(共著、日経BP社)、『建築家という生き方』(共著、日経BP社)、 『ありえない家』(日本経済新聞社)、『建築産業再生のためのマネジメント講座』(共著、早稲田大学出版部) 、 『耐震偽装』(日本経済新聞社)、『風水の真実』(日本経済新聞出版社)ほかがある。


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