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スペシャリストの眼

「斜め45度」の視点

2012年4月24日

第65回「神保町書店街」から「二番町」に引っ越した理由

 東日本大震災が発生したとき、私は、東京・神田神保町の書店街近くにある、知り合いの建築設計事務所で取材中だった。

 事務所は8階建てマンションの4階にある。揺れは長く続いたが、本棚から本が飛び出すこともなかった。よって、特に不安は感じなかった。

 東京都が、2008年(平成20年)に公表した、第6回「地震に関する地域危険度測定調査」、通称で「危険な街ランキング」において、神保町の書店街はどうランクされているのだろう。

 「危険な街ランキング」は次のようにして作成された。

 (1) 東京にある5099町丁目を対象にして、地震による「建物倒壊危険度」「火災危険度」の2項目を調べて、「綜合危険度」を判定する。

 (2) 危険度は、1の「安全」から5の「危険」まで、5段階で評価する。

 結果の概要をまとめておこう。

 (1) ランク1(安全)の街。2302町丁目。

 (2) ランク2の街。1623町丁目。

 (3) ランク3の街。807町丁目。

 (4) ランク4の街。283町丁目。

 (5) ランク5(危険)の街。84町丁目。

 神保町書店街は、「建物倒壊」、「火災」、「総合」の3項目で、いずれもランク2だった。すなわち、愛すべき書店の街は、上から数えて第2グループに属していることになる。

 今年1月、建築設計事務所を営む知人は、神保町の書店街から、千代田区二番町に引っ越した。今度は、「建物倒壊」、「火災」、「総合」の3項目ともランク1。すなわち最も安全なエリアである。

 この引越を評価するか、それとも過剰ととらえるかは、人それぞれであろう。私は、1923年(大正12年)に発生した、「関東大震災の震度マップ」を眺めて納得した。

 【神保町の書店街】

   震度6強 

   SI値は80~120

 【二番町】 

   震度5強 

   SI値は20~40

 SI値とは、「地震によって一般的な建物にどの程度被害が生じるかを示す指標」であり、分かりやすく言えば「地震動の破壊エネルギーの大きさ」に相当する。

 そして、建物が倒壊しはじめるのは、SI値がおおむね80以上になったときだ。これによると、関東大震災が再来すれば、神保町書店街の建物は倒壊する危険性が高く、二番町の建物は倒壊する危険性が極めて少ない。

 つまりは、ランクが1段階上がっただけではなく、「安全圏」に脱出したことを意味していたのである。

細野 透(ほその・とおる)

建築&住宅ジャーナリスト。建築専門誌「日経アーキテクチュア」編集長などを経て、2006年からフリージャーナリストとして活動。  東京大学大学院博士課程(建築学専攻)修了、工学博士、一級建築士。日本建築学会・編集委員会顧問。 ブログ『建築雑誌オールレビュー』を主宰。日経産業新聞『目利きが斬る・住宅欄』に寄稿。  著書に、『建築批評講座』(共著、日経BP社)、『建築家という生き方』(共著、日経BP社)、 『ありえない家』(日本経済新聞社)、『建築産業再生のためのマネジメント講座』(共著、早稲田大学出版部) 、 『耐震偽装』(日本経済新聞社)、『風水の真実』(日本経済新聞出版社)ほかがある。


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