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「斜め45度」の視点

2013年8月13日

第112回毎日新聞が追及した分譲マンション「脱法シェアハウス問題」

 毎日新聞を読んでいる人なら、東京都江戸川区の分譲マンションで浮上した「脱法シェアハウス問題」の行方に関心を持ったに違いない。全国紙(読売、朝日、毎日、日経、産経)5紙のうち、他の4紙がほとんど報道していないのに対して、毎日新聞は精力的に取り組んだ。

 これは、中央区銀座のシェアハウス運営業者が、分譲マンションの区分所有者の1人に、「家賃収入が倍になる」として提案した計画で、3LDK(63平方メートル)を12人用のシェアハウスに改築しようとする、極めて非常識な内容である。

 設計図面を見ると、3LDKの間取りを崩して、廊下やトイレなどわずかな共用部分を残した上で、12の専有スペースに切り分ける。それぞれに鍵がかかるが、広さは1.5~3.2畳と極端に狭く、しかも大半に窓がない。

 家賃相場は1戸当たり12万~13万円だが、「シェアハウス」の全12室が埋まれば、月の家賃収入は約55万円。これを所有者と業者が折半し、所有者は約27万円を手にする。改築費は所有者が負担し、業者が一括で借り上げて、利用者にまた貸しする仕組みである。

 これに対して、管理組合は「実態は脱法シェアハウスであり、認められない」として、計画を承認しなかった。今後は規約を改定し、シェアハウスとしての利用を禁じる条項を明記することを検討している。

 国土交通省が作成した「マンション標準管理規約(単棟型)」のうち、第12条(専有部分の用途)は次のように規定している。

 第12条「区分所有者は、その専有部分を専ら住宅として使用するものとし、他の用途に供してはならない」

 そして、この第12条には、「住宅としての使用は、専ら居住者の生活の本拠があるか否かによって判断する。したがって利用方法は、生活の本拠であるために必要な平穏さを有することを要する」というコメントがついている。

 ここで問題になるのは、「必要な平穏さ」の定義である。個人で運営するお茶、お花、書道などの教室は「平穏」であるとして認められ、学習塾やピアノ教室などは規模や人数によって認められないケースも出てくる。

 一般的に、以下の点に注意しなければならない。

 1.主催者がその住戸を生活の本拠としていること。

 2.不特定の者が出入りしないこと。

 3.騒音、におい、粉塵、振動などの迷惑が起こらないこと。

 4.通常の住宅の範囲を超える量の水や電気、ガスを消費しないこと。

 5.外来者は少人数であること。

 6.営業時間を制限すべき業種についてはそれを守ること。

 63平方メートルを12人用のシェアハウスにすると、1人当たり5.25平方メートルしかないため、他の住戸との釣り合いが取れないだけではなく、マンション全体の資産価値を大きく損なう恐れが強い。このため、「必要な平穏さ」が保てないのは明らかである。

 しかし、シェアハウス運営業者および63平方メートル住戸の所有者は、管理規定に明確な記述がなく、しかも類似判例が存在しないことを逆手にとって、「無理難題」を押し通そうとした。

 このため、国土交通省は、「窓などの開口部の面積、間仕切り壁の防火構造などの点で、建築基準法違反の疑いがある。また、工事を未然に防止する必要がある」と判断。「マンション管理業協会」と「マンション管理センター」に対し、加盟するマンション管理会社などへの指導と情報提供を求める文書を送付した。

 問題となる建物は大きく2つのタイプがある。オフィスや倉庫などと称しながら多人数の居住実態があるタイプと、マンションや戸建ての住戸内を改修して多人数が居住できるようにしているタイプだ。国交省ではどちらも「違法貸しルーム」と呼び、最終的に寄宿舎として扱う可能性が高い。その場合、主要な間仕切り壁を準耐火構造とするほか、居室には採光を確保する開口部の設置が義務づけられる。

 分譲マンションにおいて「脱法シェアハウス問題」を終焉させる方法は、既存マンションと新築マンションでは少しだけ異なる。

 既存マンションの場合には、管理組合自身が早急に管理規約を解消して、シェアハウスとしての利用を禁じる条項を盛り込む必要がある。また、新築マンションの場合には、販売主(分譲会社)が管理規約案の中に必要な条項を盛り込んで、新たに組織される管理組合の負担を軽減しておくべきであろう。

細野 透(ほその・とおる)

建築&住宅ジャーナリスト。建築専門誌「日経アーキテクチュア」編集長などを経て、2006年からフリージャーナリストとして活動。  東京大学大学院博士課程(建築学専攻)修了、工学博士、一級建築士。日本建築学会・編集委員会顧問。 ブログ『建築雑誌オールレビュー』を主宰。日経産業新聞『目利きが斬る・住宅欄』に寄稿。  著書に、『建築批評講座』(共著、日経BP社)、『建築家という生き方』(共著、日経BP社)、 『ありえない家』(日本経済新聞社)、『建築産業再生のためのマネジメント講座』(共著、早稲田大学出版部) 、 『耐震偽装』(日本経済新聞社)、『風水の真実』(日本経済新聞出版社)ほかがある。


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