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「斜め45度」の視点

2016年10月18日

第227回建築プライスの下落は大手で2020年、中堅で2019年

 建築専門誌『日経アーキテクチュア』の「先読みコスト&プライス──2016年8月期」に、見逃すことができないレポートが掲載された。

 寄稿者は建築積算分野の有力者、サトウファシリティーズコンサルタンツの佐藤隆良代表である。レポートのタイトルは、「プライス下落は2020年──需要が減少しても余力不足で建築費は高止まり」、となっている。

 私がかつて『日経アーキテクチュア』編集長だった頃には、建築コストと建築プライスに関する記事を掲載すると、読者の多くから「何のことかよく分からなかい」というような反応が多かった。今でも事情は変わらないと思われる。そこでまず、言葉の定義を「図解」しておきたい。

 コストは「建物を作るのに必要な費用」であるのに対して、プライスは「建設会社が発注者に提示する価格」である。マンションの場合、発注者はいうまでもなくデベロッパーになる。

 プライスは建設会社の経営状態で決まる。受注高が目標を上回っていれば、人手不足などで工事に対応できないのに加えて、立場が強くなるため「プライスを上げる」。逆に、受注高が目標に届かなければ、人手が余るのに加えて、立場が弱くなるためプライスを下げる。立場が弱いと、場合によっては、赤字でも受注せざるを得ないことになる。

 建設会社の工事対応能力を決めるのは、現在では、「人手を確保できるか否か」である。大切なのは設計・監理スタッフ、工事管理スタッフ、それに下請け業者の現場スタッフになる。別の言葉を使うと技術者と職人である。

 設計・監理スタッフ

 工事管理スタッフ

 下請け業者のスタッフ

 建築工事が増える時期にはコストが上がるだけではなく、建設会社はさらにプライスを上げて対応する。つまり、ますます加速するのである。

 逆に建築工事が減る時期にはコストが下がるだけではなく、建設会社はさらにプライスを下げて対応する。つまり、ますます減速するのである。

 さて、これで図解はお仕舞い。『日経アーキテクチュア』の「先読みコスト&プライス欄」に話を戻す。

 【建築プライスは最近2年半で2割上昇】

 この5年間で着工床面積は減少したため、建築コストも減少したが、逆に建築プライスは高止まりするという、「異常な状態」が続いている。これは人手不足が長引いて、せっかく確保した型枠工や鉄筋工などが手待ちなっているためだ。すなわち、建設会社から見ると、余計な給料を支払らわなければならない状態になっている。この傾向はあと2~3年は続くと予想される。

 【中堅建設会社は2019年度から建築プライスが下落】

 建設会社のうち売上高1000億円~2000億円の中堅各社は、工期が1年前後の中規模物件が多いため工事の消化が早い。よって2019年度には、建築プライスが下落し始めると予想される。

 【大手建設会社は2020年度から建築プライスが下落】

 これに対して大手建設会社は、首都圏の再開発物件が多いため工事が長期化するケースが多い。それでも2018~19年度には完成時期のピークを迎え、以降は手持ち工事高が大きく減少する。よって2020年度には、建築プライスが下落すると予想される。

細野 透(ほその・とおる)

建築&住宅ジャーナリスト。建築専門誌「日経アーキテクチュア」編集長などを経て、2006年からフリージャーナリストとして活動。  東京大学大学院博士課程(建築学専攻)修了、工学博士、一級建築士。日本建築学会・編集委員会顧問。 ブログ『建築雑誌オールレビュー』を主宰。日経産業新聞『目利きが斬る・住宅欄』に寄稿。  著書に、『建築批評講座』(共著、日経BP社)、『建築家という生き方』(共著、日経BP社)、 『ありえない家』(日本経済新聞社)、『建築産業再生のためのマネジメント講座』(共著、早稲田大学出版部) 、 『耐震偽装』(日本経済新聞社)、『風水の真実』(日本経済新聞出版社)ほかがある。


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