リアナビ

スペシャリストの眼

「斜め45度」の視点

2017年8月1日

第255回東京Deep案内「首都圏・絶対住みたくない街ランキング」の中身

 リクルート社、ライフル(LIFULL)社、メジャーセブンなどは毎年、「首都圏・住みたい街(駅)ランキング」を発表している。これに対抗するかのように、アングラ系街歩きサイトの「東京DEEP案内」は、今年6月に初めて「首都圏・絶対住みたくない街ランキング」を発表した。順を追って説明していこう。

 まずリクルートは、関東圏(東京都、神奈川県、埼玉県、千葉県、茨城県)在住の20歳~49歳の男女3996人に、「住みたい街」を3つ聞いて、1位に3点、2位に2点、3位に1点を割り当てて、総合的に集計する方法でランキングを作成し、2017年3月に発表した。

 なぜ3996人なのか、お分かりだろうか。回答者の世帯構成はシングル(男性666人・女性666人)、ディンクス(男性666人・女性666人)、ファミリー(男性666人・女性666人)の3タイプに分かれ、それを合計すると3996人になる。実に芸の細かいアンケートなのである。

 1位吉祥寺、2位恵比寿、3位横浜など、人気のある街(駅)が上位を占める、毎度お馴染みのランキングである。このうち、6つの街をオレンジ色に着色した理由は、後で説明する。

 次にライフル(旧ネクスト)の「首都圏・住みたい街(駅)ランキング」である。同社のランキングは大きく「買って住みたい街ランキング」と「借りて住みたい街ランキング」に分かれるが、ここでは「買って住みたい街ランキング」を紹介する。

 ライフルのランキングは例年、リクルートの「住みたい街ランキング」とほぼ同じ結果になることが多かったが、今年は大きな"異変"があった。リクルートのランキングと重複した街は、オレンジ色で示した目黒、浦和、大宮、横浜、武蔵小杉、二子玉川の6地域に限られたのである。そして1位を占めたのは、意外にも船橋であった。

 なぜ、見慣れない街が加わったのか。それは、アンケートの方法を変更した結果だという。

 2016年版までは「住みたい街」を3つ聞いて、1位に3点、2位に2点、3位に1点を割り当てて、総合的に集計する方法を採用していた。この方法だと、ユーザーにとって「憧れの街」が上位を占めやすい。

 しかし、2017年版からは、ユーザーから問い合わせが多かった駅名を、1年間(2016年1月1日~12月31日)集計する形式に改めた。その結果、船橋、戸塚、柏、流山おおたかの森など、「実際に物件が買えそうな郊外の街(駅)」が一斉に登場したのである。

 アンケートの方法を改めるだけで、ランキングの結果が変わってしまうのは、ある意味では大きな驚きである。

 不動産・住宅情報サイト「HOME'S」はかつて株式会社ネクストによって運営されてきたが、同社が2017年4月に株式会社LIFULL(ライフル)と名前を変更したのに伴って、サイト自体の名前も「LIFULL HOME'S」と改められた。

 名は体を表す・・・。会社名の変更がいい刺激になって、アンケート方法の変更に繋がり、これまでにないランキングが作成されたのである。

 「これは面白い」と感じていたら、6月の下旬、新たにまったく予想していなかったランキングが発表された。逢阪まさよし著『東京Deep案内が選ぶ、首都圏住みたくない街』(駒草出版)に掲載された、「首都圏・絶対住みたくない街(駅)ランキング」である。

 1位は八潮(つくばエクスプレス線八潮駅、埼玉県八潮市)である。著者の逢阪氏は、「オウムとヤクザと産廃業者の街。地価の安さはお察しください」とコメントした上で、採点結果を示している。

 【点数35pt】

 DQN度5

 NIMBY度5

 アウトロー度5

 貧民度5

 変態度2

 勘違い度3

 治安最悪度5

 生活不便度5

 

 8つの項目のうち、冒頭のDQN(ドキュン)とは「ヤンキー、品位に欠けた非常識人、自己中心的で粗暴な人間」という意味。そして、DQN度が高ければ高いほど、「危ない人が多く住んでいる街」ということになる。八潮は1~5の5段階評価のうち、最悪の5である。

 またNIMBYとは「Not in my backyard」の略。すなわち「工場、倉庫、産廃施設、ゴミ処理場、墓地、葬儀場、自衛隊・米軍施設、空港、刑務所・拘置所、パチンコ店、公営競技場」など、「自宅の近所にあってほしくない」嫌悪施設を示すそうだ。八潮は最悪の5である。

 八潮はこのように、DQN度、NIMBY度、アウトロー度、貧民度、治安最悪度、生活不便度の6項目で最悪の5である。少し救われるのが、変態度が2、勘違い度が3と、2項目が最悪の5を免れたことである。

 このうち、勘違い度とは、「その街の歴史や特性も知らず、ブランドイメージだけで住んでいる、頭の弱いおめでたい小金持ちの割合」。小潮の勘違い度は3なので、街の怖さを知らない人が「普通程度に存在する」ということになる。

 さて、表にオレンジ色で示したように、「絶対住みたくない街ランキング」に登場する街のうち、リクルートのランキングと重複した街は、池袋、武蔵小杉、吉祥寺、二子玉川、自由が丘の5地域になる。

 それにしても、なぜ"憧れの吉祥寺"に、絶対に住みたくないのか。著者の逢阪氏は「何が住みたい街ナンバーワンだ。人多すぎ、浮かれすぎ、家賃高すぎ」とコメントしている。

 『東京Deep案内が選ぶ、首都圏住みたくない街』(駒草出版)は6月22日に発行。Amazonの本売れ筋ランキングでも上位に入り、よく売れている。出版案内には次のように書いてある。

 ──アングラ系街歩きサイトの巨頭「東京DEEP案内」が、サイト開設から9年半で培った膨大な情報量を基に、首都圏の「住みたくない街」「住んだら最悪そうな街」を徹底批評。

 犯罪多発地帯、貧困層地区、暴力団事務所がある、カルト宗教施設・過激派アジトがある、不良外国人居住区、勘違いセレブが多い、ゴミ出しのマナーが酷い、低湿地・液状化地帯、工場・産廃業者が多い、ラブホテル・風俗店ばかりの街etc。あえてネガティブ要素に焦点を当て、豊富な写真・地図を交えながら「絶対住みたくない街」をランキング化──。

細野 透(ほその・とおる)

建築&住宅ジャ─ナリスト。建築専門誌『日経ア─キテクチュア』編集長などを経て、2006年からフリ─ランスで活動。

東京大学大学院博士課程(建築学専攻)修了、工学博士、一級建築士。

著書に、『建築批評講座』(共著、日経BP社)、『ありえない家』(日本経済新聞社)、『耐震偽装』(日本経済新聞社)、 『風水の真実』(日本経済新聞出版社)、『東京スカイツリーと東京タワー』(建築資料研究社)、 『巨大地震権威16人の警告』(共著、文春新書)、『謎深き庭 龍安寺石庭』(淡交社)など。


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