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スペシャリストの眼

「斜め45度」の視点

2013年7月30日

第110回急増したプレスリリース

 筆者はこの道30年以上になるが、最近の1ヵ月はかなり驚いた。マンションデベロッパー各社から送られてくるプレスリリースの数が急増したためである。昨年までは月に10件程度だったが、最近は1日1件ペースになったので、月に30件程度ということになる。

 やはり大きいのは、5月中頃から波乱含みの展開になってきたとはいえ、アベノミクス効果がもたらした市況であり、2014年4月1日に8%、2015年10月1日に10%に引き上げられる消費税増税の影響であろう。

 国土交通省が毎年4回発表する「主要都市の高度利用地地価動向報告」、略称で「地価LOOKレポート」のうち、5月に公表された最新板、「平成25年第1四半期レポート・東京圏版」を見てみよう。


 オレンジ色の矢印は3%以上~6%未満の上昇で、とうきょうスカイツリー駅の周辺。黄色の矢印は0%超~3%未満の上昇で、都心を中心に郊外にまで広がる。黄緑色の矢印は0%で、やはり都心から郊外。

 これに対して、水色の矢印は0%超~3%未満の下落で、八王子、立川、柏の葉、新浦安、海浜幕張、千葉港、千葉駅前。

 矢印の色彩が適切なためでもあるが、全体として「春の彩り」であり、「春風が吹いている」ようでもある。

 この「地価LOOKレポート」とプレスリリースを照らし合わせて、納得したのが、大成有楽不動産からの「『オーベルグランディオ吉祥寺』最高倍率12倍で全131戸契約完売」というリリース。

 「本物件は、都市再生機構(UR)がプロデュースする、総開発面積約4万1000平方メートルの『牟礼団地総合再生プロジェクト』の分譲マンション第1号です。人気の吉祥寺エリアが生活圏であることや、新たに公園や道路、始発のバスロータリーなどが整備されることが評価され、3月9日の販売開始から約3ヶ月での短期完売となりました」

 「地価LOOKレポート」を見ると、吉祥寺のうち商業系地区は黄緑色の0%だが、住宅系地区は黄色の0%超~3%未満の上昇。春風が吹いたのであろう。

 一方、頑張っている割に大変なんだなあと実感したのが、千葉大学、三井不動産、パナソニック等からの「千葉県・柏の葉スマートシティで実証実験中の『ネットワーク型家庭用植物工場』中間成果を公開」というリリース。

 「本実証実験では、パナソニックが試作し千葉大学工学部が外観デザインを行った、家庭用植物工場を自宅に設置した住民モニター5世帯が、日常的に野菜を栽培・収穫しています」。

 柏の葉は水色で0%超~3%未満の下落。「地価LOOKレポート」は、「原発事故に伴い、放射線数値が高いエリアが確認されたことや、新築マンションの供給過多により、取引価格は下落していたが、昨年度に入る頃から需要の回復傾向が見られる。ただし、需要の本格的な回復までは至っていない状況が続いている。そのため、取引価格は概ね底打ち感もあるがやや下落的傾向は継続している」。まだ、寒風が吹き止んでいない。

細野 透(ほその・とおる)

建築&住宅ジャーナリスト。建築専門誌「日経アーキテクチュア」編集長などを経て、2006年からフリージャーナリストとして活動。  東京大学大学院博士課程(建築学専攻)修了、工学博士、一級建築士。日本建築学会・編集委員会顧問。 ブログ『建築雑誌オールレビュー』を主宰。日経産業新聞『目利きが斬る・住宅欄』に寄稿。  著書に、『建築批評講座』(共著、日経BP社)、『建築家という生き方』(共著、日経BP社)、 『ありえない家』(日本経済新聞社)、『建築産業再生のためのマネジメント講座』(共著、早稲田大学出版部) 、 『耐震偽装』(日本経済新聞社)、『風水の真実』(日本経済新聞出版社)ほかがある。


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