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「斜め45度」の視点

2020年2月4日

第341回 集中連載⑩ 武蔵小杉に「応援したくなるタワマン」がある

 タワーマンション(超高層マンション)とは、高さ60m以上、階数でおよそ20階建て以上の住居用建築物を意味しています。そして、タワマンの街といわれる武蔵小杉には、2020年12月時点で15棟7727戸がストックされています。

 タワマン棟数の行政区単位ランキングを、確認しておきましょう(参考資料─東京カンテイの2018年10月31日付けプレスリリース、「タワーマンションのストック数(首都圏)」)。

 1位─埼玉県川口市  21棟(5619戸)
 2位─川崎市幸区   19棟(5203戸)
 3位─横浜市神奈川区 17棟(4248戸)
 4位─川崎市中原区  15棟(7727戸)

 武蔵小杉のある川崎市中原区は、棟数(15棟)では4位ですが、戸数(7727戸)ではダントツの1位です。これは武蔵小杉には、階数の高いタワマンが多いことを意味しています。

 そして、「skyskysky.net」の「超高層マンションTOP50」には、タワマン高さランキングが掲載されています。<https://skyskysky.net/apartment-list.html>

 1位─ザ・キタハマ
    高さ209.35m/地上54階/大阪市中央区/2009年竣工

 2位─ザ・パークハウス西新宿タワー60
    高さ208.97m/地上60階/東京都新宿区/2017年竣工

 3位─パークシティ武蔵小杉ミッドスカイタワー(以下、スカイタワーと略)
    高さ203.5m/地上59階/川崎市中原区/2009年竣工

 このようにパークシティ武蔵小杉ミッドスカイタワーは、高さ200mを超える日本で第3位のタワマンです。それに加えて、マンションの価値を向上させるために熱心な取組みをしている、「知る人ぞ知るタワマン」でもあります。

【■■】有名になったきっかけは週刊東洋経済「マンション大規模修繕」特集

 武蔵小杉ミッドスカイタワーの取組が有名になったきっかけは、週刊東洋経済の2013年8月10〜17日号の「マンション大規模修繕」特集でした。

 ──最初はピカピカのマンションでも、時間が経てば劣化する。新築時の状態に回復するための大規模修繕工事。いつやる、何をする、いくらかかる? 疑問だらけの大事業を、住民目線で解明する──。

 そして次のような記事が続きました。

 ──日本で3番目に高い超高層マンション、「パークシティ武蔵小杉ミッドスカイタワー」の管理組合が、今年7月の総会で、50年間にわたる長期修繕計画を立案し、修繕積立金を約2.4倍に引き上げる議案を承認した──。

【■■】修繕積立金を約2.4倍に引き上げた理由

 修繕積立金を約2.4倍に引き上げる・・・。武蔵小杉ミッドスカイタワーの管理組合はなぜ、修繕積立金を大幅に引き上げることにしたのでしょうか?

 マンションは当然のことですが、定期的に修繕しなければなりません。国土交通省は、そのために必要な修繕積立金の額を、「マンションの修繕積立金に関するガイドライン(2011年4月)」に明示しています。

 1. それを要約すると、専有面積が約78平方メートルの住戸の場合には、必要な修繕積立金は次のような金額になります。

 月額─1万6053円
 年額─19万2643円
 50年間─963万2150円─a

 2. 一方、「パークシティ武蔵小杉ミッドスカイタワー」の販売カタログには、次のような金額が記されています。

 月額─6780円
 年額─8万1360円
 修繕積立基金─入居時54万2627円

 この金額をベースにして、50年分の合計を試算すると、次のような金額になります(金利は考慮していません)。

 年額×50年間=406万8000円
 50年間総額=50年間分の修繕積立金+入居時の修繕積立基金
       =406万8000円+54万2627円
       =461万0627円─b

 3. ここでaとbを見比べてください。50年間に必要な修繕積立金の総額が「aの約963万円」です。それに対して、実際に集まる金額は、「bの約461万円」です。

 差し引きすると、実に約502万円も不足しています。これは大変な事態です。したがって管理組合は、毎月集める修繕積立金を2.4倍に引き上げることにしたのです。

 4. 2.4倍という金額をベースに、もう一度、電卓で計算し直してみましょう。

 月額6780円×2.4=1万6272円
 年額(月額×12)=19万5264円
 50年分(年額×50)=976万3200円
 50年間総額=50年間分の修繕積立金+入居時の修繕積立基金
       =976万3200円+54万2627円
       =1030万5827円─c

 a.963万2150円とc.1030万5827円を比較すると、やっと50年分の費用を確保できたことが分かります。

【■■】「住民による住民のための修繕ルール五箇条」を作成

 修繕積立金を引き上げることにしたきっかけは、パークシティ武蔵小杉ミッドスカイタワー管理組合の理事会が、「首都圏にある築30年以上のマンションの取引事例を調査したところ、修繕積立金が潤沢な物件ほど高値を維持しているという結論を得た」ため、ということです。

 その結論にもとづいて、「住民による住民のための修繕ルール五箇条」を作成しました。

 一 50年間の資金を確保する。
 二 修繕積立金の値上げは原則1回だけ。
 三 費用見積もりは保守的に行う。
 四 現在と将来の住民の負担を公平にする。
 五 当マンションは「50年安心」という評価を市場に定着させる。

 こういう措置によって、ミッドスカイタワー管理組合の理事会は、いわば、「ヴィンテージ・マンション」への道を歩み始めた、ことになります。ヴィンテージマンションとは、時を重ねても輝きを失わない魅力を持つマンションという意味です。

 私としては、同理事会の「的確な判断」と「賢明な行動」に、エールを送りたい思います。

細野 透(ほその・とおる)

建築&住宅ジャ─ナリスト。建築専門誌『日経ア─キテクチュア』編集長などを経て、2006年からフリ─ランスで活動。

東京大学大学院博士課程(建築学専攻)修了、工学博士、一級建築士。

著書に、『建築批評講座』(共著、日経BP社)、『ありえない家』(日本経済新聞社)、『耐震偽装』(日本経済新聞社)、 『風水の真実』(日本経済新聞出版社)、『東京スカイツリーと東京タワー』(建築資料研究社)、 『巨大地震権威16人の警告』(共著、文春新書)、『謎深き庭 龍安寺石庭』(淡交社)など。


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