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スペシャリストの眼

「斜め45度」の視点

2013年12月10日

第123回迷走する脱法シェアハウス問題(前編)

 2013年5月に、インターネットカフェ大手のマンボーが、東京都内で展開するシェアハウスに多数の法令違反が判明したため表面化した、いわゆる「脱法シェアハウス問題」の収拾策が見えない。

 違反が分かった後、マンボーはシェアハウスの一部を閉鎖した。しかし、この際に用いた「運営側の都合でいつでも入居者の即時退去を要求できる」という契約条項が、借地借家法違反ではないかとしてさらに紛糾した。

 7月になると、分譲マンションの一室を極端に狭く切り分ける、新手のシェアハウスが次々に登場した。

 東京・江戸川区の分譲マンション──63平方メートルの住戸を、12人用のシェアハウスに改築しようとする計画。個室は1.5~3.2畳と極端に狭く、しかも大半に窓がない。管理組合が反対したため、住戸の所有者は改築を断念した。

 東京・文京区音羽の分譲マンション──37平方メートルの住戸を、6人用のシェアハウスに改築。カプセルホテルのような上下2段の専有スペースで、高さは約1.2メートル、広さは約1.3~2.7畳。管理組合の反対を押し切って開業し、実際に貸し出した。

 東京・港区麻布十番の分譲マンション──85平方メートルの住戸を、7人用のシェアハウスに改築。個室の広さは7平方メートル(=2.1坪、4.24畳)または7.2平方メートル。管理組合の反対を押し切って開業した。管理組合は東京地裁に使用禁止を求めたが却下されたため、東京高裁に抗告した。

 これらの問題を受けて、国土交通省は9月6日、「シェアルームは寄宿舎」とする技術的助言を公表した。その骨子は以下になる。

 一 事業者が入居者の募集を行ったり管理したりするタイプの、建築物の全部または一部に複数の者を居住させる「貸しルーム」は、建築基準法の「寄宿舎」に該当する。

 二 「貸しルーム」の中にある、独立して区画された個室は、建築基準法の「居室」に該当する。同法では、居室を、「居住、執務、作業、集会、娯楽その他これらに類する目的のために継続的に使用する室」と定義している。

 三 「貸しルーム」中にある区画された「居室」は、建築基準法第28条第1項が定める「居室の採光」、同施行令第114条第2項が定める「建築物の間仕切壁」の規定を満たす必要がある。

 四 居室の最低面積は各都道府県が条例で制定している。たとえば東京都建築安全条例第19条「共同住宅等の居室」は、居室の床面積を7平方メートル(=2.1坪、4.24畳)以上と定めている。

 五 特に影響が大きいのは、戸建住宅を転用したシェアハウスである。寄宿舎は建築基準法で特殊建築物に該当し、戸建住宅よりも厳しい対策が求められる。そのため、「防火上主要な間仕切りを準耐火構造にする」、「廊下幅を確保する」ことに加え、たとえば東京都建築安全条例第19条「共同住宅等の居室」により、「避難のために窓先空地を設ける」ことも求められる。

 しかし、国交省の「寄宿舎」通知は、業界と自治体を困惑させている。

 (以下、中編)

細野 透(ほその・とおる)

建築&住宅ジャーナリスト。建築専門誌「日経アーキテクチュア」編集長などを経て、2006年からフリージャーナリストとして活動。  東京大学大学院博士課程(建築学専攻)修了、工学博士、一級建築士。日本建築学会・編集委員会顧問。 ブログ『建築雑誌オールレビュー』を主宰。日経産業新聞『目利きが斬る・住宅欄』に寄稿。  著書に、『建築批評講座』(共著、日経BP社)、『建築家という生き方』(共著、日経BP社)、 『ありえない家』(日本経済新聞社)、『建築産業再生のためのマネジメント講座』(共著、早稲田大学出版部) 、 『耐震偽装』(日本経済新聞社)、『風水の真実』(日本経済新聞出版社)ほかがある。


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