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2019年5月21日

第316回 国交省『不動産業ビジョン2030』が示す民間企業の課題(前編)

 国土交通省の土地・建設産業局不動産業課は、2019年4月24日、『不動産業ビジョン2030』を公表した。記事の前編では、同ビジョンが示した「民間企業の課題」を紹介する。

「報道発表資料のURL」 https://www.mlit.go.jp/report/press/totikensangyo16_hh_000190.html

■■■新たな不動産業ビジョンの必要性

 不動産業は、わが国の豊かな国民生活や経済成長などを支える、「重要な基幹産業」である。そして次の10年においても、引き続き「成長産業としての発展」が期待されている。

 そのためには、不動産業に携わるすべてのプレーヤーが「あるべき将来像」や「目標」を認識し、官民一体となって必要な取組を推進することが不可欠である。

 令和の時代を迎えつつあるこの機をとらえ、「官民共通の指針」として、およそ四半世紀ぶりに『不動産業ビジョン』を策定する。

■■■新不動産業ビジョンの骨子=『不動産最適活用』

 今後は人口減少や少子高齢化など、社会経済情勢が急速に変化すると予想される。

 それに応じて、「時代の要請」や「地域のニーズ」を踏まえた不動産を形成。その活用を通じて、個人・企業・社会にとっての価値創造の最大化(=『不動産最適活用』)を図らなければならない。

 すなわち、官民一体となって、『不動産最適活用』の実現をサポートすることが重要である。

■■■民間企業が「取り組むべき課題」

(1)他業種と連携したトータルサービス提供。
(2)AI・IoTなど新技術の有効活用。
(3)業界の魅力度向上による人材確保。
(4)法令遵守、コンプライアンス徹底による地位確立。

■■■民間企業が「果たすべき役割」

(1)開発・分譲
   耐震性、省エネ性などに優れた「良質な不動産の供給」、「老朽ストックの更新」。
   ホテル、サテライトオフィスなど「時代ニーズに応える不動産」の供給を通じた「国際競争力の強化」。

(2)流通
  「的確な情報提供」による取引の安全性確保。
   消費者の多様なニーズに対応する「コンサルティング能力の強化」。
  「地域の守り手」として「地域活性化を支える存在」に。

(3)管理
  「資産価値の維持・向上」を通じたストック型社会の実現。
   コミュニティ形成、高齢者見守りなど「付加価値サービスの提供」。
  「エリアマネジメント」の推進。

 

(4)賃貸
   所有から利用への中、「多様化するニーズを的確に把握」し、民泊など「公的活用も視野」に入れる。
   新規賃貸物件の供給は、「的確な事業リスク判断」のもとで実施。

 

(5)不動産投資・運用
  「ESGに沿った中長期的な投資」を、多様な投資家から呼び込むために、不動産開発、再生、投資環境整備を行う。なおESGとはEnvironment(環境)、Social(社会)、Governance(ガバナンス)の3要素の総称。

■■■図表で見る「不動産業の売上高、法人数」

 不動産業の売上高は43.4兆円、全産業に占める割合は2.8%、不動産業の法人数は32.9万社、全産業に占める割合は11.5%である。


■■■図表で見る「法人数、事業所数、業態別の売上金額・企業数・従業者数」

 不動産業において、資本金規模1千万円未満の法人は、全体の64%を占め、従業者10名未満の事業所数は全体の90%以上を占める。また業態別の売上金額、企業等数、従業者数等構成比を見ると賃貸業の比率が大きい。


■■■図表で見る「従業員別に見た不動産取引業の事業所数」

 不動産流通業においては、従業者規模が10人未満の事業所が9割超を占める。その一方では、1000人以上の事業所はわずか4社に過ぎない。


■■■図表で見る「不動産業の従業員数の推移、就業者の年齢構成」

 不動産業の従業員数は133.7万人、全産業に占める割合は2.7%である。就業者の年齢構成を見ると、2015年時点で50歳代後半以上が約5割と高齢化が進んでいる。


■■■図表で見る「不動産業就業者の男女比の推移」

 不動産業の就業者の男女比率は、2015年時点で女性41.4%、男性58.6%。2015年に初めて女性が40%を超えた。


■■■官庁が「果たすべき役割」

 最後に、『不動産業ビジョン2030』が求める、官庁が「果たすべき役割」を紹介する。

(01)賃貸住宅管理業者登録制度の法制化。
(02)不動産の「たたみ方」などの出口戦略のあり方。
(03)マンション管理の適正化、老朽ストックの再生。
(04)心理的瑕疵を巡る課題の解決。
(05)不動産関連情報基盤の充実。
(06)不動産業分野における新技術の活用方策。
(07)不動産情報オープン化と個人情報保護の関係整理。
(08)高齢者、外国人等による円滑な不動産取引の実現方策。
(09)国民向け不動産教育の推進。
(10)産・学・官連携による不動産政策研究の推進。
(11)円滑な事業承継のあり方。
(12)ESGに即した不動産投資の推進方策。
(13)宅地建物取引士、インスペクションなど現行制度の検証。

 

細野 透(ほその・とおる)

建築&住宅ジャ─ナリスト。建築専門誌『日経ア─キテクチュア』編集長などを経て、2006年からフリ─ランスで活動。

東京大学大学院博士課程(建築学専攻)修了、工学博士、一級建築士。

著書に、『建築批評講座』(共著、日経BP社)、『ありえない家』(日本経済新聞社)、『耐震偽装』(日本経済新聞社)、 『風水の真実』(日本経済新聞出版社)、『東京スカイツリーと東京タワー』(建築資料研究社)、 『巨大地震権威16人の警告』(共著、文春新書)、『謎深き庭 龍安寺石庭』(淡交社)など。


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