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「斜め45度」の視点

2015年5月26日

第175回マンション標準管理規を巡る「国交省」と「総務省」の対立

 国土交通省住宅局市街地建築課マンション政策室が設置した「マンションの新たな管理ルールに関する検討会」の審議が、日本マンション学会・マンション各社・マンション管理組合・マンション管理会社などから強く反発されている。

 国交省検討会は今年3月27日に「報告書案」をまとめて、次のように結論づけた。

 一。「マンション標準管理規約」に大きく手を加える。

 二。マンション管理組合の業務を定義する第32条の中から、「地域コミュニティにも配慮した、居住者間のコミュニティ形成」という項目を排除する。

 三。管理費の用途を定義する第27条の中から、「居住者間のコミュニティ形成に要す費用」という項目を排除する。

 この「報告書案」は、5月頃に行われるパブリックコメント(意見公募)を経て、「案」が取れた「報告書」として確定。国交省は今年夏頃までに、「マンション標準管理規約」の改定を強行する見込みである。

 さて、2011年に発生した東日本大震災以降、国民・政府・自治体・地域・企業のすべてが、協力し合って次の大地震に備えなければならないと考えている。

 その核になるのが、地域では町内会(自治会)を中心とするコミュニティである。また、マンションが多い都市部では、マンション住民と地域の町内会のつながりが中核的な課題になっている。

 これを受けて、総務省の「今後の都市部におけるコミュニティのあり方に関する研究会」は、2014年3月に報告書をまとめた。

 アンケート調査(下表)を見ると分かるように、マンション住民の防災に対する意識は高い。その反面、地域の町内会とマンションの間で日頃の関係が築けていないことも多く、災害時に避難所でトラブルが起こることが懸念されている。

 

 これを受けて総務省研究会は次のように提言した。「都市のコミュニティを考える上で、マンション住民と地域の町内会(自治会)がどのようにつながるかは中核的な課題であり、調査事例等を参考として、それぞれの地域においてそのあり方について考える必要がある」。

 従来までは、マンション管理組合は地域の町内会と連携して、次のように活動してきた。

 一。マンション管理組合が管理費を徴収する際に、一緒に町内会費を集める。

 二。管理組合が指名した担当者が、町内会の連絡会に参加して、情報を交換する。

 三。町内会が防災、防犯、交通安全、高齢者の見守り活動を行うときには、管理組合もこれに協力する。

 しかし、仮に国交省検討会の思惑通りに「マンション標準管理規約」が改定されると、総務省研究会の方針に反して、上記一・二・三のすべてを実施できなくなる。その結果、町内会とマンション管理組合の関係は、一気に険悪な雰囲気になると予想される。

 大震災以降、マンション各社はコミュニティ活動に注力し、それに関する「ニュースリリース」も多数公表してきた。よって、「マンション標準管理規約」が改定されると、大きな打撃を被ることになる。

細野 透(ほその・とおる)

建築&住宅ジャーナリスト。建築専門誌「日経アーキテクチュア」編集長などを経て、2006年からフリージャーナリストとして活動。  東京大学大学院博士課程(建築学専攻)修了、工学博士、一級建築士。日本建築学会・編集委員会顧問。 ブログ『建築雑誌オールレビュー』を主宰。日経産業新聞『目利きが斬る・住宅欄』に寄稿。  著書に、『建築批評講座』(共著、日経BP社)、『建築家という生き方』(共著、日経BP社)、 『ありえない家』(日本経済新聞社)、『建築産業再生のためのマネジメント講座』(共著、早稲田大学出版部) 、 『耐震偽装』(日本経済新聞社)、『風水の真実』(日本経済新聞出版社)ほかがある。


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