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スペシャリストの眼

「斜め45度」の視点

2009年03月27日

第4回 「瑕疵担保法不況」という悪夢

 「姉歯事件」を受けて改正建築基準法が施行され、確認検査業務が厳しくなったのは 2007年6月のことだった。その直後の7月には、建築着工床面積が前年同月比23%減という異常値を記録。 世にいう「建基法不況」が始まった。

 この「悪夢」が繰り返される恐れがある。2009年10月1日に住宅瑕疵担保履行法が 全面施行されるのだが、関係業界の対応が遅れていて再び大混乱しそうな気配があるからだ。

 新築住宅を供給する事業者は、引き渡し後の10年間、瑕疵を補修する資金を確保する義務を負う。 引き渡し時期が10月1日以降の建物が対象で、賃貸のマンションやアパートも含まれる。

 資金確保の中心的な手段となるのが、住宅瑕疵担保責任保険への加入だ。これは、 新築住宅の構造や防水に瑕疵(欠陥)があった場合に備えて、デベロッパーや住宅会社などの 事業者が修繕資金を確保するための保険である。保険に加入した事業者は、瑕疵を補修した場合、 補修費をベースに算出された保険金を受け取ることができる。

 事業者は、建築確認と着工までの間に、設計図書を添えて申込書類を提出しなければならない。 この時点で防水工事の仕様を決めておく必要がある。例えば、10月2日に引き渡す予定の物件があり、 設計に数カ月、工事に数カ月かかるとすると、現時点でそろそろ設計図書を提出し終わって いなければならない計算になる。

 しかし、国交省が2008年11月に調査したところ、住宅瑕疵担保履行法の対象に賃貸のマンションや アパートが含まれることを知っている事業者は、全国平均で53%に過ぎなかったという。 こんな体たらくで新法に対応できるのだろうか。

 申込時に提出する設計図書は現場検査に使われ、図書自体を審査するわけではない。しかし、 設計者は保険法人が規定する設計・施工基準に従わねばならないとされている。要するに、 事業者が新法に備えるためには、すでに、設計者や施工者にそのことを連絡していなければ ならないのだが、どうも反応がにぶいのである。

 もうひとつの不安材料は、保険法人の対応能力である。保険法人は加入申し込み窓口と現場検査員を 十分に確保する必要があるが、「大丈夫だろうか」と心配する声が絶えない。 新たに発生する年間数十万戸の保険手続きがスムーズに進まなければ、住宅着工に急ブレーキが かかってしまう恐れがある。

 長引く不況で体力が落ちている関係業界ではあるが、新法への対応の遅れは決して許されない。 「瑕疵担保法不況」を引き起こすだけではなく、「消費者保護をないがしろにしている」と強く糾弾されかねないからである。

細野 透(ほその・とおる)

建築&住宅ジャーナリスト。建築専門誌「日経アーキテクチュア」編集長などを経て、2006年からフリージャーナリストとして活動。  東京大学大学院博士課程(建築学専攻)修了、工学博士、一級建築士。日本建築学会・編集委員会顧問。ブログ『建築雑誌オールレビュー』を主宰。日経産業新聞『目利きが斬る・住宅欄』に寄稿。  著書に、『建築批評講座』(共著、日経BP社)、『建築家という生き方』(共著、日経BP社)、『ありえない家』(日本経済新聞社)、『建築産業再生のためのマネジメント講座』(共著、早稲田大学出版部)、『耐震偽装』(日本経済新聞社)、『風水の真実』(日本経済新聞出版社)ほかがある。


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