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スペシャリストの眼

「斜め45度」の視点

2017年10月10日

第261回長谷工にため息をつかせた、日経新聞と日経アーキテクチュアそれぞれの記事

 日経新聞に9月下旬、「長谷工、連続増益に影──マンション施工に値下げ圧力」と題する記事が掲載された。顧客の不動産大手から施工コストの引き下げ圧力が強まっているため、長谷工コーポレーションの事業の先行きに影が差している、という内容だった。

 そういえば、建築専門誌『日経アーキテクチュア』は毎年秋になると、建設会社の「建築売上高ランキング」および「建物用途別売上高ランキング」を特集している。長谷工は今年、何位に入っているのだろう?

 調べると、同誌9月14日号に、2016年度決算に基づくランキングが掲載されていた。

 【A 建設会社の建築売上高ランキング】

 1位 大和ハウス工業※

 2位 大林組

 3位 積水ハウス※

 4位 清水建設

 5位 竹中工務店

 6位 大成建設

 7位 鹿島建設

 8位 大東建託※

 9位 長谷工コーポレーション

 10位 戸田建設

 長谷工コーポレーションは9位に入っている。総売上高は約5349億円、建築売上高は約3944億円だった。

 ランキングに登場した、いわゆるゼネコン各社は、他社から請け負った建築工事からの収入を「建築売上高」に計上している。一方、※を付けた3社(大和ハウス工業、積水ハウス、大東建託)は、自社で販売した戸建住宅や賃貸住宅からの収入を「建築売上高」に計上している。すなわち、このランキングには、ゼネコンとは異質なタイプの会社が混じっている。

 この特集にはまた、商業施設、宿泊施設、生産施設、住宅など建物用途別の売上高ランキングもある。ここでは「住宅(含む、マンション)」に注目する。

 【B 建設会社の住宅売上高ランキング】

 1位 大東建託※

 2位 パナホーム※

 3位 大成建設

 4位 大林組

 5位 清水建設

 6位 竹中工務店

 7位 鹿島建設

 8位 フジタ

 9位 前田建設工業

 10位 西松建設

 長谷工は「A建築売上高ランキング」で9位に入り、しかもマンション工事を得意とするはずなのに、どういう訳か、この「B住宅売上高ランキング」には登場していない。これは誰がどう考えてもおかしい。

 記事末尾のプロフィール欄に書いてあるように、私はかつて『日経アーキテクチュア』の編集長だった。

 「同誌に電話して、後輩の記者に事情を聞いてみようか?」

 「いやいや、それは止めた方がいい。いつまでも先輩面をしていると、敬遠されるだけだ」

 「それもそうだなぁ」

 自問自答の結果、電話はかけなかった。しかし、どうも気になる。「そういえば、ウェブサイトには、雑誌に掲載しきれないデータを、紹介していることがあったなぁ」と思い出して、ウェブサイトを調べて見た。

 【C ウェブサイトに記された建設会社の住宅売上高ランキング】

  1位 積水ハウス※

  2位 大東建託※

  3位 長谷工コーポレーション

  4位 パナホーム※

  5位 ミサワホーム※

  6位 大成建設

  7位 大林組

  8位 清水建設

  9位 竹中工務店

 10位 鹿島建設

 このランキングを見てビックリした。3位に長谷工コーポレーションが登場しているではないか。「なんで、こうなるの?」

 分かりやすいように、B雑誌のランキングとCウェブサイトのランキングをカラーで比較した。

  「B雑誌の住宅売上高ランキング」に登場したフジタ・前田建設工業・西松建設(紫色)の3社は、「Cウェブの住宅売上高ランキング」では積水ハウス・長谷工コーポレーション・ミサワホーム(緑色)の3社に入れ替わっている。

 ここまで来ると、もう明白である。

 「日経アーキテクチュア編集部の大ポカではないの?」

「Yes it is!」

 同編集部に与えるダメージを少なくするため、結論は英語でぼかして表現した。さて、気を取り直して、先に進むことにしよう──。

 長谷工コーポレーションの建築売上高は、「A建築全体の売上高ランキング」では約3944億円、「C住宅の売上高ランキング」では約3876億円と微妙に食い違っている。ただし同社の活動内容を考えると、建築全体の売上高は、ほぼ住宅の売上高(マンション工事の売上高)に等しいと解釈できる。

 一方、ゼネコン5社として最も好成績を占めた大成建設の場合、住宅売上高は「B雑誌の住宅売上高ランキング」で約982億円、また「Cウェブの住宅売上高ランキング」でも約982億円と一致している。

 すなわち、「Cウェブの住宅売上高ランキング」において、長谷工が全体で3位、ゼネコンとしては1位を占めるのは間違いのない事実と判断できる。

 そうすると、長谷工の関係者は「B雑誌の住宅売上高ランキング」しか見ていないと思われる点、が問題になってくる。おそらく雑誌『日経アーキテクチュア』をパラパラめくって、長谷工の名前がないことにがく然。「どうして、こうなるの・・・」と、ため息をついているのではないだろうか。誠に同情を禁じ得ない。

 最後に、冒頭で紹介した日経新聞の記事に戻ることにしよう。

 長谷工がマンション工事でダントツの1位という事実は、これまでは同社の強みと考えられていた。しかし、不動産大手各社は、「長谷工はマンション工事中心でやってきた会社なのだから、我々とは相身互いの関係にある。したがって、マンションの販売が鈍化している今こそ、我々に協力して、施工コストを引き下げてくれてもいいのではないか」と考えたのに違いない。

 すなわち、強みが弱みに転じたのである。日経新聞の「長谷工、連続増益に影──マンション施工に値下げ圧力」と題する記事は、そういう雰囲気をありありと伝えている。

 日経の記事を見た長谷工の関係者は、「厳しいなぁ・・・」とため息をついた後、苦境を打開すべく動き始めているに違いない。

細野 透(ほその・とおる)

建築&住宅ジャ─ナリスト。建築専門誌『日経ア─キテクチュア』編集長などを経て、2006年からフリ─ランスで活動。

東京大学大学院博士課程(建築学専攻)修了、工学博士、一級建築士。

著書に、『建築批評講座』(共著、日経BP社)、『ありえない家』(日本経済新聞社)、『耐震偽装』(日本経済新聞社)、 『風水の真実』(日本経済新聞出版社)、『東京スカイツリーと東京タワー』(建築資料研究社)、 『巨大地震権威16人の警告』(共著、文春新書)、『謎深き庭 龍安寺石庭』(淡交社)など。


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