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スペシャリストの眼

「斜め45度」の視点

2016年6月21日

第215回阪神大震災の復興事業マンションを1棟丸ごとリノベーション

 大京グループの大京穴吹不動産が5月から、リノベーションマンション「グランディーノ西宮・悠学の邸」の販売を開始した。この建物は旭硝子の社宅だったが、大京穴吹が2015年7月に競争入札で取得。改修工事を施して、リノベマンションとして販売する。共用部の改修工事は終了したが、専有部の改修工事は2016年春頃まで続くので、それと並行して販売を進める。

 【概要】

 所在地 ─ 兵庫県西宮市小松北町1-4-1

 交通 ─ 阪神本線「武庫川」駅より徒歩 12 分

 総戸数 ─ 70戸

 規模 ─ 地上6階

 売主 ─ 大京穴吹不動産

 改修設計 ─ 芝山コンサルタント

 改修工事 ─ オリックス・ファシリティーズ(共用部)

       パナソニックES建設エンジニアリング(専有部)

 改修工事完成 ─ 2017年春頃(予定)

 取材を申し込むと、プロジェクトリーダーの山本俊介担当課長だけではなく、東京本社から建築推進課の島津昌康課長と営業推進課の水柿可奈子主任が駆けつけてくれたので、少し申し訳ない気がしたが、そのお陰でいろいろな勉強もできた。その1つが、管理組合と入居者の関係である。

 分譲マンションの種類は大きく、A新築マンション、B中古マンション、Cリノベーションマンションの3タイプに分かれる。

 A新築マンション──ほとんどが青田売りだが、住友不動産は青田売りと完成売りを併用する。

 B中古マンション──既存マンションを1戸売りする。このとき、売主が住戸をリフォームしてから販売するケースと、購入者が自分でリフォームするケースがある。また、すでに存在する管理組合に入会する形になるので、入居者が新しい環境に慣れるまでに時間がかかる。

 Cリノベーションマンション──売主が、既存の分譲マンションや賃貸マンションを1棟丸ごと購入して、共用部や住戸(専有部)を修復・刷新する。中古マンションとは違って、専有部だけではなく共用部も刷新・修復されるため、「新しい」感じがする。また新たに管理組合が構成されるため、入居者が同じ立場になってなじみやすいし、コミュニティが形成されやすくなる。

 その結果、「せっかく入手したマンションなのだから、何とか長持ちさせるために、きちんとメンテナンスしていきましょう」という気持ちが盛り上がって、長期修繕計画が推進しやすくなる面がある。

 もう1つが、どこまで修復・刷新するかという、「さじ加減」である。徹底して修復・刷新するやり方で知られるのが、建築家で首都大学東京特任教授の青木茂氏が開発した「リファイン建築」という方法だ。

 これは、古い建物の外装、内装、設備を徹底的にそぎ落とし、残った構造躯体(柱、梁、壁)を修復・補強した後に、改めてデザインし直して、新築同然に変えるやり方だ。リファインとは再生の意。建物の躯体を再利用するため、コストを新築の60~70㌫に抑えられるし、廃棄物の量が減るので環境負荷も少ない。また、用途変更が容易であるうえ、内外観ともに新築と同等の仕上がりになる。

 一方、大京穴吹不動産のリノベマンションは、物件ごとにその現状を精査して、どの個所をどの程度、修復・刷新するかを決めていく。「グランディーノ西宮」の場合には、確認検査機関に依頼した調査で「構造的には問題がない」と判明した。よってリノベの基本方針を外装の刷新、共用部のバリューアップ、セキュリティの向上、住戸の内装や設備の刷新などに置いた。

 「グランディーノ西宮」は1997年に、阪神大震災後の住宅不足を補うため、震災復興事業として1997年に完成した。設計者は佐藤総合計画、施工者は東急建設と一流で、監理は住宅都市整備公団が担当した「安心物件」だったのである。そのため販促資料には、「大手企業元社宅、小学校徒歩2分・中学校徒歩7分、全戸80平米超、全戸南向き、自走式駐車場100%」など勢いのあるキャッチコピーが並ぶ。

 実はそれだけではなく、共用空間も充実している。住まいの顔であるエントランスに入ると、駐車場のある裏庭まで気持ちのいい空間が続いている。また旧集会室にはスタディコーナーやライブラリを設置している。庭にはサークルベンチが置かれている。 

 正面エントランス

 エントランスホール

 裏庭側のエントランス

 住戸内の1例

 「グランディーノ西宮・悠学の邸」は、「グランディーノ稲毛海岸」(2013年6月販売、千葉県千葉市美浜区、総戸数23戸)、「グランディーノ多摩ニュータウン永山(2014年2月販売、東京都多摩市、総戸数30戸)に続く3棟目のリノベーションマンションになる。

 なお、同社には、1棟丸ごとのリノベマンションとは別に、1戸単位のリノベーション住戸にアフターサービス保証を付けた、「Renoα(リノアルファ)」と呼ばれるブランドがある。こちらは買取りから企画、施工、アフターサービスまでの段階で「明確な基準設定」と「入念なチェック」を行う仕みが評価され、実績戸数も多く、2015年度グッドデザイン賞を受賞している。

細野 透(ほその・とおる)

建築&住宅ジャーナリスト。建築専門誌「日経アーキテクチュア」編集長などを経て、2006年からフリージャーナリストとして活動。  東京大学大学院博士課程(建築学専攻)修了、工学博士、一級建築士。日本建築学会・編集委員会顧問。 ブログ『建築雑誌オールレビュー』を主宰。日経産業新聞『目利きが斬る・住宅欄』に寄稿。  著書に、『建築批評講座』(共著、日経BP社)、『建築家という生き方』(共著、日経BP社)、 『ありえない家』(日本経済新聞社)、『建築産業再生のためのマネジメント講座』(共著、早稲田大学出版部) 、 『耐震偽装』(日本経済新聞社)、『風水の真実』(日本経済新聞出版社)ほかがある。


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