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スペシャリストの眼

「斜め45度」の視点

2014年7月8日

第144回マンションデベロッパーの前途多難

 今年の前半は首都圏を中心に、大手デベロッパーと大手建設会社が手がけた分譲マンションで、相次いで施工不良が確認された。

 1月─大事件

 「ザ・パークハウスグラン南青山高樹町」の施工不良。

  700個所以上のスリーブ不足発見。販売中止、解体、建て直しへ。

  分譲主─三菱地所レジ、設計─三菱地所設計、施工─鹿島建設。

 3月─小事件

 「グランドメゾン白金の杜ザ・タワー」の施工不良。

  地下の柱19本が鉄筋不足。補強筋を取り付けて再打設。

  分譲主─積水ハウス、設計・施工─大成建設。

 3月─小事件

 「パークタワー新川崎」の施工不良。

  工事中に、柱や梁の一部に亀裂。一部を再施工。

  分譲主─三井不レジ、設計─松田平田設計、施工─清水建設。

 6月─大事件

 「パークスクエア三ツ沢公園」の施工不良。

  杭の施工不良により住棟が傾く。買い取り、解体、建て替えの見込み。

  分譲主─住友不動産、設計・施工─熊谷組。

 このうち、1月に判明した「ザ・パークハウスグラン南青山高樹町」問題は、10?20年に1度の大事件として社会を騒がせた。ただ、それに続く「グランドメゾン白金の杜ザ・タワー」と「パークタワー新川崎」の施工不良は、瑕疵の程度が低くて簡単に手直しできたため、問題はすぐに収束した。

 「やれやれ」と思っていたら、6月8日になって全国紙は一斉に、新たな大事件を報じた。住友不動産が2003年に分譲した横浜市西区のマンション「パークスクエア三ツ沢公園」で、建物を支える杭の一部が固い支持層まで届かず、住棟がわずかに傾斜していると判明したのである。原因は、設計・施工を担当した熊谷組のボーリング調査が、不十分だったこと。

 筆者はこの道30年以上になるが、マンションの施工不良を巡る大事件に、1年に2回も遭遇したことは、2005年に発覚した「耐震偽装事件」を除いて記憶がない。

 施工不良問題はこれで収まるだろうか。いや、建築専門誌『日経アーキテクチュア』5月25日号の特集「品質崩壊の足音」によると、問題が今後、さらに深刻化する可能性を否定できない。

 同誌は建築実務者360人にアンケート調査している。

 問─最近3年間で、品質トラブルに直面したことはあるか?

 答─ある47.5パーセント。

 問─今後、日本で建築品質トラブルが増えると思うか?

 答─増える86パーセント。

 問─品質が低下している原因はどこにあると思うか?

 答─1位・職人が足りない72パーセント。

   2位・コスト削減の要請が厳しい65パーセント。

   3位・施工管理者のスキルが低下している64パーセント。

   4位・施工管理者が足りない56パーセント。

   5位・設計者のスキルが低下している52パーセント。

 品質トラブル、特に主要構造体の欠陥は、建物にとって命取りになるのだが、次のようなケースが紹介されている。

 「マンションにユニットバスが納まらないとして、職人が勝手に大梁をはつった」。「設備サブコンが無断で躯体に開口を設けた」。「梁の位置が図面と違っていた」。「柱筋のサイズを間違えた」……。

 マンションデベロッパーにとって、前途多難な時代が訪れようとしているのかもしれない。本格的に身構える必要がある。

細野 透(ほその・とおる)

建築&住宅ジャーナリスト。建築専門誌「日経アーキテクチュア」編集長などを経て、2006年からフリージャーナリストとして活動。  東京大学大学院博士課程(建築学専攻)修了、工学博士、一級建築士。日本建築学会・編集委員会顧問。 ブログ『建築雑誌オールレビュー』を主宰。日経産業新聞『目利きが斬る・住宅欄』に寄稿。  著書に、『建築批評講座』(共著、日経BP社)、『建築家という生き方』(共著、日経BP社)、 『ありえない家』(日本経済新聞社)、『建築産業再生のためのマネジメント講座』(共著、早稲田大学出版部) 、 『耐震偽装』(日本経済新聞社)、『風水の真実』(日本経済新聞出版社)ほかがある。


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